「母親はもっと子どもと向き合うべきだ!」とよく言われます。現代の親はすぐに子どもを保育所に預けるなど、子どもと離れることが多いと批判的に指摘されることもあります。
でも、本当に正面から向き合うかかわりだけが、よいことなのでしょうか?
うしろ姿にも、子どもは親の愛を感じる。
10,780 View書籍「子育てを元気にすることば-ママ・パパ・保育者へ。」(著:大豆生田啓友)より、全3回にわたり、“気持ちをラクにしてくれるようなことばとエピソード”をご紹介します。第1回目は、「子どもへの関わりかた」について。
「まむき、よこ顔、うしろ姿、と三つ並べて、それは素より別々の母の姿ではない。
一人の母がもつ三様の態度に、それぞれ貴重な教育価値を認めるのである。」
これは、「日本の幼児教育の父」と呼ばれる、倉橋惣三が残した言葉です。
彼は大正・昭和初期に活躍した幼児教育学者で、わが国の幼児教育の基礎を築き、その発展に最も大きな影響を与えた人物です。
その倉橋は、親と正面から向き合う「まむき」に加えて、「よこ顔」や「うしろ姿」のかかわりの大事さを伝えています。
たしかに「まむき」は大切です。
“子どもと一緒に遊ぶ” “絵本を読んであげる”など、親がわが子のために真剣に向き合った体験は、言うまでもなく、子どもが「愛された」と感じるようになる大事なかかわりです。
子どもの求めに丁寧に応じることの大切さは、研究でも明らかになっています。
しかし、それと同時に「よこ顔」も大切です。
最近では、横並びで同じ物を見合うような大人のかかわりが大切であると言われています。
子どもがきれいな草花を見つけ、指さしをする方向を、横並びで一緒に見るような体験ですね。また、食事の準備の手伝いを子どもも一緒にするというのも、横並びと言えます。
子どもは親の「よこ顔」を見て、幸せを感じています。
そして、倉橋は「うしろ姿」も大切だと言うのです。
たしかに、かつては「父親のうしろ姿」ということも言われました。毎日の仕事でがんばる父親のうしろ姿から、子どもは自分への愛情を感じていたのです。
現代においては、母親も同じだと思います。でも、多くの親の働く場所は会社などのため、なかなか見えにくいものです。
子どもは毎日を懸命に過ごしている親のうしろ姿から、自分への愛情を感じているものです。ですから、子どもを保育園に預けていることを、あまり不安に思う必要はないのかもしれません。
でも、子どもと向き合う時間が少なく、愛情が伝わっていないのではないかと不安を感じる方もいるでしょう。
そうであれば、子どもと向き合う時間の長さよりも、質を大事にしてはいかがでしょうか。
園から家に帰って、一つだけ子どもの好きな遊びを一緒にする時間をとったり、寝る前にぎゅっと抱きしめたりするなど、しっかりと向き合う時間をとるのです。
子どもにしてみたら、こんなにうれしいことはありません。
倉橋惣三『育ての心(上)』131頁、フレーベル館、2008年
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