産婦人科医が解説!無痛分娩の基礎知識~デメリットとメリットを知ろう~のタイトル画像
公開 2015年11月02日  

産婦人科医が解説!無痛分娩の基礎知識~デメリットとメリットを知ろう~

4,703 View

現在日本では3.5%程度と、かなり浸透率が低い『無痛分娩』。前回は無痛分娩の歴史を中心に基礎知識を記事にしましたが、今回はデメリットやメリットについて細かく説明します。


前回記事のおさらい:無痛分娩で選択される麻酔方法は?

以前は全身麻酔での無痛分娩も試みられていましたが、副作用が胎児にも影響する可能性が十分にあるため、現在では「硬膜外麻酔」という薬を使用するのが一般的です。この麻酔は帝王切開術でも使用されているもので、脊椎に局所的に効果を発揮する方法であるため、胎児への影響もほとんど無いと言っていい麻酔方法です。

使用される薬剤も帝王切開とほぼ同じ様なもので、痛みの程度や本人の希望によって薬剤量を調整します。特に分娩が進行してくると痛みの位置がより下に推移するため、薬剤量を増やしてしっかりと麻酔を効かせる必要があります。

無痛分娩のデメリット

~硬膜外麻酔自体のデメリット~
硬膜外麻酔の針は、1㎜前後の比較的太いものです。この針を背中から硬膜外腔という場所をめがけて刺します。実は私自身も手術経験があって、この麻酔を受けたことがありますが、見えない場所から針を刺される恐怖心はなかなかのものです。

それはさておき、針を刺した時に硬膜外付近の血管を損傷して、まれに血腫ができることがあります。さらに重症化する事が非常に低い頻度で存在します。場合によっては麻痺が残ってしまう事もあります。さらに脊椎を包むクモ膜を損傷してしまい、脊椎液が慢性的に漏出して頭痛や吐き気を呈す低髄圧症候群を引き起こす可能性もあります。ただしこれらの合併症は、帝王切開時の麻酔でも全く同様の事が起こり得ます。

産婦人科医が解説!無痛分娩の基礎知識~デメリットとメリットを知ろう~の画像1

~麻酔薬によるデメリット~
人間誰しも、薬剤を使用するときにはアレルギー反応を起こす可能性があります。また麻酔薬特有の副作用として「痒み」を強く感じることもあります。これらは使用する薬剤にもよりますが、場合によっては体に合わないこともありえます。

さらに、麻酔薬が効きすぎると、足の感覚がかなり鈍くなることがあります。歩いたりする時は看護師・助産師さんの手伝いでなんとかなりますが、普段とらないような体勢や体位変換を頻繁に行わない事で、足に一時的な麻痺が起こってしまう事があります。そのため麻酔管理中は、ベッド上でも良いので頻回に足を動かすなどの工夫が必要です。

~分娩への影響~
お腹の赤ちゃんへの影響は、麻酔薬自体にはほぼ無いと言って差し支えありません。ただ、麻酔薬によっていきみが弱くなりやすく、分娩所用時間が長くなりやすくなります。帝王切開になる率は通常のお産と変わらないと言われていますが、麻酔によって産道が弛緩するためか、鉗子分娩や吸引分娩になる率は若干上昇するといわれています。

無痛分娩のメリット

~陣痛の痛みを和らげる事ができる~
最大のメリットです。前回記事では疼痛スコアで、指の切断くらい痛みを伴うと言われている出産の疼痛を和らげる事ができます。ただし、完全に無痛とはならない事が多いです。しかしながらきちんと疼痛コントロールできた時の満足度はかなり高いです。

~産道損傷が軽くなりやすい~
麻酔の効果によって産道の筋肉が弛緩するために、産道が広がりやすくなります。デメリットの部分で解説したように、これが原因で鉗子分娩や吸引分娩になる確率が上がってしまうのは確かですが、産後の傷が小さくなりやすいのも1つの特徴です。

~傷の縫合に局所麻酔が必要ない~
お産経験者に話を聞くと、産後の会陰裂傷や膣壁裂傷の縫合時の痛み、つまり局所麻酔をされたり針で縫われたりする痛みは、出産時とまた別物のようです。これらの痛みは、無痛分娩による麻酔下ではかなり軽減されるため、産後の処置についても大きなメリットがあります。

産婦人科医が解説!無痛分娩の基礎知識~デメリットとメリットを知ろう~の画像2

~産後の体力回復が早い~
諸外国では産後1~2日目に退院するケースが多いのですが、日本ではそうはいきません。やはり無痛分娩による出産の方が回復は早いです。

~緊急帝王切開の麻酔所用時間が大幅に早くなる~
現在日本のお産は、約5人に1人が帝王切開によるお産です。仮に分娩進行中に胎児や母体に異常を呈した場合、緊急で手術が必要になることも多いです。そのような場合はなるべく早期に麻酔を行う事が重要なのですが、無痛分娩の麻酔はそのまま使用できるので大変大きなメリットになります。

まとめ

以上のように、無痛分娩には様々なメリットとデメリットがあります。きちんとした情報を得て分娩方法を選択する事が大切です。次回は、無痛分娩がなぜ日本に浸透しないのか?を解説します。

Share!