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公開 2023年07月26日  

夏休みは波瀾万丈!仕事する横で強力粉が舞う、午後3時

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子どもたちが元気いっぱいで脳が痺れる夏休みです。強くなりたい。


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去年の夏休み、私は新しいステージに到達したのだと思っていた。

あの夏、長女が小4、長男が小2、末っ子が年長さんだった。

聞き分けのよくなった長女、お兄さんらしく落ち着いた長男、真面目で頑張り屋さんの末っ子。

それなりに体力が必要な側面は度々あったけれど、なんというか統率がとりやすく、日々それなりに段取りよく進んでいった。

ああ、これはあの途方もないいくつもの夏を乗り越えた私が到達した新しいステージに違いない。

そう信じて疑わなかった。

あとは、長女が中学生になって部活だの夏期講習だのに追われるようになるまで、穏便に夏を過ごすものだと思っていた。


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ところがだ、今年の夏休みがとんでもない。

なにがこんなにしんどいのか分からないまま数日が過ぎ、今、これはそうか、なるほど、と合点がいった。

合点がいったけれど、解決方法は一つも見えていない。


この1年ですさまじい成長を遂げた末っ子の躍進が止まらない。

日々、元気いっぱいでやる気に満ちている。

もともと我が家には生命力の塊みたいな長男がいるのだけど、どうやら末っ子もそちらの類だったらしい。

急成長を遂げた末っ子は、今、生きる意欲に満ち満ちている。

満ち満ちすぎて日々が非常にせわしなく、そして、搾り取られている。

私が。

常に新しい喜びへ向かって彼女は突き進んでいる。


例えば今日。

夜明けとともに目を覚ました末っ子は私が布団から這い出したらもう、エンジン全開だった。

まずは待ってましたとばかりに、分厚い絵本を持ってくる。

「これ読んで~!!」

お母さんなのに起きるのが子どもより遅くてごめんね、そんな後ろめたい気持ちに首根っこを掴まれて、しゃがれた声で読む。

いつもいったいどうやって読んでいたのか思い出せないほど抑揚もない。

がさついた声でとりあえず1章読んだ。


「朝ごはんはフレンチトーストがいいの~!」

はいはい。

食パンも卵も今日は潤沢にありますし、いいでしょう。

「末っ子がつっくるね~!」

朝からやる気いっぱいで羨ましい。

お母さんは寝ても寝ても疲れが取れないので、寝起きから疲れているんだよ。

そういえばつい先日、夜寝る前に「明日は元気いっぱいで起きてきてね!いつも『おはよ……』って元気ないんだもん!」と末っ子に言われた。


申し訳ないことだけれどもこればっかりはどうしようもない。

物心がついてから朝すっきり起きられたことがないのだ。

どうして我が家の子どもたちはみんな抜群に寝起きがいいのか、不思議で仕方がない。


見境なく卵を割り始める末っ子。

受けるボウルもないのになぜ卵を割るのか。

働かない頭に鞭を打って、ガチャガチャとボウルを取り出して、ぼんやりとアシストしながらどうにか朝食をこしらえる。

みんなが食べている間に桃を切っていると、3人そろって歓声をあげてくれた。

みんな本当に朝からとても元気。


朝食を食べたら、みんなで宿題をやるのがここ数年の夏休みルーチン。

私はその間に仕事を、と毎日思うのだけど、3人いるとそうもいかない。

誰かが常に質問を携えてやってくる。

丸つけをしてやって、間違えたところを教えてやって、あっという間に午前が過ぎてゆく。

とは言え、この宿題の時間が一日の中で一番平和なのだ。

おのおの、席にきちんと座って、黙々とやることをやってくれる。

私の理解の範疇にいてくれるこの時間がただ癒し。

長男と末っ子がはしゃぎ倒してじゃれまわって、気が付いたら末っ子のかかとが長男の鼻をクリティカルヒットして鼻血が出る、みたいなわけのわからないことが起きないという安堵に身を委ねていられる。


宿題を終えて、おもむろに工作を始めた末っ子がなにやら色画用紙が必要なのだと言い出した。

そんなこと急に言われたって、はいどうぞと出てきたりはしない。

今すぐ買いに行くなんて絶対に嫌だ。

あーだこーだと押し問答しているうちに、末っ子が

「だって!今!いるの~!」

と手に持っていたお絵描き帳をご機嫌に振りかざしたら、それが手からスポンと抜けてテーブルの上のコップにアタックした。

机の上に広がる液体。

パソコンを即座に救出して末っ子にテーブルの上を拭くように言った。

言って私は心を鎮めるために脱衣場へ。


私が唯一休まる場所。

それが脱衣場。

脱衣場の床に転がって床の冷たさに体を溶かす。

きれいとか汚いとかそんなことは関係ない。

私には今脱衣場の床の冷たさが必要なのだ。


畳みかけた洗濯物を枕にしてしばし瞑想して昼食を作る英気を奮い立たせた。

大丈夫だ。

こぼれたのは水だし、パソコンは無事だったし、なにも問題はない。

リビングに戻ると少ししゅんとした末っ子がお絵描きをしていた。


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肉と野菜を切って炒めて、あれこれ残り物、もとい作り置きを寄せ集めて昼食に。

常々思うのだけど、「作り置き」と「残り物」の境界ってとても曖昧だ。

一度食卓に出したものは残り物なんだろうか。翌日の分も見越して作ったおかずは作り置きと呼んでいいのだろうか。

「作り置き」と「残り物」では印象が全然違う。

住む世界線が全然違う。「残り物」と呼ばれるすべてを私は「作り置き」と呼んであげたい。

という余談。


ぼんやりした頭で作った炒め物が美味しかった試しなんて一度もない。

今日もやっぱりそうだった。

ひとつも美味しくないそれに焼き肉のたれをかけてどうにか、みんなの腹の中へ。


いい加減ママは仕事をするので、と言い置いて、彼らも元気によいお返事をして、再びパソコンを立ち上げるのだけど、なぜ、すぐに、忘れるのか。

末っ子。


「お弁当屋さんをやりたいんだけど~、ちょっっっとでいいから来て。ちょっっっっとでいいの~!1回でいいの~!」

ご機嫌な笑顔が眩しい。

「いや、でも」

お母さんは仕事が溜まる一方で。

「だぁーいじょぶだいじょぶ!ちょっっっとだから!」

なにそのスクランブル交差点の謎勧誘みたいな口調。

どこで覚えたの。

押しの強さは彼女の才能かもしれない。

押しに弱い私に漬け込むのが上手すぎる。

お弁当屋さんの窓口らしき段ボールのゲートの前に座ったら、あれよあれよと段ボールゲートのメンテナンスの相談が始まり、「いや、だからここが弱いから仕方がないよ」と説明しいるうちに、しっかり修繕をやる流れになっていた。

割り箸をセロテープでひたすらゲートに貼りながら、どこへ向かっているのか気が遠くなる。

「ちょっとこっち持っててね!こっちは末っ子が貼るから!ママは支えてて!すーぐ終わるから!」

みるみる蘇る段ボールゲートに高揚する横顔が眩しい。

しゃんと立ち上がった段ボールゲートの前で末っ子の丁寧な接客を受けて、ようやく仕事を再開した。


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パタパタとキーボードを打っている横で、長男と末っ子がなぜなの、パン作りをすると言い出した。

それはいったいなんの脈絡なのか。

「いや、今日は無理よ」

もう15時ですし。

お母さん忙しいですし。

「だいじょうぶ!ふたりでやるから!!!」

ご機嫌な笑顔がふたつ。

楽しそうでとっても嬉しいのだけど、違う、今じゃないし、ふたりだけでは惨事しか招かない。

「分かった!長女を呼ぶ!」

と長男によって召喚された長女は「え、できないよ」と漫画を片手にあっさり2階へ引きこもった。

キーボードを引き続き叩く私の横にずらりと並ぶ強力粉その他。

「ねえ、また今度にしよう」

お願い、今ここで始めないで。

常に危機に晒されている私のパソコン可哀そう。

「だーーーいじょうぶ!ふたりでできるから!!」

仮にそうだったととしても、そこでやらないでほしい。

ねえお願い、そこで、ねえ、計量を始めないで。

目の前でこぼれる強力粉、目盛りをまともに読めない低学年チーム。

片手が、目が、ああ、パン作りに奪われていく。


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なにかの詐欺みたいに、私はやっぱりパン作りに加担することになり、気づけばキッチンでパン生地を捏ねていた。

みんなで成形をして、夕飯には美味しい焼き立てパンを頂いた。


その後もご機嫌な末っ子と元気が弾ける長男はすこぶる絶好調で、末っ子は宿題の計算カードを1枚めくるごとにポーズを決めるし、長男は風呂に行くだけ、服を脱ぐだけで、腹の底から意味の分からないかけ声を出す。

なにを食べたらそんなに元気でいられるのか教えてほしい。

みんな元気でほんとうに喜ばしいのだけど、次々と予想もしないことに対応をし続けてお母さんは脳が痺れてしまう。

一日中宿題をしてくれていたらさぞかし平和だろうと思うのだけど、宿題もそのうち尽きるし、座学だけで一日を終えるのも忍びない。

だけど、彼らの生命力が右肩上がりで、体力が落ちるばかりの私はどうやって立ち向かっていけばいいのか。

いつか、あれはなんだったんだろうと思うほど彼らも静かになるんだろうか。思春期には「なにも話してくれなくて」と寂しく思ったりするんだろうか。

とりあえず早急に体力がほしいので、本格的な筋トレをして夏を乗り越えたいと思っている。

強くなりたい。


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