子育てしながら、自分が高熱になった時のつらさと言ったら…。 / 第8話 sideキリコのタイトル画像
公開 2018年03月02日  

子育てしながら、自分が高熱になった時のつらさと言ったら…。 / 第8話 sideキリコ(2ページ目)

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4年ぶりの仕事の〆切の土曜日。原稿を仕上げるつもりでいたキリコだが、満が突然出勤することに。気合で子連れ取材に出かけるも失敗し、帰宅後、奏太が発熱。小児科に連れて行くと気管支炎と診断されてしまう。私のせいだ…後悔するキリコは原稿を仕上げることを断念し、RAIRAの神林に電話をする。妊娠するまでずっと仕事をしてきたけれど、こんなことは初めてだ…。


   「キリ?」



声をかけられて、うっすら目を開けると、夫はもうお風呂に入った後のようだ。


キリコ 「んー…」

   「大丈夫? 顔赤いけど」



夫の手が私のおでこに触れる。ひんやりして気持ちがいい。



   「おでこすごい熱いよ?」

キリコ 「んー…」

   「ほら、体温計。熱はかって。」

キリコ 「んー…」



――ピピッ

脇に挟んだ体温計が音を鳴らし、私の体温が38.9度だということを教えてくれた。



   「…うわ、熱あるじゃん」

キリコ 「………」



奏太のがうつったのかな? …いや、たぶん久しぶりに仕事抱えて気を張ってたから、それが一気に緩んだんだ。

うん、前にもこういうことあったな。


独り身の時は、宅配ピザとか頼んでさ、寝てればよかったし。結婚してからは夫が看病してくれたけど。



親になってから高熱出すとさ、ホント地獄。

どんなにつらくたって、育児と家事があって、それを放り出して寝ていたくても、出来ない。

ママに甘えたくて寂しがるわが子をほっとくわけにもいかないし、洗濯をしないと、熱で汗だくになったパジャマの替えがなくなってしまう。


ご飯がなければ空っぽの胃で薬を飲まなくちゃいけなくなるし、

月の食費を考えると家族全員分の出前ばかり取ってはいられない。

はぁ…。不幸中の幸いなのは、明日が日曜だという事。夫が休みで良かった。



   「39度近いって…まさかインフル?」

キリコ 「いや…予防接種したし…違うと思いたい。…うぅ、今度は寒気がしてきた」

   「……どうしようかな、俺は明日も休日出勤だし」

キリコ 「……え?」

   「明日も行かないとでさ」

キリコ 「はーーーー? だって明日日曜日…」

   「だから新規事業立ち上げ担当なんだって。明日は作業場の内見があって」

キリコ 「…だからって言われても…しらんわ」



ムリムリ。この状況ムリ。



   「…母ちゃん、来てくれるかな…。もう仕事してないんだし、大丈夫か。ちょっと電話してみるわ」



おいおーい。ムリポイントを増やさないでくれませんか。

え、発熱プラス義母・真由美登場? 余計、熱出るわ。



キリコ 「……ちょっとやめてよ」

   「どうして?」

キリコ 「…どうしてって…気を遣って疲れるに決まってるじゃん」



あなたにとっては大好きなお母さんでも私には他人ですから! ね!



   「そんなこと言っても、どうするの? 2人に何かあったら困るよ」

キリコ 「…じゃあ休んでよ」

   「………子どもみたいなこと言うなよ。電話しとくからね」

キリコ 「あー、ちょっと…!」



思い切り腕を伸ばし、立ち上がろうとする夫を捕まえようとしたけど、体の節々が痛すぎて、私の腕はまったく上がらなかった。

やめて、やめて、やめてぇぇ…。


子育てしながら、自分が高熱になった時のつらさと言ったら…。 / 第8話 sideキリコの画像1



――日の光でふと、目を覚ますと体調は最悪だった。

喉は痛いし、頭もつぶれるように痛い。汗で体はべたついてるし、鼻詰まりもひどい。

隣で寝ていたはずの奏太がいない。

手元のスマホを見ると、「9:09」と表示されている。



キリコ 「…あ、れ、パ、パ、し、ご、と、げほっ! げほっぉお!」



私は起き上がれず、寝室を這って出る。貞子風な登場でリビングに行くと、夫がさんさんと太陽の光が降り注ぐベランダでお客用の布団を干していた。


あぁ電話したのね…。それ、真由美のために干してる布団なのね…。



奏太  「あ、ママ。大丈夫?」



おでこに冷えピタを貼った奏太がこたつに入ってゼリーを食べている。



キリコ 「…ダメェ。ゲホッ、ゲホッ」

   「起きて来なくていいのに。俺が行くまで寝てなよ。奏太、ほら、薬」



ベランダから戻った夫が私を見ずに言う。忙しそうだな。



奏太  「えー、にがいの?」

   「苦いの?」

キリコ 「…甘いよ、ゲホッ、ゲホッ」

   「甘いって」

奏太  「じゃあのむ」

キリコ 「ねぇ…お義母さん…」

   「もう向かってる」

キリコ 「……あのさ」



私の言いたいことを聞かず、先回りして夫が口を開く。



   「子どもみたいなこと言わないで。あと1時間くらいで着くって。俺も出来るだけ早く帰るからね。わかった?」

キリコ 「……う、うん」

   「奏太、ママ、お熱出てるからちゃんとおばあちゃんの言うこと聞いてね?」

奏太  「うん! おばあちゃん、ぼくんちにおとまり?」

   「そう」

奏太  「やったー!」



小児科でもらった薬が効いたのか、奏太は元気になってる。一方の私は…。



キリコ「…39.1。上がっとるやん…」



これは何の試練でしょうか。この先に何かいいことありますでしょうか、神様。




――それから奏太の見たいテレビを流しつつ、私は寝転がった状態で、奏太の車遊びに付き合った。

もう泣き出しそうなほどしんどくて、しんどくて、「奏ちゃん、ママもうだめだわ」と言ったところでインターフォンが鳴った。

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奏太「おばあちゃんだ!」


正直、助かった、と思った。義母の相手は面倒だけど、ちょっと今は猫の手も借りたい。

奏太が飛びきりの笑顔で玄関に走り、鍵を開けると、そこにはたくさんの袋を持った義母・真由美が立っていた。



真由美 「こんにちは~。奏ちゃん!」

奏太  「おばあちゃん! きたの? ぼくんち、きたの?」

真由美 「来たよ~」

奏太  「しんかんせんできたの?」

真由美 「うん。ママは?」

奏太  「いるよ! お熱出てるの」



ふぅ。私は小さく息を吐き、しんどい体を起き上がらせ、玄関に向かう。得意の外面を発揮しなくては。

義母と奏太と高熱のわたし。初めての状況を私はどうやって乗り切るのだろうか――。

夫よ、早く帰ってきて…。

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▶︎▶︎ 次回、第9話は、3/6(火)20時公開予定!

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※ この記事は2024年04月15日に再公開された記事です。

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