これは、わたしが外来で使っている、おもちゃたちです。
それぞれのおもちゃは色々な意図があって用意しています。
・はたらく車、かっこいい電車…指差し、「ちょうだい」を引き出す
・つみき…指先の動きをみる、色をわける
・いちごとばなな…「どっちが好き?」をきく
・ごつごつボール…一緒に触感を楽しむ
・砂時計…上の砂がなくなるまで、座っていられるかな
子どもの育ちに合わせて、力を引き出したり、お家での関わりのヒントになるように、と考えて揃えています。
今回紹介するのは、写真左上にある「瓶のボール」。
蓋がしっかりした瓶に、ピンポン玉が入っていて、思わず開けて中身に触りたくなるような、そんな見た目をしています。
これはピンポン玉を取り出したいけどうまく開けられない子から、「あけて」という一言を引き出すひとつのヒントとしてよく活躍しています。
その日も、発達を診ている3歳のDくんの診察でこの瓶を使おうと思っていました。
けれども、わたしがDくんに見せるより前に、真っ先におもちゃたちに気がついたのは、診察についてきていたDくんのお兄ちゃんでした。
「ねぇこれなに?何に使うの?」と瓶を指さして尋ねてくれます。
「これはね、中のボールがほしくなったときに、取り出せるかどうかみたり、取り出せなかったらお願いしてくれるかみたりするときに使うんだよ。」
と、説明しながら、お兄ちゃんに瓶を渡してみました。
するとお兄ちゃんは、ふーん…としばらく瓶を眺めてから、
「じゃあ、ゆるくしめておこうね」
と瓶のふたをゆるめて、弟に渡したのです。
「自分であけられるかどうか」、「あけて、とお願いできるかどうか」ということではなくて、
”できにくいことを、できやすくして”渡してくれたお兄ちゃん。
Dくんは嬉しそうに瓶をあけてピンポン玉を取り出し、床に落としました。
お兄ちゃんはそれを拾って、「あけられたねー!」と満面の笑みで弟を褒めます。
お母さんもDくんも嬉しそうに笑いました。
目の前の男の子が、療育の基本のひとつである、”大きな課題はできそうなスモールステップに分けて、できる部分を支えることで、子どもの自信を育てる”ということを目の前でやってみせてくれたことに、私は息をのみ、胸がいっぱいになりました。
子どもたちと関わるときに、「できないことができるようになってほしい」、「なにか新しくできることが増えてほしい」と感じて行動するのは、自然なことだと思います。
そしてそう思うあまり、「ちがうよ、こうでしょ」「◯◯のほうがいいんじゃない」と途中で声をかけて誘導してしまったり、他の子と比較をしてしまうこともあるかもしれません。
でも、子どもは少しづつ成長していくものです。
このお兄ちゃんがしてくれたように、「もう少しでできる」を探し、「ちょっとだけやりやすくする」。
そんな見守りかたや関わりかたが、実は子どもたちの“できた”を引き出すきっかけになるのではないかと思うのです。
大きなジャンプにやきもきすることから、小さなステップで大人がお手伝いできることはあるかな、という視点に切り替えてみると、
子ども自身も、周囲の大人も少しだけ気持ちが楽になり、「できた!」の笑顔が増えるかもしれませんね。