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公開 2015年10月15日  

知らなかった!アンジェリーナジョリーで話題の「養子縁組」、日本での偏見・差別はまだまだ根強い?

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シリア難民が話題となっている中、先日、アンジェリーナジョリー夫妻が、シリア難民孤児を養子として引き取る計画があるとニュースが報じられました。夫妻はすでに3人の養子を育てています。
養子というと、こうしたハリウッドセレブの話題が多いのですが、日本では養子という選択はないのでしょうか。養子について、私自身が取材した経験から考えてみました。

出典:http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10250003590

目次 日本にもある、養子の制度とは?
日本で養子は“人さまに言いにくい”!?
「子どもが欲しい家族」「子どもが育てられない家族」マッチングの実態は?
親権の整理や書類の手続きで2年間が経ってしまった事例も
養子縁組に対する「偏見」と「差別」
養子に出した側のキモチを考える
意外とハードルが高い!養子を迎える資格とは?

日本にもある、養子の制度とは?

養子縁組というと、アンジェリーナジョリーさんら、ハリウッドセレブのニュースとして報じられることが多いのですが、日本にも養子の制度はあります。

例えば、1988年に民法改正によって認められた「特別養子縁組制度」。

「特別養子縁組」では、戸籍上「長女」「長男」といった記載で養子を迎えることができます。

民法改正前は、戸籍に「養子」の文字が残ってしまう「普通養子縁組」だけでしたが、いまは「出産した子ども」と変わらぬ記載になっています。 また、実質的な親子関係になる養子とはちょっと違いますが、「里親」制度もあります。里親とは、ある一定期間、子どもを家庭に預かること。

東京都福祉保健局のサイトを見ると、

さまざまな事情により家庭で暮らすことのできない子供たちが約4,000人います

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とのこと。養子縁組を目的とせずに、里親として、こうした子どもを家庭で預かることもできます。

ちなみに、東京都の場合の「里親」認定基準はこちらです。

日本で養子は“人さまに言いにくい”!?

制度はあるものの、実際に養子で縁のあったお子さんを育てているご家庭や、養子に出したという話を身近で聞いたことがある方は、ほとんどないのではないでしょうか。

わたしは実は、養子で子どもを育てたいと願っている一人。

今年41歳になりましたので、もう自然妊娠は難しい年齢なのですが、せっかく長野に移住をしまして、子育てにおける住居問題は解決しましたし、長野は子育てがしやすい環境でもあります。

夫もイクメン(?)ですし、同居の父もまだまだ健在。我が家のチームとしては、まだもうちょっと子育てをがんばれそうです。

そんな気持ちもあり、5年ほど前から日本国内の養子縁組について取材を進めていました。ところが、実際に養子にご縁があったご家庭も、養子を出したという方もなかなか見つけられず、取材は難航しました。そもそも身近にいないですし、やっと見つけても取材を受けてくださるような方はほぼ皆無でした。

なぜだろう?と思っていたのですが、ある方が「匿名でなら」とお話を聞かせてくれました。

その方は、ロシアの近くの小さな国からお子さん2人を国際養子縁組で迎えていらっしゃいました。養子を迎えたいと思った時の気持ちや、実現までのご苦労、家族として幸せな時間を過ごしていらっしゃることをお伺いし、とても勉強になりました。

けれども最後に、その方がこうおっしゃいました。

「日本では、養子に対する偏見というか差別があるでしょう。だから、匿名でしか出られないの。ごめんなさいね。」

そのご家族は、お話を聞いているだけでも幸せそうで、いつかお子さんたちにも会ってみたい!と思ったのでしたが、日々、そんなご苦労というか、肩身の狭さを感じていらっしゃったとは…!

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養子の話を身近で聞かない・話題にならないのは、この国では養子にご縁があるのも養子に出すのも、“人さまに言いにくいことである”という気持ちが働いているからのようです。

例えばアメリカでは、養子を迎える際にも、本来妊婦さんのためのお祝い習慣であるベビーシャワーを行うそうです。

妊娠と同じように、養子に縁があったことを周囲とともに祝い、赤ちゃんとの暮らしをみんなで心待ちにする。ところが日本では、せっかく赤ちゃんを迎えるのに事実を隠さねばならないことに、私は大きな衝撃を受けました。

以来、機会があれば友人や知人に養子に対して意見を聞かせてもらうようにしていますが、「養子を迎えたい・興味がある」という方もいらっしゃれば、「自分には無理だ・絶対に嫌だ・考えられない」とおっしゃる方もいます。

良い悪いではなく、人それぞれの価値観や倫理観、育った環境など、様々な背景が養子に対する考え方を左右しているようです。

これだけ世の中が多様化し、生き方も働き方も、婚姻も子育てもいろいろな価値が認められていているのですから、養子についてももう一歩、自分だけの価値観・倫理観を押しつけるのではなく、それぞれが認め合えたらいいなと個人的には思っています。

「子どもが欲しい家族」「子どもが育てられない家族」マッチングの実態は?

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日本には子どもが欲しくてもうまく授からない女性やカップルも数多くいらっしゃいます。もちろん「妊娠」を目指して治療をなさる方もいらっしゃいますが、中には、養子という形で子どもを迎えたいと考えている人もいます。

一方で、乳児院にはなんらかの事情で家庭を持たない・家庭に変えることができない赤ちゃんがお子さんも多数います。

家庭がない赤ちゃんと、赤ちゃんが欲しい家庭。

一見、この2つの需要と供給はうまくいくように見えます。
しかし、実際はほとんどうまくいっていません。

それはなぜか。

原因は、いくつか考えられます。

一つ目は、日本の制度の問題。日本の場合、赤ちゃんの未来や幸せよりも、大人の権利や事情を整理することの方が、法律として強いように感じます(あくまで、わたしの個人的な感じ方ですが)。

イギリス・アメリカ・韓国の養子縁組についての勉強会に参加した際、これらの国では、なんらかの事情で育てられない赤ちゃんが生まれたら、まず真っ先に「赤ちゃんが安心して過ごせる家庭を」といった前提で物事が進められていくと学びました。

しかし日本は、「子どもを持つ親の権利や事情の整理」が先にあり、赤ちゃんはとりあえず乳児院へと送られてしまうことがほとんどです。

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親権の整理や書類の手続きで2年間が経ってしまった事例も

先述の国際養子縁組をなさったご夫妻も、当初は日本国内での養子縁組を希望していらっしゃったそう。

ある日「生まれたばかりの、親が育てられないお子さんがいる」との連絡を受け、その子と暮らす日を心待ちにしていましたが、親御さんの権利や書類手続きなどに時間がかかり、気がつけばその子は乳児院で2歳になってしまっていたそうです。
ご夫妻は、この先さらにどれだけ時間がかかるかわからないと途方に暮れてしまい、泣く泣くその子との縁談はあきらめたということでした。

2年という時間。

実際に子どもを育ててみると、0歳から2歳の2年間がどれほどか、その重さを感じる方も多いと思います。

もちろん乳児院の環境が悪いと言っているのではなく、乳児院にも取材に行きましたが、職員の方はみなさん優しくて愛情深い方ばかり。それでも、昼と夜は親代わりの方が交代しますし、退職や異動もあることでしょう。
「この人は自分を必ず愛してくれる・守ってくれる」という、いわゆる愛着形成にはやはり少し寂しさがあるように感じます。

この子を迎えたい・暮らしたいとおっしゃる家庭に託すことができていたら、たくさん抱っこをして語りかけ、散歩に行き植物の名を教え、たくさんのおいしい食事を共にする、そんな機会が2年の間にどれほどあったかと思うと、残念の一言です。

こうした制度上の問題が、日本にはあるとわたしは思います。

養子縁組に対する「偏見」と「差別」

マッチングがうまくいかない理由は、制度だけではありません。

以前、民間の養子縁組団体に取材をさせていただいたことがあります。この団体では、日本で生まれて育てることができない赤ちゃんの多くを、海外に養子としてあっせんしていました。

日本にも赤ちゃんが欲しい人がたくさんいるのに、なぜ、海外へ赤ちゃんが出てしまうのでしょう。

それは、冒頭に述べた通り、日本では養子縁組に対する「偏見」や「差別」が根強いから。

日本で養子を迎えた家庭が養子であることを周囲に隠したいがあまりに、送り出したお子さんのその後の成長の報告が途絶えたり、養子縁組した家族自体が行方をくらませてしまうことさえあるからです。

また、養子を迎えた側も、周囲に話すこともできず、母となる女性はダミーでお腹に詰め物をし妊婦さんのフリすらするそうです。

それでも「いつかバレてしまうのでは」と恐ろしくなり、近所との交流を経ったり引越しをする人も多いのだそう。
これもまた、さみしい話です。養子を迎えたご家庭は、何も悪いことなどしていないのに。

養子を迎えた人に「おめでとう」といえる環境・文化があれば、日本でももっと養子が活発になることと思います。

養子に出した側のキモチを考える

この原稿を書いている最中、たまたまあるお医者様と食事をさせていただく機会がありました。養子縁組活動をなさっている先生でしたので、少し養子についてのご意見を伺ってみました。

先生がおっしゃっていた中で特に印象的だったのは、養子に出した母親(あるいは父親)のその後の人生や気持ちについて。

出産したものの育てられないケースでは、若年層の妊娠も多く含まれています。また、トイレなどで出産をしそのまま遺棄してしまうニュースも後を絶ちません。

つまり、妊娠をし育てられないと分かっていながらも出産することになってしまった女性の側にも、様々な事情や問題があります。

その時点では、養子に出すという選択をしたとしても、その人の人生はそこからも続いていきます。そんな彼女たちを一方的に傷つけて良いわけではありません。

養子に出した彼女たちが、産んだ子どもが幸せに育っている様子を見ることができるのは、きっと大きな望みや励みになることと思います。そのためにも、養子であることを隠したり、家庭に迎えた後に行方をくらませてしまうのではなく、あっせん団体や生みの親にその子の成長を届けられるような、そういったゆとりというか、相互の関係性が必要に思います。

意外とハードルが高い!養子を迎える資格とは?

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最後に、養子を迎えるための資格について。

我が家は現状ではおそらく養子を迎えることができません。それは、養子を迎えるための一般的な条件がなかなか厳しいから。わたしと夫は事実婚のため、戸籍上は夫婦ではありません。

日常生活においてほとんど問題はありませんが、養子を迎えるとなると話は別。

多くの場合、養子は「夫婦」でないと迎えられません。

さらに、夫婦がともに45歳以下などの年齢制限もあります(わたしはあと数年!)。その他、部屋の広さや収入などにも基準があります。ちょっと驚いてしまうのは、「家庭の中に育児に専念できる者がいること」という記載があるケースもあります。
となると、共働き夫婦はNG?ということにもなるようです。

とはいえ、自治体によっても異なりますし、民間か公的かでも条件は異なります。

個人的には、シングルや事実婚、収入が少ない家庭を「子どもを迎えるのに向かない」と言われているようで、ちょっとショックではありますが、条件を策定する側にも事情があるのかもしれません。

昨今、養子に関するニュースが徐々にホットになってきているため、制度や考え方も動きやすいタイミング。

養子について少しでも興味や理解が広がり、養子を迎えた人も、養子に出した人も、
そしてもちろんその子どもたちが、もっとハッピーになったらと願っています。

養子がテーマになっている映画『愛する人』

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