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公開 2020年07月30日  

【医師監修】ママの約85%が“痔”を経験!なぜ妊娠中は痔になりやすい?

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妊娠中や出産後にお尻がムズムズしたり、ズキズキしたりという経験はありませんか?今まで感じたことがない違和感に不安や焦りを覚えた人もいるかもしれません。
その症状は痔の可能性も!痔というと男性がなりやすいというイメージをもっている人もいますが、実は妊産婦にとても多い病気なのです。
<監修:ポートサイド女性総合クリニック 清水なほみ医師>


目次 そもそも痔とは?
妊娠中期、後期で痔を発症する人は約85%
妊産婦が患う痔の95%以上がいぼ痔
痔の大敵!便秘予防
痔を予防するための生活習慣
痔の治療方法
痔になったママたちの体験談
私も痔かも?と思ったら早めの対処を

そもそも痔とは?


痔とは、肛門や肛門周辺にできる病気の総称です。

大きく分けて、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)の3つがあります。

主な症状は、出血や腫れ、痛みなどですが、肛門の内側にできる内痔核(いぼ痔)は痛みを伴わないことも多いので、発症に気づいていないケースもあります。

デリケートな部分にできる痔は他人には相談しづらいと感じる人も多いと思います。

しかし、実は日本人にとって痔はとても身近な病気です。

特に女性の場合、痔の原因のひとつである便秘に悩んでいる人も多いでしょう。

また、妊娠、出産は痔の発症や悪化につながることがあります。


妊娠中期、後期で痔を発症する人は約85%

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妊娠中に痔になるのは体の構造上しかたのないことです。

妊娠中期・後期に痔を発症する人の割合は約85%というデータもあるほど(※)、多くの妊婦が通ってきた道なのです。

(※) Gojnic, M. et al.: Clinical Experimental Obstetrics and Gynecology, 32: 183, 2005.


おしりの中の構造


肛門の粘膜の下には、直腸静脈叢(ちょくちょうじょうみゃくそう)という網目状の静脈が張り巡らされています。

この静脈は肛門を閉じるためのやわらかいクッションの役割を果たしています。

便秘や下痢、出産でいきんだり、長時間の立ち仕事や座り仕事を続けていたりすると、静脈叢がうっ血し、痔ができると考えられています。


妊娠中に痔が発生しやすい理由


妊娠中、ママの体は赤ちゃんの発育と共に大きな変化を遂げます。

妊娠中期である14週以降は、子宮が新生児の頭の大きさくらいまで大きくなります。

大きくなった子宮によって、足から心臓に戻る血液の通り道(静脈)が圧迫され、直腸静脈叢がうっ血するので痔を発症しやすいのです。

また、妊娠中は子宮内膜を維持する役割がある黄体ホルモンが分泌され、その影響で腸の動きが悪くなります。

くわえて普段より運動量が減るので便秘ぎみになりやすいです。

一方で、子宮はどんどん大きくなり、胎盤も大きくなっていくので、体は血液量を増やす必要が出てきます。

その結果、静脈叢のうっ血が生じ、痔を発症しやすいという仕組みです。


出産後の痔もある

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出産後に痔を発症する人もいます。

授乳中は母乳に水分を奪われるので、自然とママは水分不足になりやすく、結果的に便が硬くなりがちです。

さらに育児のストレスなどで自律神経が乱れ、便秘になりやすいです。便秘は痔の原因のひとつなので、産後も痔の症状で悩む人が多くなります。

しかし、産後の痔も多くの人が通る道です。

育児に一生懸命なママによくある体の変化と考えましょう。


妊産婦が患う痔の95%以上がいぼ痔


冒頭で痔は大きく分けて、痔核(いぼ痔)・裂肛(切れ痔)・痔ろう(あな痔)の3つの種類があるとお伝えしました。

そのうち妊産婦が患う痔の95%以上がいぼ痔といわれています。(※)

妊娠中は赤ちゃんの成長とともに大きくなった子宮が、直腸や肛門部を圧迫することで、うっ血しやすいためです。

(※)Poskus, T. et al.: BJOG, 13: 1666, 2014.


痔の大敵!便秘予防


お伝えしているとおり、便秘は痔の原因のひとつです。

便秘により硬くなった便は肛門を傷つける恐れがあり、また無理に便を出そうとすると肛門の血管がうっ血する可能性があります。


妊娠中に便秘になりやすい理由


妊娠中はプロゲステロンという黄体ホルモンが胎盤から大量に分泌されます。

プロゲステロンは、体内に水分を蓄積しようとする働きがあるため、腸の動きが悪くなります。

便が腸に溜まる時間が長くなると、腸管への水分吸収が増えて便が硬くなり、便秘がちになるのです。


便秘を防ぐための方法

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妊娠中に便秘になるのはしかたのないことですが、生活習慣を意識するだけで便秘になりにくい体づくりができます。

まず、朝食はできるだけ食べるようにしましょう。

ただしつわりの時期は「食べなきゃ」と思う必要はありません。

妊娠初期から便秘になるケースもありますが、食事で改善が難しい場合は薬で改善する方法もありますので、食事に関しては「こうでなければならない」と思わなくても大丈夫です。

例えばヨーグルトはビフィズス菌が含まれているのでおすすめです。

ビフィズス菌は大腸のなかの善玉菌のひとつで、腸内を掃除してくれるとともに、腸のぜんどう運動を促す働きもあります。

朝から腸の動きを活性化し、便意をもよおしやすい環境をつくりましょう。

その他の便秘予防としては、こまめな水分補給や適度な運動などです。

日常生活で取り入れられる簡単なことからはじめてみましょう。


産後は便意の我慢に注意


便秘は妊娠中だけでなく、産後のママの悩みでもあります。

産後の便秘の主な原因は、便意の我慢です。

特に出産したばかりのころは会陰切開の傷口などが痛むため、排便時にいきむことを恐れる人がいます。

また、傷口の痛みが少なくなってきて便意をもよおしたとしても、赤ちゃんのお世話のために自分のタイミングでトイレに行けないというシチュエーションが度々発生します。

便は大腸内にとどまる時間が長くなると、腸管に水分を吸収され硬くなっていき、便秘の症状が悪化してしまいます。

産後は授乳によって水分不足になりやすいため、便秘になる可能性が高いのです。

産後の便秘を予防するには、まず便意を我慢しないことが大切です。

つい赤ちゃんのお世話を優先して便意を我慢してしまう人も多いと思いますが、自分のトイレの時間は意識して確保するようにしましょう。

また、家族が家にいるときは無理せず協力をお願いしましょう。

育児中のストレス軽減、産後の疲れを溜めないという意味でも休憩は大切です。


水分や食物繊維を十分に摂取する

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食物繊維は腸内で水分を吸収して膨らみ、便の量を増やしたりやわらかくしたりする役割があります。

腸の動きも活性化するので、便を排出しやすくなります。

食物繊維が豊富に含まれている食べ物は、穀物やいも類、果物、豆類などです。

さらに水分をしっかり摂取すれば、便がやわらかくなり、便秘を防ぐことができます。

水分不足は妊娠中だけでなく、産後の授乳中にもなりやすいので、出産後もこまめな水分補給を心がけましょう。


痔を予防するための生活習慣


「痔は多くの妊産婦が経験すること」というのがわかったところで、できれば痔を予防して快適なマタニティライフを送りたいですよね。

ここでは痔を予防するために意識したい生活習慣についてお伝えします。

以下のポイントを心がければ、痔の発症リスクを軽減することができます。


香辛料などの刺激物を控える


香辛料などの刺激物は、胃を通過して直接肛門を刺激したり、うっ血させたりして痔を悪化させる可能性があります。

そのため、辛いものが好きで痔が気になる人は、妊娠中・授乳中の食事には気をつけましょう。


長時間いきまない


スルッと便が出る人は問題ありませんが、便秘がちでトイレに長時間いることが多い人は注意が必要です。

いきむ時間が長くなると、肛門をしめているクッション部分の血管がうっ血する可能性があります。

ただし、トイレの時間が短いほうがいいといっても、短時間にめいっぱいいきむ行為も肛門に負担がかかるためNGです。


適度な運動をする

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腸を活性化し排便をスムーズにおこなうために、適度な運動を心がけましょう。

長時間同じ姿勢でいると肛門がうっ血し、いぼ痔になるリスクが高まるので、気をつけてください。

もちろん、体に無理のない範囲で適度に体を動かすのが大切です。


毎日入浴する


体の冷えや血行不良はおしりの大敵です。

体が冷えると下痢の原因にもなりやすいので、毎日お風呂に浸かって体を温めてあげましょう。

血行が促進されるとうっ血も軽減されるので、特に下半身を温めてください。適度に熱めのシャワーを腰からお尻にかけてあてると、マッサージ効果も得られて血行が良くなります。


ストレスを解消する


腸と自律神経は密接な関係にあり、ストレスが溜まると自律神経が乱れて腸の動きが悪くなります。

妊娠中は悪阻や体の変化で不安定になりがちです。

また、産後は育児でストレスが溜まりがちです。

便秘そして痔の予防のためにも、定期的にリフレッシュをおこないましょう。


痔の治療方法


生活習慣の改善や便秘予防を心がけていたとしても、痔になってしまうことはあります。

もし痔になってしまったら、痔のタイプ別で対処法・治療法が異なります。

痔核(いぼ痔)は、患部を温めて血流を促進し、安静にすることが大切です。

裂肛(切れ痔)の場合は、便の状態を整えて肛門部に負荷をかけないようにします。

また、ウォシュレットなどを使用して患部を清潔に保ちます。

痔ろう(あな痔)で膿がたまっている場合には抗菌薬を投与することもあります。

生活習慣の改善と経過観察で良くなったり、市販薬で症状が改善したりということもありますが、薬物や安静による治療でもよくならない場合は、病院での治療や手術が必要になります。


痔になったママたちの体験談


妊産婦の多くが痔を経験しているとお伝えしましたが、実際どのような体験をしているのか気になる人もいらっしゃるでしょう。

そこで、痔になったことがあるというママたちの体験談をご紹介します。

痔の症状に困っている人の参考になれば幸いです。


10代の頃から便秘体質だったのですが、妊娠によって便秘の症状が悪化しました。

何日も出ない日が続きお腹の圧迫感があったので、ある日トイレで時間をかけていきんでいると、出血してしまいました。

今までそういった症状はなかったのでとても焦りました。

しばらく肛門の痛みが続いたのはとてもつらかったです。

トイレに行くと激痛が走るのでできるだけトイレには行きたくないけど、便秘が続くとさらに便が硬くなり用を足すのが難しくなって…という悪循環でした。

当時は誰にも話せなかったですし、病院に行く勇気も出なくて、市販薬で対処していました。

(Cさん・20代)



学生の頃からいぼ痔だったのですが、特に何の対処もすることなく過ごしていました。

それからしばらくして妊娠・出産し、産後7ヶ月たった頃にいぼ痔が再発しました。

トイレでいきむと外側に出てくるいぼ痔で、最初のうちは手で押し込めていたのですが、そのうち赤ちゃんを抱っこするだけでも痛みが走るほどになってしまいました。

夫に相談するのが恥ずかしかったので実母に言ってみたところ、母も私を妊娠したとき痔になったとか。

病院で診てもらったほうがいいと言われたので病院に行き、薬を処方してもらいました。

(Kさん・30代)




出産後に肛門付近に違和感があったので、触ってみたらぷっくりと膨れていました。

それまではいぼ痔のことをよく知らなかったので、よくわからない状態で産婦人科の看護師さんに相談しました。

そこで初めて痔だということがわかったのですが、看護師さんが「妊産婦にはよくあることですよ~」とおっしゃっていたのであまり恥ずかしいという気持ちはなかったです。

便秘がちになるとどうしても排便時の痛みがあったので、なるべく水分をこまめに摂り、バランスのいい食事と適度な運動を心がけていたら、いつの間にかなくなっていました。

(Tさん・30代)


私も痔かも?と思ったら早めの対処を

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痔になったらまずは生活習慣を見直す必要がありますが、日常生活に支障をきたしたり、つらくなったりした場合は我慢せずに対処しましょう。

痔の薬はドラッグストアなどでも取り扱いがあります。

どの薬を選べばいいか分からない場合は薬剤師に聞いてください。

また、痛みがひどかったり、市販薬を使用しても改善が見られない場合は迷わず病院を受診しましょう。

痔の治療は肛門科・肛門外科でおこないますが、近くに肛門科・肛門外科がない場合は、外科または消化器外科に相談してください。手術が必要なレベルの痔でなければ、妊婦健診を受けている産科で対応できますので、まずは妊婦健診時に気軽に相談してみるといいでしょう。


妊娠中・産後に痔を患っていることは恥ずかしいことではありません。

多くのママが通ってきた道なので、「痔かも?」と思ったら、放っておかずに早めに対処しましょう。




【監修】清水 なほみ先生

2001年広島大学医学部医学科卒業。中国がんセンター産婦人科・ウィミンズウェルネス銀座クリニック・虎の門病院産婦人科を経て、2010年9月「ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~」を開業。日本産科婦人科学会専門医/日本不妊カウンセリング学会認定カウンセラー
日本産婦人科学会・日本性感染症学会・日本思春期学会・日本不妊カウンセリング学会所属。

ポートサイド女性総合クリニック http://www.vivalita.com/

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