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卒乳で役目を終えた“私のおっぱい”。明日は娘とアイスクリームを…<第三回投稿コンテスト NO.99>

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娘さんの3歳のお誕生日に「おっぱいとバイバイしようね」と約束した、松山マミさん。卒乳の日をどのように迎えたのかをつづってくれました。切ない中にも温かさを感じるエピソードです。


初めて授乳した瞬間のことは、今でもよく覚えている。

娘が鼻先でフニフニっと乳首を探ったかと思うと、次の瞬間、あむっとくわえて、ささやかな力で、けれども確かに飲み始めたあの日。

私は娘と新たな絆で結ばれたのだと思った。

「へその緒」を奪われた私たちの次なるツールは「おっぱい」になったのだ。


世の中には母子の数だけ授乳のスタイルがあって、完全母乳で育てる人もいれば、混合の人もいるし、ミルクで育てる人もいる。

だが、いずれにせよ、どの「乳児」もいつかは乳離れをして「幼児」になる。

日本では1歳までに卒乳する母子が半数を超えるという。

これは言葉の定義にも象徴的で、「乳児」と呼ばれるのは1歳未満。

1歳以降は「幼児」とされる。


私自身は7ヶ月のときに、自らおっぱいを拒んだらしい。

母によると「ニコニコしながら、おっぱいを押し戻した」のだとか。

そんな話を聞かされていたので、娘が生後半年を過ぎる頃になると、「これが最後の授乳になるのかも……」としんみりしながら母乳を与えていた。


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ところが、娘は飲み続けた。

離乳食もモリモリ食べながら、おっぱいも手放さなかった。

1歳半検診のとき、保健師さんと話しながら涙を流しているお母さんを見かけたことがある。

どうやら、そろそろ卒乳するよう諭されているようだった。

第三者が聞いている分には、保健師さんが厳しいことを言っている感じではなかった。

ただ、乳飲み子を抱えたママの胸中は、理屈では割り切れない。

授乳のためにコーヒーもお酒も我慢して、ときには乳首の痛さにも耐えながら子どものためにと頑張ってきたのに、「1歳を過ぎても卒乳”できない”のはあなたが悪い」と責められているような気分になることもある。

さて、ヒトゴトのように語ったが、私たち母娘も卒乳からはほど遠かった。

娘は私の腕の中にすっぽりとおさまり、黒めがちな濁りのない瞳で私を見上げ、ぷっくりとしたほっぺをモゴモゴさせつつ、うっくん、うっくんと飲む。その姿は、「愛しい」の塊でしかない。

授乳の時間は、母子が最も近くいられる時間であり、より深くつながっていられる時間であり、一度手放したら二度と戻らない、かけがえのない時間だ。

周りの視線は日増しに痛くなっていたが、娘がおっぱいを取り上げられて絶叫する姿を”私は”見たくなかった。

そして、娘が自分の腕の中で幸せに満ち足りた顔をする時間を”私が”失くしたくなかった。

WHOによると、世界の卒乳時期の平均は4.2歳だという。

私はその数字を盾にすることにした。


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2歳半になった頃、娘は空気を読んだのか、家族以外がいる場所ではおっぱいを飲まなくなった。

外出しているときにおっぱいがほしくなると、「まま、ちいさいおへやにいこう」と言った。

ショッピングモールなどに必ず設けられている授乳室へ行こうというのだ。

そんなふうに世界を理解し、判断し、言葉を使って伝えられるほど、言語を使ったコミュニケーションが成熟してきていた。

娘は上手に歩き、ときに走り、はっきりとおしゃべりができる。

正直なところ、そんな娘を連れて授乳室に入って行くのは、だんだんと居心地悪くなってきていた。

しかも、3歳になったら幼稚園に行かせようと思っていたので、タイムリミットが迫っていることも承知していた。


3歳が近づいてきて、娘は大人と同じものを食べたがるようになっていた。

私が目新しいものを食べているのを見つけると、「それなあに?」と聞いてくる。

「これは大人の食べ物だからね。娘ちゃんもおっぱいバイバイできたら食べられるようになるからね」

「ふうん」

そんなやりとりを何度もするようになった。

明らかに、娘の中で興味が外に向かっているのが見えた。


私は娘の3歳の誕生日をXデイにしようと思った。


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「ねぇ、娘ちゃん、3歳のお誕生日が来たら、おっぱいバイバイできるかな?」

「うん!」

娘は元気よく答えたが、本当に理解できているかは怪しかった。

ところが、ある日、娘が突然こう言い出したのだ。

「娘ちゃんね、3歳のお誕生日に”おめでとケーキ”を食べたら、おっぱいバイバイして、あま〜いイチゴのアイスクリーム食べるの」

なんと! なんと甘美な約束だろう。

おっぱいをやめる期限は、「3歳のお誕生日ケーキを食べた」とき。

そして、おっぱいを飲まなくなる代わりに食べられるようになるのが「アイスクリーム」。

娘は自ら卒乳のタイミングを選び、楽しみなイベントに仕立て上げてくれた。

それなら、このへたれの母も安心してその瞬間を迎えられそうだ。


テレビから流れてくる歌声に、娘は夢を抱いていた。

「アイスクリーム、どんなあじかなぁ。むかしはおひめさまでもたべられなかったんだって。娘ちゃんの“あま〜い”の“イチゴ”のアイスクリーム、どんなあじかなぁ」

そう話す娘の瞳は、キラキラと期待に輝いていた。


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さて、3歳の誕生日の朝、娘はまだおっぱいを飲んでいた。

昼食の前にも飲んだ。

そして、おやつの前にも。

これは、卒乳は延期かな、と思った。

やっぱりだめかと半ばあきらめている自分と、どこか「ほっ」としている自分がいた。

ところが、いざ誕生日ケーキをたらふく頰張った娘は、突如“おねえさん”になっていたのだ。


眠くなって、昼寝をしようとするとき、いつもならするりと忍び寄って早業で授乳服をかきわけておっぱいを飲む娘が、今日は様子が違った。

横になってゴロゴロとし、目をぎゅっとつむった。

なんとか自力で眠ろうと頑張っているのが傍目にもわかった。

私の服の上からおっぱいに顔をこすりつけて、ニタ〜っとするので、あ、挫折したかなと思ったのだけれど、また自ら布団に戻っていってゴロゴロする。

「ママの背中にくっつくの……」

声をひそめてそう言いながら、座っている私の背中に体重を預けてぴたっと頬をつけてみたりもした。

「娘ちゃん、小さくなって、おっぱい飲みたいのよぉ……」

ぷっくりとしたほっぺに埋もれた小さなちいさなお口から、そんな弱音が漏れることもあった。

思わず涙が溢れそうになったが、ここは踏ん張りどころだ。

娘は生まれて初めて、自分の意思の力で階段をひとつ登ろうとしている。私は一歩引いて見守る。


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私と娘。

その一対一の人間関係のはじまりから今まで、おっぱいを通じたコミュニケーションが一番近くて深い方法だった。

でも今は、娘が心の内を言葉にできるようになった。

私が感じ取れないことを、言葉を使って話してくれるようになった。

そうか、もう、おっぱいは役目を終えるんだ。

娘に添い寝をして、太もものあたりをトントンとしてあげると、彼女は5分も経たないうちに眠ることに成功した。


やった! と思った。

心が踊った。

そして、不意に涙が溢れた。

私の心の奥底に残っている一抹の寂しさをすべて洗い流そうとするかのように止めどなく。

その傍らで、娘はいつも通りの寝顔ですやすやと眠っていた。


明日、アイスクリームを一緒に食べよう。

自分の力で、ひとつ階段をのぼった娘と一緒に、私もあま〜いイチゴのアイスクリームを食べよう。

これからも娘の前には新たな階段が現れるだろう。

それがどんな階段でも、今日みたいに乗り越えられるといい。

階段をのぼった先に、より魅力的な世界が広がっているといいと思う。



(ライター:松山マミ)


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