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胎児に重い診断。絶望を照らしたのは「はじめて生んだ子」だった。

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次女ちゃんの心臓疾患の全体像が分かった長い長い一日と、長男の一言で「それでも頑張ってみようか」と思った日のお話。
妊娠~出産までをつづった4部作連載、2本目。

名医がこだわった「見えない大動脈」

頑健なる肉体にハイリスクな赤ちゃんを、宿したハイリスクな妊婦の私。

もちろん、足しげく白い巨塔に通う…

のかと思いきや、意外と普通の妊婦生活を送っていた。

検診費も、検査・検査の応酬で、愛する諭吉と涙の別れが待っているのかと思っていたが、基本的に普通の妊婦と同じ。

妊婦検診無料券なる新しい文化が開花したおかげで、9年前の息子妊娠時より、費用はむしろ安くなったくらいだ。

お金は大事だ。

何しろ、おなかの子は「3億円ベビー」かもしれないのだから。

そんな、いまのところは「3億円かかるかもしれない胎児」の次女ちゃんは、お腹の中で絶賛暴れん坊の29週と6日目。

検診はおなじみ、胎児エコーの権威にして、よしもと新喜劇の座長に激似のすっちー先生。

「この子、足でプローブ押し返しとる」

「絶妙に見えへん角度に体を持っていくんよな…」


病児の自覚はあるのかお前は、という不遜な態度を取り、あろうことか高額な医療機器を母の腹越しに蹴とばす始末の次女ちゃん。

なんかすみません先生。

出生前から母親に頭を下げさせるとは、何という不良娘か。


エコー死闘を繰り広げたすっちー先生は、診察後にある提案をした。

「お母さん、今ね、赤ちゃん一番いい大きさだから、今度のえーと…土曜日!もう1回エコーとっても良い?」

良いも悪いも、次女ちゃんの命を預けるこの名医がそうおっしゃっているのだ。

「全っ然っ大丈夫です!行きます!」

2つ返事で了解した。

胎児が小さすぎると臓器が見えづらく、そして大きくなると、今度は胸骨がしっかり出来上がってしまい確認を邪魔してしまうものらしい。

30週を迎える今こそが、ベストなエコータイミングという事らしい。

「土曜こそは、この血管が見えると思うんやけどな~」

天邪鬼な次女ちゃんは、先生が気にしていた「見えない大動脈」の正体を、この時は明かしてくれなかった。

運命のエコー検査。その画面に、身を乗り出した

"土曜日"はやってきた。

とうとうお腹の子の心臓の全容が明らかになるのかと、初めて訪れた、母子周産期医療センター病棟。

隣には、6歳の長女を連れて。

アポロチョコとお絵かき帳を携えているが、大一番のエコー検査の証人なのだ。

ものものしい雰囲気を感じながら入った診察室には、ラガーマンのごとくいかつい男性。

体格に反して消え入りそうな声で話す大男は、М医師。

髪の毛程の新生児の血管に、糸の細さの針でルートを取る神の手を持ち、次女ちゃんの出生後、はじめの主治医にもなる人物だ。

森の木陰でハイホーな見た目から、通称「コロボックル先生」。


そして始まったエコー検査。

邪魔にならないか心配した長女は、薄暗い部屋でアポロチョコをもりもり食べて、大人しくしていた。

「お姉ちゃんだからいい子にしてるの。」

えらいぞ、君はずっと妹ができるのを楽しみにしていたんだもんね。

同席したすっちー先生と、新登場のコロボックル先生は、いつもより慎重な様子だ。

同じ所を何度も行き来しては確認し、こそこそと相談していた。

エコーがついに胎児の胸部を大写しにした、その時。

「あ?これ逆やな…あーそうかそうか、肺動脈やこれ、TGAやな」

「逆子ですね、で、PAとSV…」

2人の医師はハイハイそういうことね、あーだからね、わかったわかったと物凄くすっきりした表情でうなずき合った。

え?なになになに?

お母さん完全に置いてかれてんねんけど。

そして逆子って何?今初めて聞いたけど。

腹が出てきてからすっかり使えなくなった腹筋をフルに使って、上体を起こし画面を盗み見る。

「お母さん、大体見えた!向うの面談室行こうか、説明するわ。」

すっちー先生は私を別室へと促したのだった。


予想を超えていた、診断名

面談室と銘打たれた小部屋では、窓際にすっちー先生と、コロボックル先生。

向かい合う形で私と長女が座る。

長女は早速お絵かき帳を取り出して、絵を描きだした。

チョコはあらかた食べつくしたらしい。

もう食ったんかい。


「今回はM先生が説明するな、新生児の循環器の専門やから。」

「…ハイ、今回は僕の方から…。」

コロボックル先生は、肺と心臓が簡略化して描かれた紙に、ペンでカリカリと何かを書こうとしていた。

「…あ、間違えちゃった。いる?お絵かきにつかえるよ。」

そう言って、心臓イラスト入り用紙を長女に寄越した。

大丈夫かハイホー?

そして笑顔で「ありがとー」と受け取る長女。

この娘は肝が太い。

「で、今回分かった心臓の状態なんですが。」

コロボックル先生は、ゆっくりと小声で続けた。

「赤ちゃんが逆子だったこともあって、大変分かりにくかったんですが、これまで大動脈と診ていた血管は肺動脈でした。血管が入れ替わっている、これは『大血管転位症』という先天性心疾患のひとつです。」

「その肺動脈ですが、これがほぼ閉鎖に近い、肺動脈弁狭窄症です。」

「そして、左心室と右心室の心室中隔がありません。単心室症と考えて良いと思います。これが一番メインの疾患になると思います。」

「あとは…心臓が大きく右に傾いている事、右胸心である事と…ちょっと余分な血管もある感じで…これは生まれてからじゃないと確認は難しいかな…。」

もそもそと話しながら、先ほどのイラストから心室中隔を斜線で消し、肺動脈と書かれた血管にバツ印を付けていく。

その上で書き込まれていく、聞きなれない疾患名。

…文字が汚くて読めない、顔を近づけても読めないよ、コロボックル。

読めないながら、これは私の予想の斜め上を通り越して、かなりとんでもないことなのでは?

奇跡が起きて何とかなる範疇ではないですね、神よ。


固まる私に、すっちー先生が告げる。

「胎児だから、生まれてみないと詳細は分かんない事もあるけど、こういのを『複雑心奇形』って僕らは呼んでるんやわ。」

先生達のお見立ては、以上だった。


この記事を書いた人
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きなこ

11歳ADHD・DCD男児、9歳ハイパーマイペース女児と
心臓疾患の2歳児の母をあまりがんばらないでやってます。

Twitter:日々の事と大体こどもの...

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