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公開 2018年11月05日  

アカデミー賞作品「ルーム」に見る、孤独な子育てと、子が育つ希望

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第88回アカデミー賞にて作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされ、主演女優賞を受賞した映画「ルーム」。密室に監禁された女性と5歳の息子がそこからの脱出を試み、外の世界へと適応していく様子を描いた作品です。この映画を観ると“孤独”を感じてしまいがちな子育ての状況が作り出してしまう闇や、そこから抜け出した先にある子育ての希望を感じます。


「ルーム」の簡単なあらすじ


母親のジョイと「部屋」で暮らしている5歳のジャック。

ジョイは10代の頃にとある男に誘拐され、その誘拐犯との間にできたのがジャックでした。ジョイとジャックはこの部屋の中に監禁されているのです。

産まれてから一度も外に出たことのないジャックにとって、扉もなく、天窓しかないこの部屋の中が“世界”そのものでした。

ある時ジョイは、ジャックに部屋の外に本当の世界があることを教えます。

そして2人は危険を冒して部屋からの脱出を図り、ジャックは生まれて初めて外の世界を経験していくことに。

部屋の中でジョイから教えられてきたこととの違いや経験したことのないことの連続に戸惑うジャック。ジョイもまた、社会への適応に疲弊していってしまいます。

果たして外の世界に出たジョイとジャックに待ち受ける運命とは――。

主人公の状況と育児のしんどさを重ねてしまう


この映画は育児を頑張っている親が観ると、「ジョイは私だ」と感じてしまうでしょう。

狭く薄暗い部屋の中で誰の手も借りずに24時間ジャックを育てるジョイ。もちろんジャックと楽しい時間を過ごすシーンもありますが、目の下にはクマができて疲れ切ったジョイの目には「この閉ざされた孤独な状況は永遠に変わらないのかもしれない」という絶望が映っています。

ワンオペに限らず育児が辛いと感じてしまいがちな理由の1つは「閉塞的な家という箱の中に閉じ込められている」と感じる孤独感ではないでしょうか。

まるで世界から自分と子だけが取り残された感覚になり、「私はここにいるよ!」と存在を発信しなければこのまま消えてしまうのではないかと感じるほど、子どもを育てる親は精神的に追い詰められることがあります。

映画の中のジョイは、育児をする親のある側面を表しているように思えるのです。

子どもが外の世界に出ることは子育ての救いだ


それでもこの作品がとても感動的なのは、子どもが外の世界に出て五感をフルに使ってすべてのものごとを吸収するさまがジャックの目線で美しく表現されているところ。

目に映るすべてのものに驚き、感動するジャックの姿には、児童館や保育園などに行って親以外の他者と触れ合い、生まれて初めて社会性を学んでいく自分の子どもと重ねてしまう人も多いと思います。

0歳児の息子を育てる私は初めてベビーシッターさんに数時間だけ子どもを見てもらった時に、自分がリフレッシュできたこと以上に小さな感動を覚えました。シッターさんに抱っこされてコミュニケーションを持つことによって息子が見る世界が広がったように感じたからです。

そうした外の世界を通じた子どもの瑞々しい成長は、育児の大変さを乗り越えさせてくれる一つの救いにもなります。そういう意味では、保育園に入れることは単に仕事という大人にとっての都合だけではなく、子どもの社会性を育むという点でも大きな意味があると個人的には思います。

自分と子どもだけで完結している世界は、他者や社会との面倒や軋轢がないためそれはそれで良いところもあるかもしれません。

映画の中でも自由の身になって外の世界に出られたジョイですが、監禁された経験を取材したがるマスコミや再会した両親とのすれ違いなどで精神を病んでしまいます。部屋の中にいた時の方がある意味では楽だったのです。

それでもジョイに希望をもたらしたのが、外の世界に触れてどんどん成長していくジャックの姿。ジャックの成長が、2人で前を向いて生きていく力をジョイに与えてくれたのでした。

「ルーム」が見せてくれるのは決して非現実な世界ではなく、今まさに子育てをしている親と子どものリアル。涙なしでは見られないはずです。

『ルーム』を観る

※ この記事は2024年04月12日に再公開された記事です。

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