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公開 2018年08月17日  

ああ、もう。あんなこと言うべきじゃなかった。/ 娘のトースト 2話(2ページ目)

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唯の部屋に落ちていた書き損じの手紙を読んでしまい、それを唯に見つかってしまった母の庸子。その時、思わず言った一言が唯を傷つけてしまう。


会話

ちゃんと唯と話をしなくちゃ。

手紙発見から二日目の朝、目を覚まし、ベッドに寝転がったまま、心を決める。

いつもより丁寧に朝食をつくって、唯を起こそう。

そう思いながらリビングにいくと、そこに唯がいた。「うわ」と思わず声が出たけれど、唯はテーブルに向かって座ったまま、こちらを見ない。

自分で用意したのだろう。トーストと牛乳だけの朝食を食べ終わるところだった。

「起きてたんだ、早いね。おはよう」

私が声をかけると、こちらを見ないまま「あのさ」と言う。

「目玉焼きとかスープとか、もういらないから。自分でトースト焼いて食べるから。中学に行って、部活の朝練とかあったら、これからママと時間合わせるのも大変じゃん?自分のは自分でできるから、別々でいいよ、もう」

そう言うと、私が何か言う前に立ち上がり、皿とコップをシンクに置いて、さっさと自分の部屋に行こうとする。

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「トーストだけじゃ、ダメだよ。育ち盛りなんだから。一日持たないでしょ」

「お昼と夜ごはん食べるから平気」

「そういう問題じゃなくて。朝にしっかり食べないと」

「じゃあ、バナナとか買っておいてよ。勝手に食べるから」そう言った唯は、ほんの少し考えるように間を置いた後、「やっぱりヨーグルトにする。ギリシャのやつ」とつぶやいた。

なんだそれ。反抗するなら反抗するで、自分でやってよ。親を頼るな。

と思ったものの、もちろん言葉にはせずに、口をつぐむ。そうしている間に、唯は何も言わずに部屋に入り、バタンとドアを閉めた。

あれじゃ、話をするどころじゃないじゃない。

自分のためだけに料理をする気になれず、私もトーストだけでいいやと、袋から食パン取り出した。

唯がガスコンロの上に置いていったままの網の上にそれを置き、火をつける。

それから、唯が置いていった皿とコップを洗う。

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焦る。焦げる。


最後まで食事の後片づけもできない、自分でヨーグルトを買うこともできない、そんな娘に、なんて言っていいのかわからずにいるのは、自分でも、自分のしたことがほめられたことじゃないとわかっているからだ。

落ちてたからといって、手紙を読んでしまったことも最低だし、それに「いつか男の子を好きになる」という言葉も、言うべきじゃなかった。

あれは、たぶん、私がそう思いたかっただけだ。唯が唯らしく生きてくれればいい、そう思っていたはずなのに、咄嗟にあんな言葉が出るなんて。

だからって、どうするのが正解なんだろう。娘が女の子のことを好きらしい。それに対して、どうしたらいいんだろう。

香ばしい匂いに我にかえると、網の上のパンがこげていた。あわてて火を止めたものの、片面だけが黒々としてしまっている。

「ああ、もう」

引き出しから取り出したナイフでこげを削る。目立つ部分だけを適当に取り除き、バターを塗って一口かじる。苦い。

このままじゃだめだ、と私は思う。

このままじゃ、だめだ。早くいつもの朝食を取り戻さないと。

そう決意して、私は、トーストに残った一番こげたところを、ガリリと噛みしめた。


次回、「行き詰まる庸子に、会計士の中村さんが声をかける…」

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※ この記事は2024年03月03日に再公開された記事です。

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