小児科での勤務時代、その病棟は長期入院のこどもたちが多く入院していたこともあり、夜勤で幼児さんのお部屋を担当する日は一人ずつ絵本を読むということが日常でした。
3〜5歳のこどもたちに読んでいたのですが、年齢などに関わらず「絵本を読む」「絵本を読んでもらう」という同じ場面でも、ひとりひとりその時間をどう過ごしたいのかはちがうのだなと気づかされることも多くありました。
今日はその中の一つのエピソードをご紹介したいと思います。
またそのページに戻るの?子どもが何度も絵本を読んでほしがる意外な理由

小児科で看護師として働いていた時、夜勤で読む絵本の時間はとても大切で大好きな時間でした。
こどもたち一人一人、その時々によって、大人の想像を上回るいろいろな読み方があることを知ったエピソードです。
4歳の女の子と『ぐりとぐら』
Aちゃんは4歳の女の子です。活発で自己主張のしっかりできる「もっと一緒に遊びたい!」が口癖な子でした。
そんなある日のことです。
「今日もこれ読んで。」とAちゃんは1冊の本を私に渡してくれました。
それが「ぐりとぐら」でした。
「ぐりとぐら」のお話はご存知の方も多いと思いますが、こんなお話です。
1963年に「こどものとも」誌上で発表されて以来、日本だけでなく世界各国で愛され続けるふたごの野ネズミ「ぐり」と「ぐら」のお話。
ぼくらの なまえは ぐりと ぐら
このよで いちばん すきなのは
おりょうりすること たべること
ぐり ぐら ぐり ぐら
歌いながら森へでかけたぐりとぐら。大きなたまごを発見し「あさから ばんまで たべても、まだ のこるぐらいの おおきい かすてら」を焼くことにした。甘いにおいにつられて、森の動物たちが次々と集まってくる。「けちじゃないよ ぐりとぐら ごちそうするから まっていて」。さあ、できあがり。おなべのふたをとると、ふんわり黄色いかすてらが顔を出す。
たまごが大きすぎて運べないなら、この場で作ろう。たまごのカラが残ったら、自動車を作って乗って帰ろう。次々と楽しいことを思いつき、軽やかに実行してみせるふたり。「(ぐりとぐらに)苦手なものはあるの?」という読者からの質問に、著者の中川李枝子は「失敗しても、間違っていても平気。やりなおせばいいもの」(『ぼくらのなまえはぐりとぐら 絵本「ぐりとぐら」のすべて』より)と答えている。ぐりとぐらの、この大らかな性格が、読み手の気持ちをやわらかくほぐしてくれる。
そして、誰もが夢中になるのはなんといってもあの「かすてら」。どれだけ時がたっても、甘い、幸せな記憶としてほかほかと胸に残る。
Aちゃんは、「ぐりとぐら」を読んでと私に言いました。
私「昨日のお昼もこれ読んだけど同じのでいいの?」
Aちゃん「うん!」
にっこり笑うAちゃんをみて、私は、お気に入りなのかなと思って読み進めていきました。
しかし、途中でAちゃんはページを戻すのです。
Aちゃん「もう一回ここから読んで。」
私「?? わかった、いいよ。」
最初は良かったのですが、終わりに差し掛かると何度もなんどもページを戻すのです。
私は、長い時間そばにいて絵本を読んで欲しくてそうしているのかな?と思いました。
これではいつまでたっても、次の子に読んであげることができず、私の頭の中はだんだんと時間の迫ってきている点滴のことなども気になり始め、少し焦ってきました。
私「他のお友達にも読んであげたいから、次は最後まで読んでもいい?」
Aちゃん「ダメ!!」
私「読み終わったら、さみしくなっちゃうから?みんなに読んだ後にトントンしにくるからさみしくないよ。」
Aちゃん「そうじゃなくって!」
Aちゃんが何度もページを戻す理由は、私がまったく想像もしていなかったものだったのです。
なんども読んで欲しかった本当の理由
Aちゃんは、「あのね、、、わかんないの。ぐりとぐらは、どうやってこんな大きい卵をお皿に入れたの?それがわかんないんだよ〜。何回読んでも書いてないの!!」と言ったのです。
予想外の理由にびっくりしている私にAちゃんは続けて、「こないだお家に帰った時に、ママが卵パカッてしたの見てたの。だけど、どろどろって出てくるんだよ。卵はぐりよりもぐらよりも大きいのに、どうやってお皿に入れるの?卵が出てきたところ書いてないの〜〜!!」と教えてくれました。
私は「ママと離れて眠るのが淋しいに違いない、きっといつもの『もっと遊んで』に違いない。」と勝手に思い込んでいました。ものすごく反省すると同時に、4歳の子が、自分の身長よりおおきな卵をどうやって割ったのかということに、興味をもっているということにとても感心していました。
Aちゃんの話を聞いてワクワクしてきた私は、「そうだね〜。すごいところに気がついたね!!どうやったのかなあ、Aちゃんはどう思う?」と聞いてみました。
するとAちゃんは、「うーーーーん。もっと大きいお友達がいるのかなって思ったの。でも、最後お友達と食べているところにそんなに大きなお友達もいないし、、、。上手にしないと、殻がバラバラになっちゃうし。」
そこからは二人で、「最初におおきなボールに入れてから、石でコンコンってしたんじゃない?」「お友達みんなでやったんじゃない?」と少しきっかけを作るといろんな想像が飛び出して、すごく楽しい時間になりました。
「正解」にたどり着かなくても、とっても満足したようで「いつもは3冊読んで!」というのに、その日、Aちゃんは1冊でぐっすり眠っていました。
その行動には子どもなりの理由が必ずある
