今回の事故に関する報道を受けて、インターネットで多数あがっていたのは「おんぶで自転車に乗るのってアリなの?」という声。
自転車の走行について定めている「道路交通法」では、原則として運転者以外の人を乗せて走ることは禁止されています。
ただし例外として、次のようなケースでは、運転者以外の同乗ができることになっています。
次のような場合には、乳幼児が同乗することができます。
〇16歳以上の人が運転していること
〇子どもはチャイルドシートに乗せる、もしくはおんぶ紐などで確実に背負うこと
〇おんぶで乗せる場合は4歳未満の子どもであること(※)
〇チャイルドシートに乗せる場合は6歳未満の子どもであること(※)
※
都道府県によって「道路交通法施行細則」が異なるため、細かな条件はお住まいのエリアによって異なります。
たとえば東京都の場合、おんぶ紐でしっかりと背負うことを条件に、子ども乗せ自転車ではないタイプの自転車に乗せることもできます。
また幼児ふたりを乗せて乗車する場合、「幼児二人同乗用自転車」にチャイルドシートを取り付けることが条件で、一般的な自転車の前後にチャイルドシートを取り付けて三人乗りをすることはできません。
それから、いかなる場合であっても四人乗りはできません(チャイルドシート前後+おんぶ)。
これらの条件を踏まえると、今回の事故のように「7ヶ月児をおんぶ紐で背負った状態で自転車に乗る」こと自体は、ルール上決して禁じられていないのです。
いけなかったのは、横断歩道のないところをすり抜けて渡ろうとした危険な判断。これは、当然違反です。
おんぶでの同乗は可能とされていますが、赤ちゃんを前に抱っこしての自転車運転は交通ルール違反です。
「なぜおんぶはOKで抱っこはダメなの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
いったいなぜでしょう。ちょっと想像してみてください。
もしも運転中、何かの拍子に転倒してしまったとき、前に抱いた赤ちゃんはどうなるでしょう。
自転車に乗るとき、人の体は前のめりになるものです。
さらに赤ちゃんの重さの分だけ、前に重心がいきやすくなるわけですから、転倒したら最後、赤ちゃんは「エアバッグ状態」。
運転する大人の下敷きになってしまうことが多いのではないでしょうか。
それから、愛用者の多い「エルゴシリーズ」のようなタイプの抱っこ紐の場合、赤ちゃんがベルトで固定されているわけではありません。
頭のほうから抜け落ちてしまう落下事故も起こっていますから、前かがみになりやすい自転車運転では使用すべきではないことがよくわかると思います。
わたしは実際に、抱っこ紐で前に抱かれた赤ちゃんが自転車から落下する場面を目撃したことがありました。
自転車の上からと言えど、赤ちゃんにとっては相当な高さになります。さらに頭から落下するわけですから、命にかかわる大事故にもつながりかねません。
赤ちゃんを、我が子を守りたいという気持ちがあるならば、いかなる理由があったとしても「抱っこ」したまま自転車に乗ることはやめたほうが賢明です。そもそも違反ですしね。
インターネットにあがった声を眺めていると、「子どもを乗せて自転車に乗ること」そのものに批判的なコメントも少なからず見受けられました。
そりゃあ安全のためには乗らないのが一番いいに決まっています。自転車に乗らなければ自転車事故なんて起こりやしません。
ですが子育てをしていると、どうしても自転車が必要になる場面に直面することがあるのです。
たとえば、保育園への送迎。
保育園が駅前にあるとは限りませんし、徒歩圏内の保育園に入れるとも限りません。
自家用車で送迎する人もいますが、都内の自家用車所有率はそう高くありませんし、全員が自家用車で送迎できるだけのスペースもないのが現状です。
また、第一子であれば「チャイルドシートに乗れる一歳ごろまでは自転車に乗らずに…」なんて選択もしやすいのですが、第二子・第三子となるとそうもいきません。
子どもの歩ける距離は限られていますし、まさか前後にふたり抱っこして歩くわけにもいきません。
正直なところ、わたし自身も子どもを産むまでは「赤ちゃんをおんぶしながら自転車こぐなんて危ないなぁ」なんて思っておりましたので「子ども乗せ自転車は危ないからやめるべき」と言いたい気持ちはよくわかります。
ですが子育てをしていると、「赤ちゃんを背負いながら自転車に乗らないといけない場面」に直面することが少なからずあるのです。
どうかご理解いただき、見守っていただきたいなと思います。
それから、一部の子ども乗せ自転車の運転マナーには、目に余るものがあるとわたしは思います。
特に、保育園や幼稚園の送迎時間帯であろう早朝。
立ち漕ぎをして猛スピードで駆け抜けていく子ども乗せ自転車に、ヒヤリとすることが残念ながら少なくありません。
なかには、信号無視や横断禁止エリアの横断といった危険運転に遭遇することも。
乳幼児のいる家庭の朝は、慌ただしいものですね。
なかなか進まない朝食や着替え。刻一刻と迫る出社時間…。
焦って、つい急いでしまう気持ちは痛いほどにわかります。
ですが、慌ててスピードを出したことが原因で、大切な子どもの命を失ってしまっては元も子もありません。
また、他人を巻きこんでしまったことで、誰かの人生を奪ってしまうことだってあるかもしれません。
当たり前のことですが、自転車には自転車の交通ルールがあります。
子どもと同乗する場合は、いっそう気を引き締めて、きちんと地域のルールに従い、正しく安全に乗車すること努めたいものです。
最後に、事故によって亡くなったお子さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。