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公開 2016年04月19日  

子どものその瞬間は二度とない。そして人は意外と忘れる。

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「だから、子ども時代に一番学習しなければいけないのは、幸福です ママたちとの対話から生まれた 子育ての知恵ツイート41」(著:陰山英男)より、全10回にわたり「知恵ツイート」の一部をご紹介いたします。
第3回目は「そして、家族写真を整理に困るくらいたくさん撮ることもおすすめする」をご紹介します。


家族旅行の写真がのちに大きな励みに

映画のように私の頭に今でも焼きついている場面があります。 

まだ幼かった長女と次女が砂浜で波を追いかけながら遊んでいる場面です。

赤ちゃんだった末っ子の長男にとっては、生まれて初めて見る海でした。
ことあるごとに、私は二人の娘がキャッキャッと言いながら波と戯れている、

あの瞬間を思い出すことができるのです。

それも鮮明に。

子どものその瞬間は二度とない。そして人は意外と忘れる。の画像1
フォトグラファー:繁延あづさ

20年以上も前のことをこれほどはっきりと思い出せるのはなぜか。

写真があるからです。
家族で海に遊びに行った写真があるから、私はいつでも幼い頃の娘たちに会えます。
そして、幸せだったあの瞬間にタイムスリップできるのです。

家族旅行は家族の幸せの象徴ともいえます。そこで、子どもたちはじつに良い顔をします。
その瞬間をぜひ写真に残すことを、私は強くおすすめします。それがのちのち大きな力になるからです。

質素でもいいから家族で旅行すること、そしてそこでの子どもの表情を写真に残しておくこと。
それがどれほどの力になるかを思い知ったのは、私自身、仕事で困難な局面に立たされたときでした。

つらかったときに、砂浜で無邪気に遊ぶ娘たちの写真に何度慰められたことでしょう。

印象深い場面でも時間がたつと忘れる

写真のなかの娘たちも、昨年立て続けに結婚しました。
一緒に住んでいた長男は転勤でわが家を離れました。

本当に、子どもたちが大きくなるのはあっという間です。  

よく花嫁の父は娘を手放す喪失感に涙を流すといわれます。
私はといえば、意地でも涙は流さないと決めていました。

本当は泣き上戸なんですが、泣きませんでした。
喪失感といっても、次女はすでに東京で働いていますから家にはいません。長女だって働いていますから、それほど顔を合わせるわけではありません。

喪失感などあるはずがないと思っていました。

長女のプランで前から行きたかったイタリアを家族で旅行したのは、長女の結婚の2か月前。
彼女がすべてプランを立てました。大学時代にバックパッカーとして海外を旅していましたので、じつに旅慣れていて観光ガイドよりもはるかに上手にプランを立ててくれます。

長女の旅のプランの手腕に助けられて、私も海外出張の合間に思いがけず旅行を楽しんだことも数知れず。
しかし、はたと気づきました。

あ、もうあの子に旅のプランを頼むことができないんだ、と。

そのときです、深い喪失感が襲ってきたのは。

子どものその瞬間は二度とない。そして人は意外と忘れる。の画像2
フォトグラファー:繁延あづさ

そういえば、あの子が高校生や大学生だったときの姿を思い出そうとしましたが、思い出すことができません。
当時、私の仕事は多忙を極め、写真を撮るどころではありませんでした。

中学から高校、そして大学へ。印象深い場面があったはずなのに思い出せない。
そのことに衝撃を受けました。

今はデジタルで手軽に撮ることができ保存もしやすくなっています。音声も手軽に残せます。
整理に困るくらい残しましょう。

どんなに印象深い場面でも、人間は悲しいかな記録がないと忘れてしまうのです。
特に映像の力は大きく、写真があればその瞬間を一瞬のうちに思い出すことができます。 

子どもと過ごした幸福な時間は二度と戻ってきません。

でも写真に残せば繰り返し見ることができます。じつは後になって本当に感動するのは運動会なんかの写真ではありません。
普通に家でくつろいているときの写真だったりするのです。

普通というものがいかに幸せか、写真はそれを教えてくれるのです。


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