1歳半でひとり歩きができないために、乳児健診から小児科に紹介になったWくん。
ひととおり検査などをしてから、歩く練習のアドバイスを行い、
数ヶ月間、毎月外来にきていただいていました。
Wくんはお母さんに手を引かれると、とても上手に歩きます。
「今にも歩きそう」という言葉がぴったりなのですが、お母さんが手を離すと、数歩でぺたんとその場にしゃがんでしまう。
そんな姿が繰り返し見られました。
しかし、おもちゃなどの置き方やバランス感覚の取り方や支え方などを2ヶ月工夫してもあまり変化がなく、そろそろ次の段階を考えないといけないかなと思っていたある日のこと。
待合室にお迎えに行くと、なんと、Wくんが歩いています。
むしろ小走りで、つたつたと歩いているではありませんか。
「Wくん、歩けるようになったんだね、お母さん、歩いてますね!」
そうWくんとお母さんに声をかけると、お母さんはとても嬉しそうです。
歩いたきっかけについても聞いてみると、お母さんから意外な答えが返ってきました。
「実は、私はこの子はまだ歩けないと思っていて、ずっと手を引いて歩いていたんです。
でも先月、お父さんと3人で公園に行ったとき、私だけ少し離れているところで様子を見ていたら、お父さんが普通に手を放していて…!!私はびっくりしたんですけど、そしたら、そのまますたすた歩いていたんです。(笑)
私に手放す勇気があれば、もしかしたらもっと早く歩いていたのかなー。」
子どもが大切で、愛おしいからこそ。
心から、応援しているからこそ。
転ばないように、失敗をしないように…と、
手を差し伸べたくなることはたくさんありますよね。
それもとても大切なことだと思います。
でも子ども達は、大人には想像もできないような吸収力で、学んで自ら育っていることもあります。
100回できなかったことが、ひょっとしたら101回目にはできているかもしれません。
子どもができる可能性を信じて、ときどき、あえて手を離してみること。
これは、身近であればあるほど、勇気がいることです。
やっぱりできなかった、とつらくなることもあるかもしれません。
そんなときは、Wくんのご家族のように、自分とは他の人に、勇気のお手伝いをしてもらうことも、方法の一つかもしれないですね。
子どもを信じて、手放すこと。
あるいは誰かに、手放す手伝いをしてもらうこと。
子どもの成長を引き出すためのヒントを、きょうも目の前の子どもとご家族に、教えてもらった1日でした。