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公開 2016年03月01日  

ある助産師が語り継ぐ「命の奇跡」〜死産を経験したママのエピソードに学ぶ〜

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「赤ちゃんが生まれて来て元気でいてくれるのは奇跡である」…出産を経験した女性なら、誰もが感じることだと思います。でも、普段の生活で疲れちゃったり泣きやまなかったりすると、ついつい「うるさい」「嫌だ」と思っってしまい愛しく思う気持ちを忘れてしまう瞬間がありますよね。今回ご紹介するのは、そんな方に読んで欲しいお話です。


助産師・内田美智子さんによる「おかあさんの宝物」というお話

助産師の内田美智子さんは、産婦人科医の旦那さんと一緒に福岡県行橋市にある内田産婦人科医院に1988年から勤めています。
2500人以上の赤ちゃんの出産に立ち会ってきたベテラン助産師であり、「生」「性」「いのち」「食」などをテーマにした本を出版しているほか、講演を全国各地で行うなど精力的に活動しています。

そんな内田さんが、母親学級などでよくお話しされているのが、この「おかあさんの宝物」というお話です。
引用させていただいたので、まずは読んでみてください。

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「おかあさんの宝物」

………………………………………
 自分の目の前に
 子どもがいるという状況を
 当たり前だと思わないでほしいんです。
 自分が子どもを授かったこと、
 子どもが
「ママ、大好き」と言って
 まとわりついてくることは、
 奇跡と奇跡が重なり合って
 そこに存在するのだと
 知ってほしいと思うんですね。
 そのことを知らせるために、
 私は死産をした
 1人のお母さんの話をするんです。
 ・   ・   ・   ・   ・
 そのお母さんは、出産予定日の前日に
 胎動がないというので来院されました。
 急いでエコーで調べたら、
 すでに赤ちゃんの心臓は
 止まっていました。
 胎内で亡くなった赤ちゃんは
 異物に変わります。
 早く出さないとお母さんの体に
 異常が起こってきます。
 でも、産んでも
 なんの喜びもない赤ちゃんを
 産むのは大変なことなんです。
 
 普段なら私たち助産師は、
 陣痛が5時間でも10時間でも、
 ずっと付き合って
 お母さんの腰をさすって
「頑張りぃ。
 元気な赤ちゃんに会えるから頑張りぃ」
 と励ましますが、
 死産をするお母さんには
 かける言葉がありません。
 赤ちゃんが元気に生まれてきた時の
 分娩室は賑やかですが、
 死産のときは本当に静かです。
 しーんとした中に、
 お母さんの泣く声だけが響くんですよ。
 
 
 そのお母さんは分娩室で胸に抱いた後
「一晩抱っこして寝ていいですか」
 と言いました。
 明日にはお葬式をしないといけない。
 せめて今晩一晩だけでも
 抱っこしていたいというのです。
 私たちは「いいですよ」と言って、
 赤ちゃんにきれいな服を着せて、
 お母さんの部屋に連れていきました。
 
 ・   ・   ・   ・   ・
 その日の夜、
 看護師が様子を見に行くと、
 お母さんは月明かりに照らされて
 ベッドの上に座り、
 子どもを抱いていました。
「大丈夫ですか」と声をかけると、
「いまね、この子に
 おっぱいあげていたんですよ」
 と答えました。
 よく見ると、お母さんはじわっと
 零(こぼ)れてくるお乳を
 指で掬(すく)って、
 赤ちゃんの口元まで運んでいたのです。
 
 死産であっても、胎盤が外れた瞬間に
 ホルモンの働きでお乳が出始めます。
 死産したお母さんの場合、
 お乳が張らないような
 薬を飲ませて止めますが、
 すぐには止まりません。
 そのお母さんも、
 赤ちゃんを抱いていたら
 じわっとお乳が滲んできたので、
 それを飲ませようとしていたのです。
 飲ませてあげたかったのでしょうね。
 
 死産の子であっても、
 お母さんにとって子どもは宝物なんです。
 生きている子ならなおさらです。
 一晩中泣きやまなかったりすると
「ああ、うるさいな」と
 思うかもしれませんが、
 それこそ母親にとって
 最高に幸せなことなんですよ。
 
 母親学級でこういう話をすると、
 涙を流すお母さんがたくさんいます。
 でも、その涙は浄化の涙で、
 自分に授かった命を慈しもう
 という気持ちに変わります。
「そんな辛い思いをしながら
 子どもを産む人がいるのなら
 私も頑張ろう」
「お乳を飲ませるのは
 幸せなことなんだな」
 と前向きになって、
 母性のスイッチが入るんですね。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

いかがでしょうか?
私は、もしも我が子がこうなっていたら・・・と思うと、胸の奥を鷲掴みにされるような感覚でした。

この記事を読んで感じることは、人によってさまざまです。
そんな感想を集めてみました。

私と同じように、今元気でいてくれる子どもに対する愛情を再確認する声も多かったですが、

こういった死産の経験を、「それでも幸せだった」と語る感想もありました。

実際に経験されているママの気持ちが、どれだけの苦悩だったのか想像することすら辛いことです。

ちなみに「死産」とされるのは「妊娠12週以降に子宮内で胎児が死亡した状態で出産されること」と、法律で定められています。
なぜ12週かと言うと、現代の医学なら「出産できれば延命できる可能性がある」のが12週からだからだそうです。

この週を過ぎると、「死産届」というのを役所に提出する必要があります。

ただでさえ、新しい生命に期待でいっぱいだったところから、そういったものを書かなくてはいけなくなるなんて、「悲しい」「辛い」といった言葉ではもはや言い表せられません。

この世に生まれてきた命はすべて奇跡

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子育てには喜びや発見がたくさんありますが、時にはどうしようもない気持ちになり疲れてしまうこともあります。
もし、しんどくて辛くなって思い詰めてしまった時はぜひこの話を思い出してください。

出産を経験した女性なら誰もが感じたことのある、生まれてきてくれた生命への感謝を思い返すことができると思います。

子どもとママは、お互いに生きているからこそ、ぶつかり合ってしまいます。
でも、生きてこの世に存在してくれているからこそ、ぶつかり合った時の痛みを感じられるとも言えるのではないかとも思うのです。

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