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公開 2016年01月31日  

シェアする時代の暮らし方「コレクティブハウス」が核家族の子育てにこそ”うれしい”理由

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家族の独立した住戸の他に、大きなダイニングキッチンやテラスなどの共有スペースがふんだんにあり、住人同士ゆるやかにつながりながら暮らすーー。そんな「コレクティブハウス」に住む矢田さん一家に、日々の生活の様子やコレクティブハウスを選択した理由についてインタビューしました。


広々とした共有スペースで、子どもがのびのびと過ごす

矢田浩明さん・智美さん夫婦と小学校4年生の息子さんが住むコレクティブハウスには、若い独身者、子どものいる家族、高齢者など、様々な世代の人たちが暮らしています。それぞれにキッチンもトイレもある独立した住戸がありますが、「コモンスペース」と言う、大きなキッチン付きの食堂をはじめとする共有スペースがある点が、普通のマンションとは違います。

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コモンスペースは他に、菜園付きの屋上、バーベキューもできるテラス、広いロフト、乾燥機も備わった洗濯室などなど…。ここまでゆったりと充実した住空間は、一般的な都会暮らしではなかなか手に入らないのではないでしょうか。

「家の中に子どもがいないな、と思ったらロフトで一人で本を読んでいたり、他の子と遊んでいたりということはよくありますよ」と智美さん。

矢田さん一家の住戸は1LDKとそれほど広くはないものの、自宅の延長のような共有スペースがあることで、元気いっぱいの息子さんものびのびと過ごしているようです。

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なんでも話し合い、みんなで暮らしをつくるコレクティブハウス

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矢田さん一家を訪問したのは、ちょうど「コモンミール」の日でした。

「コモンミール」とは、住民たちが持ち回りで料理をして一緒に食事をすること 。矢田さん一家が暮らすコレクティブハウスでは、1回の食事づくりに当たるのは1~3人、今は一人が月に2回ほど都合の良い日に担当しています。食べる方は参加必須ではありませんが、矢田さん一家はほぼ毎回食べているそうです。

一人400円(子どもは200円)で手づくりのご飯がいただけるのは、共働きの家庭にとってうれしい仕組みですよね。

食事づくりのほか、共有スペースの管理も住民が自分たちで行います。

たとえば掃除はいくつかのエリアに分け、「今週は◯◯さんが食堂の掃除」というように週替りで分担。小学校の掃除の時間を思い出しますが、そこは忙しい大人たちのこと、担当になった人はその週に1回、都合の良い時間に掃除をしておけば良いという柔軟な運用です。

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驚いたのは、食堂の椅子ひとつとっても、住民みんなで話し合って選んできたという話。マンションなどの集合住宅では、毎年決まった管理費を支払うのが一般的ですが、コレクティブハウスでは年間の予算をみんなで検討し、そこから逆算して共益費の額を決めるのだそうです。

そういった運営のための話し合いが、毎月1回全員参加で行われます。多数決はとらず、とことん話し合いをして決めていくため、会議が4時間くらいかかってしまうこともよくあるのだとか。

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夫が家事をするようになる「ありがたいしくみ」

住人の役割や関わり合いが多い暮らしを、面倒に感じる人も多いかもしれません。

コレクティブハウスに最初に興味を持ったのは夫の浩明さんの方でした。智美さんは、どちらかというと人見知りの浩明さんがそんな暮らし方を考えていることを意外に感じ、「大丈夫なの?」と心配したそうです。ですが、入居を検討する人たちとのワークショップに参加していくうちに 、不安は払拭されました。

「みんな自分のプライバシーは大事にしていて、ベタベタした関係を求めているわけではないんですよね。ほどよい距離感の人付き合いが自然にできるので、この環境はむしろコミュニケーションが苦手な人向きかもしれません。得意な人だったら、こういうところに住まなくても、自分でどんどんつながりをつくっていけるでしょうからね」(智美さん)

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入居前に何度も開催されるワークショップは、お互いをよく知り合う機会になると共に、自分自身の暮らし方を見つめ直すきっかけになったといいます。

「ワークショップでは、どんな暮らしをしたいかとか、食事についての考えとか、いろんなことを問われるんです。そうするとだんだん、それまでの自分の生活には“暮らし”の部分が欠けていたと感じるようになって。

暮らしって雑事の積み重ねなので、もちろん面倒くさい部分があります。それを全部外注することもできるけど、それってどうなのかなと…。だからといって逆に全部自分でやるというのも、僕なんかは意思が弱くてなかなか難しい(笑)

ここだとみんなで食事をつくったり庭仕事したり、自分でやるきっかけみたいなものが日常的にあって、自然に暮らしが充実するのがいいんです」(浩明さん)

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以前はほとんど家事をしなかったという浩明さんですが、コレクティブハウスに住むようになってからは自然に家事をやるようになったといいます。特に料理は、みんなでワイワイつくりながら教わることも多かったそう。

「夫婦の間で教えようと思うとケンカになっちゃうんですよね。それが他の方からだと素直に聞くし、みなさんも上手に褒めてくれるのでさらにやる気も出たりして…。ここのしくみによって夫が家事をやるようになって、奥さんとしてはとってもありがたいです(笑)」(智美さん)

一人っ子も寂しくない!きょうだいみたいに育つコレクティブハウスの子どもたち

浩明さんがコレクティブハウスに興味を持ったのは、子育ての環境を考えてのことでした。

「当時、近所に親戚 やママ友みたいな親しい人たちのほかは、同じマンションの人でもあいさつはするけれどそれ以上の関係はないし、その外に出ると『知らない人についていっちゃいけません』という世界。それってすごくいびつだなと感じていて…。すごく親しい人と外の知らない人との間の関係がある環境で子どもに育って欲しかったんです」(浩明さん)

たしかに、人となりをよく知る人たちがすぐそばにいる安心感は、子育てをする上でとても大きいですね。

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「息子は私より先に学校から帰るので、コレクティブハウスの中にいれば安全というのはいいですよね。保育園時代はお迎えを頼んだり、住人同士で助け合うことも多く、それも良く知っている相手だから安心してお願いできます」と智美さん。

住人同士の関わりあいの中で、子どもたちが社会性を自然に身につけられるのも魅力的です。

「今、ここには8人の子どもがいるんですけど、お休みの日に保育園に行っている子が中学生のいるうちに『遊ぼうぜ―』って誘いに行ったりするんですよ(笑) こういうところじゃなかったら、なかなかない光景ですよね」(智美さん)

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矢田さんのお子さんは上から2番目。家族の中では一人っ子だけど、小さい子どもたちの良いお兄さんになりそうです。
また、大人が話し合いながら共同生活を送る様子を見ているので、子どもも「互いの意見を出しあう」ことに慣れているようです。

「ここに住んでいる小学生と中学生で『子ども会議』というのをやっているんですが、息子は『今日は子ども会議だから、あれとあれを言おう』とか事前に考えていたりしますし、最近では自分で議事録もとります。周りの大人たちの助けもあって、そういうことが自然にできるようになっていますね 」(浩明さん)

「うちの子は『意見を言ってもいいんだ』という気持を自然に持っているような気がします。学校でも自分の考えをはっきり言うようですし、相手にも『お前はどう思うの?』『言わなきゃ分かんないよ』みたいに意見を求めるので、うるさい子だと思われてるでしょうね(苦笑)」(智美さん)

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核家族時代の豊かな暮らし方

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頼りになる両親や親戚などが近くにいない核家族の時代。コレクティブハウスでの暮らしは、自分たちの生活を共同で運営していく仲間が得られ、精神的にも物質的にも満たされた生活を送る新しい方法なのだと矢田さん一家のお話から感じました。

(取材・文/やつづか えり)

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