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公開 2015年12月05日  

兼業主夫×キャリアウーマン。夫婦で常識にとらわれない子育てができるのはなぜ?

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杉山家は、ご夫婦に11歳と3歳の女の子二人の4人家族。「兼業主夫 放送作家」である杉山錠士(すぎやま じょうじ)さんが家事や育児の多くを担い、亜矢子さんはアパレルメーカーのデザイナーとしてバリバリ働いています。錠士さんが主夫になった経緯や主夫のいる家庭の様子について、錠士さんの経営するバーにてお話をうかがいました。


主夫(主婦)とは「主体的に家事をする人」

「私は“しゅふ”です」ーー。

これが女性の言葉だと「ああ、結婚してるんだな」くらいの印象しか残りませんが、男性が言うと、「お?」と思いますよね。特に錠士さんの場合、共働きの「兼業主夫」ということで、「そもそも“しゅふ(主婦/主夫)”ってなんだっけ?」と考えてしまいました。

錠士さんによれば、「しゅふ」とは「主体的に家事をする人」。どのくらいやるかは関係ないそうです。亜矢子さんが出した結婚の条件が「家事・育児を5:5でやること」だったということで、以前もかなりやっていた錠士さんですが、「主夫」を自認するようになってからは家事のことも子どもの細かいことにも、気づくようになったと言います。

錠士さんは放送の仕事の他、3年前に始めたバーの経営や、保育園や学校のパパ会にPTA、「秘密結社 主夫の友 」の活動などにも忙しい日々。夫婦の役割分担は日によって変わりますが、亜矢子さんが朝食や子どもたちの支度をし、出勤途中に次女を保育園に送る。その後に起きた錠士さんが残りの家事を担当。夜は亜矢子さんが帰宅途中に保育園に迎えに行き、帰ってきたら錠士さんがつくった夕食を食べる、というパターンが多いそうです。

「夫は仕事で2週間家をあけたり、夜いないことも多いので、そういう時は私が全部やるんですよ」と言う亜矢子さんに、「そんなに多くはないでしょ。週の半分以上は夕ご飯をつくれてるし」と応じる錠士さん。

臨機応変に家庭を切り盛りしている様子がうかがえます。

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実は離婚を考えていた! 兼業主夫への転身を決意した理由

錠士さんが「専業兼業主夫」になろうと決めたのは、長女の夏生ちゃんが5歳のころ。保育士さんから夏生ちゃんの睡眠不足を指摘されたことがきっかけでした。当時は夫婦共に忙しく、お迎えが22時前になることも。

「今はなんとかなっていても、小学校にあがったらどうするつもりですか!?」と、かなり強い調子で注意されたそうです。
「確かに問題だ」と感じた錠士さん。その日の夜、夫婦で相談をしますが、亜矢子さんは「どうしよう?私は仕事の時間を変えることはできないよ」という反応でした。

「それなら自分がどうにかするしかない」と思いつつ、子育てに対する温度感の違いを感じた錠士さんは、離婚して娘と二人で暮らそうか、とまで考えるようになったそうです。

でも少し調べてみると、離婚して父親が子どもの親権を取るのはとても難しいことが分かります。それでも、「別れることになった時に少しでも有利になるよう、家事や育児をしているという実績を残していこう」と考え、錠士さんは仕事を減らして主夫役を担う決心をしたのでした。

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「兼業主夫 放送作家」杉山錠士さん

「ウチはウチ。」で夫婦の結束が固まった

そんな理由が隠されていたものの、錠士さんが働き方を変え、亜矢子さんはより仕事にエネルギーを注げるようになりました。また、次女の珠生ちゃんの妊娠中に2ヶ月間の入院を余儀なくされた時には、近くに住む両親の協力も得ながら、錠士さんに家や夏生ちゃんのことをすっかり任せられたのでした。

子どもの誕生や成長に伴い、家庭の状況はどんどん変わります。問題があるたびに着地点を探りつつ、生活のリズムをつくってきた杉山夫妻ですが、その過程では何度となくケンカもしたそう。でも、その衝突をきっかけに気づくこともありました。

ある時、亜矢子さんが「普通、そういうことは奥さんに相談するものでしょう?」と怒り、錠士さんが「俺に普通を求めるなら、普通の奥さんやれよ」と言い返したことがありました。

つい口から出た言葉に、「あれ?」と感じた二人。自分たちはいわゆる「普通」の夫婦でありたいわけではないはずだと気づき、以来「ウチはウチ。」というのが家族のモットーになったとのことです。

子どもにも、常識にとらわれずに生きてほしい

長女の夏生ちゃんに、「パパとママはどうして違うことを言うの?」と聞かれ、「違う人間だから当たり前」と答えるくらい、錠士さんと亜矢子さんは考え方や性格が違うようです。

ですが、二人は小学生のころからそれぞれファッションデザイナー、サッカー選手という夢に邁進した経験があり、子どもたちが好きなこと、得意なことを追求するのを応援する姿勢は共通です。

5歳の時にクラシックバレエを始めた夏生ちゃんは、2年生で選抜コースに入り、今は連日夜まで練習してたくさんのコンクールに出る日々だそう。がんばる夏生ちゃんのことを話す二人は、とてもうれしそうです。サポートする親として時間的、経済的負担はあるものの、「夏生のバレエの役に立つことなら、できるだけのことはしてあげたい」と錠士さん。

また、世間一般の「当たり前」にとらわれず、前例がないことをやってきたのも二人の共通点。錠士さんが「兼業主夫」になったのはもとより、亜矢子さんも、最初の出産の頃は「女性デザイナーは子どもができたら辞めるもの」という雰囲気の中、退職など一切考えずにフルタイムで働き続けてきました。

「海外のバレエ団は身長が高い方が入りやすいという話をよく聞くけど、夏生は今のところ背が低めです。だけどもし背が伸びなくても、世界一小さいプリンシパルになる方法を見つければいいと考えているんです」と錠士さん。

「ムリだ、ダメだと周りに言われるようなことを開拓してきた夫婦なので、子どもにはその点を受け継いでほしいですね」と亜矢子さん。


子どもの個性を尊重し、自分なりの道を切り拓いていってほしいと願う気持は、ぴったり一致しているお二人なのでした。

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(取材・文/やつづか えり)

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