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公開 2015年11月18日  

「資生堂ショック」は時短ママ社員のキャリアをどう変えるか

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NHKニュースで取り上げられたことで一気に話題になった資生堂の人事施策、通称「資生堂ショック」。「甘えるな」というメッセージに、一定の批判も集まったようです。しかし、様々な女性の働き方を取材してきた筆者としては、むしろ好意的にこの一件を捉えています。それはなぜか、今回は特に「時短勤務者の働き方とキャリア」という面について考えてみます。


先日、「資生堂ショック」という言葉が話題になりました。

資生堂では昨年4月から、デパートなどで接客する美容部員に関して、時短勤務中でも遅番や土日勤務をさせるという方針でシフトを組むようになりました。

「女性に優しい会社として有名な会社が一転、厳しい姿勢に」と、この動きに「資生堂ショック」と名付けたのは『アエラ』(2015年8月3日号)。それが、NHKの朝の番組で紹介されて一気に話題になったのです。やっぱりテレビの影響って大きいですね…。

番組の内容は、こちらで紹介されています。

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ニュースでは、美容部員に配布されたDVDで役員が「制度に甘えるな」と語っていることなどが紹介され、ネット上で

「時短勤務は“甘え”ということ?」

「女性が働きにくくなる制度改革だ!」


といった批判の声が巻き起こりました。一方、「会社としては妥当な判断」など、肯定的に捉える人もいます。

報道された内容だけで良し悪しの判断は難しいですが、関連記事や資生堂のサイトで紹介されている子育て支援策などを見る限り、私はわりと好意的に受け止めています。

それはなぜか、今回は特に「時短勤務者の働き方とキャリア」という面について考えてみます。

時短勤務は「甘え」?

否定的な意見の多くは、「甘えるな」というメッセージや、遅番と土日勤務、1日18人接客というノルマを時短勤務中にも課すことに対するものでした。

「時短勤務=甘え」という主張をしているなら確かに大問題ですが、本旨はきっとそうではないでしょう。

というのも、資生堂では時短勤務者のいる店には「カンガルースタッフ」という応援要員を派遣するなど、子育て支援に力を入れてきた経緯があるからです。それにより、以前は子育てのための退職が多かった美容部員も時短勤務を選択しやすくなり、仕事と両立する人が増えてきたそうです。

ではなぜ「甘え」という言葉が出てきたのか?

それは「時短社員としての働き方」が無意識のうちに固定化し、組織への貢献方法を考えなくなっている社員が一定数存在するようになってしまったからなのだと思います。

例えば、時短勤務の美容部員は「早番」が暗黙のルールになっていたといいます。ですが、資生堂の制度は「育児時間を子どもが小学校3年生の年度末まで、1日2時間まで取得可」というものであって、「平日・早番」を約束するものではありません。

保育園のお迎えの時間などを考えると、早番の方が子育てしやすいのはもちろんです。ただ、子どもがいない社員だって、仕事後にやりたいことがある中で時間を調整して遅番を担当している人がいるはず。

週に何度かはお迎えや家事を他の人にやってもらうなど、「売り場の一員としてより貢献するために、お客さんの多い夕方以降や週末のシフトに入る方法を考えてよ」というのが会社側の言い分なのでしょう。

夫や両親などの協力が得にくい人もいるので、本当はそれぞれ自分の状況に応じて最大限できることを考えるのが理想です。でも「時短勤務=早番」と思考停止状態になっているとしたら、「そうじゃないよね?」と気づかせる必要があると、会社は考えたのだと思われます。

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「マミートラック」防止にもなるはず

人員不足を解消するだけなら、カンガルースタッフを増やせば良いかもしれません。そうではなく、資生堂が育児中の美容部員の働き方を変えたのは、彼女達のキャリアアップも促進したいからだと考えられます。

「子育て中だから、これしかできない」「時短勤務者に重要な仕事は任せられない」といった考え方が蔓延し、子育て中の社員がチャレンジングな仕事から遠ざかり、昇進・昇格のコースからはずれてしまうことを「マミートラック現象」と言います。

「マミートラック」に乗ってしまった社員は、仕事の充実感を得にくい、将来のキャリアアップが期待できないという状態に陥ります。そんな社員が多数になると、会社としては重要な仕事が回らない、会社を引っ張ってくれるリーダー人材が減ってしまうという問題が生じます。

女性が多く、早くから育児との両立支援制度を充実させてきた大企業には、この問題に直面している会社が多いと聞きます。

こちらの記事では、「ステップアップのためには、繁忙期に店頭に立つことが必要だ」という人事担当者の言葉が紹介されていました。「早番しかしない」のはキャリア上、本人にとってマイナスになってしまうと捉えていることが分かります。

資生堂の美容部員は研修や海外派遣を経て専門性を極めていくほか、本社や関係会社への異動で仕事の幅を広げるという道もあるようで、子育て中の社員であってもそうした多様なチャンスを活かしてほしいと考えているのではないでしょうか。

「子どもを預けて働く罪悪感」をぬぐえるか

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NHKのニュースでは、「協力者がいない場合はベビーシッターの補助を出すほか、地域の子育てサービスを活用するようアドバイスしています」ともあります。

これは、「できればもっと頑張りたいけど、ムリ…」と諦めていた人や「ベビーシッターまで利用して働いてもいいものか…」と迷う人の背中を押すことにもなるはずです。

「小さな子どもを預けて働く」ということに、母親自身が罪悪感を感じてしまうこともまだまだある中、会社が「こういうやり方もあり」と示すことには意義があります。

「実はもっと働きたい。協力してもらえない?」と、夫に相談してみるきっかけを得た人もいるかもしれません。

もちろん「そこまでして仕事をしたくない」という人もいるでしょう。でも、資生堂としては、がんばってキャリアアップしていきたい人を歓迎しますよ、という姿勢を明示したわけで、働く人と組織の方向性すり合わせる機会としては、一歩前進ではないかと思うのです。

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