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公開 2015年10月31日  

保育園に預ける罪悪感と戦うのは、もう終わりにしよう。『保育園義務教育化』で子育ては変わるか

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社会学者・古市憲寿さんが書いた『保育園義務教育化』を編集部スタッフで読み、フリートークをしてみました。その一部をご紹介します。


目次 『保育園義務教育化』を知っていますか?
保育園を「義務」にすることで、ライフスタイルの幅が拡がる
子育てにまつわる”神話”は多い
なぜお母さんは批判の対象になりやすいのだろう
あるべき「家族像」が神話を生んでいる?
「いいお母さんをできなかった」そう思っているのはお母さんだけかもしれない。
幼児教育は、投資対効果が高い!?

『保育園義務教育化』を知っていますか?

「独身男性が書いたのに、ママがめちゃめちゃ共感できる育児本」と言うことで話題になった、若手社会学者・古市憲寿さんの『保育園義務教育化』という本をご存知でしょうか。

「0歳から小学校に入るまでの保育園・幼稚園を無料にした上で、通う頻度に自由度のある義務教育にしてしまえばいい」という斬新なアイデアは、多くの反響を呼びました。

また、お母さんたちが子育てを苦しく感じてしまう社会構造や、子育ての常識だと思っていたことが実はそうではない、ということを誰にでもわかりやすく解説してくれている本です。

そこで、今回は編集部スタッフも『保育園義務教育化』を読んでみました!

大学生スタッフの「ブルー」
児童福祉の現場経験のある「グリーン」
そして現役ママの「ピンク」

それぞれの視点で感想をシェアします。

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保育園を「義務」にすることで、ライフスタイルの幅が拡がる

ピンク:私は「保育園義務教育化」というアイデア自体がいいなと感じています。まず、保育のスタイルが選べるのは大事ですよね。「フルタイム」「この曜日だけ」「短時間で」など、子どもの預け方を選べるようになると、お父さんもお母さんも働き方や生活の選択肢が広がると思うんです。

いっそ保育園を義務教育にして無料にしてしまえば、誰もが気軽に安心して子どもを産めるようになるのではないだろうか。
「義務教育」ということになれば、国も本気で保育園を整備するから待機児童問題もなくなるだろうし、保育園があることが約束されていれば「うっかり」子どもを産んでしまいやすくなる。

「義務教育」だと、子どもを保育園に預けることに、後ろめたさを感じることもなくなる。「国が義務っていうから仕方なく保育園に行かせてるんだよね」と「国」を理由に堂々と言い訳できるようになるからだ。

もしかしたら「義務教育」という言葉に抵抗感を持つ人がいるかも知れない。だけどこの本は「義務教育」をもっと柔軟な概念で捉えている。
たとえば毎日朝から晩まで子どもを預ける人がいてもいいし、週に一度1時間だけ預ける専業主婦のお母さんがいてもいい。

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ブルー:今は週5フルタイム以外では保育園に入りにくかったり、預ける選択肢も少ないですよね。

ピンク:もう一つは罪悪感のこと。私の母親は私を産んで1ヶ月で私を祖父母に預けて仕事復帰をしていたので、私が仕事復帰することを応援してくれていたのですが、息子を保育園に預けて仕事復帰するとなった時、私のおばあちゃんに、「まだ小さいのに保育園に入れるなんてかわいそうだ」と泣かれるという出来事があったんです。

子どもがかわいそうと言われると、揺れるところがあるんですよね。

グリーン:子どものことを言われると辛いですね・・・。

ピンク:そうなんです。でも、保育園が義務になると、子どもを産んでも働くことのハードルが下がると思うんです。私は妊娠しても働こうと決めていましたが、働いている女性は、妊娠をした時、子どもを産んだタイミング、復帰をするタイミング、と「そのまま働き続けるか、子どもを保育園に預けて働くのか」という選択に直面します。

ブルー:うんうん。

ピンク:3歳児神話で母親が一緒にいてあげないと子どもがかわいそうだと言われる中で、働くことを選択し続けることって、相当しんどいと思うんですよね。だから、「義務!」って言ってもらえることで楽になる人、多いと思います。

子育てにまつわる”神話”は多い

ブルー:僕は母性神話、母乳教、三歳児神話など、子育て中のお母さんが悩むポイントは、高度成長期時代に創りだされた、まさに神話であるという部分が印象に残りました。

子どもが泣いた時は「すべて私が悪い」と謝罪することが求められ、ベビーシッターを使おうとすると「母性がないのか」と糾弾される。
(中略)
未だに子どもが3歳まではお母さんが育てるべきだという「三歳児神話」を信じている人がいる。しかし、その神話は文部科学省が公式に否定している上に、専業主婦など、外部との交流がないお母さんほど育児不安になる割合が高いことがわかっている。
(中略)
「子ども」によかれと「お母さん」に対して強制していることが、実は必要以上にお母さんを苦しめているかもしれないのだ。「母乳教」もその1つだ。

グリーン:とてもわかりやすくまとまっていましたよね。ブルーは大学生だけど、周りの友だちは、子育てにまつわる神話についてどんな認識なんだろう?

ブルー:僕の周りでは、そもそも子育てについて話題にならないことが多いですが、子育て支援や教育を学んでいる学生でも、これらがあくまで神話だという認識がない人は結構いると思います。

グリーン:僕も地域の児童福祉に携わっていたいたけれど、現役の保育士や自治体の相談窓口でも、母乳神話や三歳児神話についての認識は人によって違う。

多くの場合、こうした主張って根拠があるというよりはそれぞれの経験則に基づいているので、「私はこれでうまくいった」というものがあると、かえって視野が狭くなりやすいですよね。

なぜお母さんは批判の対象になりやすいのだろう

ピンク:電車に乗ったり、旅行に行ったり、仕事をするというそれまで当たり前にしていたことも、「お母さん」になることで、批判をされたり社会の反応が変わるという話がありました。

ブルー: お母さんを大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけがないという章の中で出てきたエピソードですね。

「お母さん」には、一般の「人間」以上の規律が課される。
電車にベビーカーで乗れば白い目で見られる。新幹線や飛行機で子どもが泣くと嫌がられる。仕事を頑張ると「子どもがかわいそう」と言われる。小さな子どもを預けて旅行にでも行ったものなら鬼畜扱いを受ける。

「電車に乗る」ことも「仕事を頑張る」ことも、「旅行をする」ことも、多くの人が権利だと意識することもなく、当たり前にしていることだ。それなのに、「お母さん」が同じことをすると社会の反応はまるで変わる。

「お母さん」になった途端、誰から文句を言われないストライクゾーンが極度に狭まってしまう。日本の「お母さん」には基本的人権が認められていないようなのだ。

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ピンク:私自身、お母さんになって、モヤモヤしたり、なんだか息苦しくなってしまう瞬間が増えたのは、古市さんのいうところの「お母さんには基本的人権が認められていない」ということなんだと思ったら、なんだか理屈が分かってすっきりした気がします。

ブルー:それにしてもなぜ母親は批判の対象になりやすいんでしょうね?

グリーン:それ、僕も思ったんですけど。赤ちゃんって、ちょっと神様みたいなところあるじゃないですか。

ピンク:神様(笑)。

グリーン:そうそう。絶対守られなければならないし、愛情注がれなければならないし、大切にされるべきだとみんなが思っている存在って、そんなにないと思うんですよ。そういう意味で、神様っぽいポジションにいるなあって思っていて。

ピンク:おもしろい(笑)。

グリーン:その完全な存在である神様と、いつも一緒にいるのはお母さんだから、ちょっとしたことでも「何やってんだ!」ってことになってしまう。他の事だったらそこまでは言われないよねってくらい、とことん言われてしまうのは、お母さんがそういうポジションにいるからじゃないかなと思ったんです。

ピンク:それはありますね。あとは誰でも子育てをされたり、した経験があるので、持論を持っているというのも大きいと思います。環境問題とかだと、ここまで盛り上がれないんじゃないかな。

あるべき「家族像」が神話を生んでいる?

グリーン:「親になる条件」として、家の広さや経済状況など養子縁組の条件が紹介されていましたよね。これがまさに、当時言われていたあるべき理想的な家族像だと。

今の日本で親になるには、ある程度のお金があり、教養があることが前提とされている。それを象徴するのが、養子縁組をする時の養親に求められる基準だ。斡旋する団体によって条件は違うのだが、だいたい次のような要件を満たすことが求められている。
・25歳から45歳までの婚姻届を出している夫婦
・離婚の可能性がなさそうなこと
・健康で安定した収入があること
・育児をするのに十分な広さの家があること
・共働きの場合、一定期間は夫婦のどちらかが家で育児に専念できること

ピンク:十分な広さの家に住んでいて、共働きの場合は一定の期間は夫婦のどちらかが家で育児に専念できるなど、今子育てしている親の中でもこの条件を十分に満たせている家庭は少ない気がしますね。

グリーン:「専業主婦」は「サラリーマン」と共に、戦後の高度成長期に生まれたということが書いてあったけど、例えばドラえもんやサザエさん、クレヨンしんちゃんなどアニメもだいたいそれにならっていますよね。

ブルー:たしかに、アニメに出てくる家はみんな、戸建ての家に住んでいて、サラリーマンのパパと専業主婦のママですね!

ピンク:シングル家庭や、ステップファミリー、LGBTなど、最近では家族のカタチも多様になってきてますから、もう少しいろんなロールモデルがあっていいですよね。

グリーン:そう思います「あるべき家族像」みたいなものがあることによって生まれている、問題って結構多いと思うので、Conobieでも多様な家族のカタチがあるということを伝えていくことは大事だと感じました。

ピンク:そうですね。多様な家族の取材に行ってみたいです!行きましょう!!

「いいお母さんをできなかった」そう思っているのはお母さんだけかもしれない。

グリーン:僕の母親も自営業だったので、僕のことをおんぶしながら仕事をしていたそうです。たまに親から聞くのが「私は良いお母さんをできなかった、子どもをゆっくり見てあげられなかった」ということ。

でも僕は、ぶっちゃけ細かいこと覚えてないし、むしろ意外と楽しかったよ。と言ってあげたい。

ブルー:子ども本人は感じてなかったとしても、お母さんは子どもが大きくなっても後悔していたりするんですね。

ピンク:私自身も生後1ヶ月から母が働いていたのでその間は祖父母に預けられていましたが、親から愛情を受けられなかったということを感じた記憶はないですね。

グリーン:Conobieの記事を見ていると、周りの大人が自己肯定感をもつことが大事という記事が多いと思うんですが、親自身が自分を必要以上に責めることなく、活き活きと生きられる環境を作るという意味でも「保育園義務教育化」という提言はいいなと思いますね。

ピンク:そうですよね。ぜひ実現したいです。

幼児教育は、投資対効果が高い!?

ブルー:幼児期教育の投資対効果が高いという話も、今のちょっとしたトレンドですよね。社会として保育の環境を整えることが大事で、子育て家庭だけでなく、子育てしていない人にとっても大事であるというメッセージは重要だと思っています。

ピンク:そうですよね。保育園を義務教育化し、幼児教育に税金を事前配分することで、結果的に犯罪者や生活保護者が少なくなり、コスパがよいという話も、なるほどありえそうな話だ思いました。

教育経済学の分野では、「子どもの教育は、乳幼児期に一番お金をかけるのがいい」ということが定説になっている。
アメリカでは様々な実験が行われてきたが、その多くが「良質な保育園に行った子どもは、人生の成功者になる可能性が高い」といった結果を示している。
それは、赤ちゃんに対して、数学や英語など英才教育を施せばいいという話ではない。良質な保育園に通った子どもたちは、そこで「非認知能力」なるものを身につけていたのだ。
「非認知能力」とは、意欲や忍耐力、自制心、創造力といった広い意味で、生きていくために必要な力のことである。

ブルー: 科学的な根拠を示すということは、当事者じゃない人に対しても伝わりやすくなっていいですね。ところで、この本に書いてある保育園義務教育化って、どのくらい実現可能な話なんでしょうか?

グリーン:海外には実際にそうした事例があるようので、できないことはないと思います。そういう意味では、どうやったら実現していけるのかについてはこの本に具体的には書いてありませんね。この本はあくまでも提言なので、この本を受けて僕たちがどうするかが重要だと思いますよ。

実現していくために僕たちができることは何かとか、一人のお母さんが何をできるかということについても、古市さんのお考えを聞いてみたいですね!

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