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公開 2016年02月02日  

安全に産める国=育てやすい国ではない。産後家族をサポートする「3・3・産後プロジェクト」とは?

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「産後」という言葉から、皆さんはどんなイメージを持つでしょうか。男性の中には「無事に出産を終えたらそれでもう大丈夫」と思っている人も多いようです。「産後の女性の心身を大切にすること」は、産後うつや虐待を減らすことにもつながります。家族で、企業で、そして社会全体で産後家族をサポートするために始動した「3・3・産後プロジェクト」を詳しくご紹介します。


「産後」のイメージと現実とのギャップ

皆さんは、「産後」という言葉から何をイメージしますか?

赤ちゃんを抱っこしてママが笑っているところ? 家族でおしゃべりしているところ?それとも、ベッドで出産で疲れた身体を休めているところでしょうか。

少子化で赤ちゃんと接する機会が減り、兄弟姉妹や親戚の赤ちゃんと生活を共にする機会も減りました。妊娠中にイメージする「産後」は「赤ちゃんが生まれて、いつも笑っていて幸せいっぱい」なイメージを持っている方が多いようです。

しかし現実の産後のママは、腰痛・手首の痛み・会陰切開あとの痛み・尿漏れ・乳首の痛み・おっぱいの張り・肩こり・背中の痛みなど症状を感じる方が多いです。

そして、産後には体の症状だけではなく、心にも変化があらわれます。

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青野敏博:新女性医学体系32産褥P28 中山書店,2001より

上のグラフをご覧ください。産後はこれほどのホルモンの大変動が起きるので、精神的に不安定になるのも無理はありません。産後ブルーで気持ちの沈みを感じているママは、約80%もいます。涙が出てばかりいる、母としての自信が持てない…と、不安定になるのが産後の心の特徴なのです。

このように、産後とは心と体が不安定な時期。このような時期に、慣れない赤ちゃんの育児が始まるのです。

幼児虐待や産後うつの増加にある側面とは?

「出産」は女性にとってかけがえのない体験であるとともに、大変な体験だということは多くの人が認識しています。しかし、「無事に産んだらそれで大丈夫」と思われがちで、産後ママへのサポートが十分ではないことがあります。そして、そのことに関係していると思われる事態も増えてきています。

それは、毎日のように報道される「乳幼児虐待事件」、そして「産後うつ」の急増です。

日本は、世界一周産期の死亡が少なく安全に産める国ですが、「安全に産める国=育てやすい国ではない」のが現状なのです。悲しい「乳幼児虐待」や「産後うつ」が増加している原因は、「ママの個人的な問題」だけでは決してありません。

ママが産後も大切にされ、家族からも社会からも育児の支援を受け、いつも笑顔で過ごしていたら、虐待は減らすことができるのではないでしょうか?逆に、産後に充分なサポートを受けられず、ママ自身に余裕がなく、疲弊し、孤立している状態であれば、子どもに優しくすることは難しいですよね。乳幼児虐待被害で亡くなっている子どもは、0歳児が43%。つまり、ママにとって「産後」の時期に多く起こっているのです。

そして「産後うつ」が急増する背景として、核家族のため赤ちゃんとママが2人きりで過ごす時間が増えていること、出産年齢の高齢化で両親からの支援を得にくくなっていること、また地域関係の希薄化などが関連しています。

つまりママが、産後大切にサポートされず、孤独で、支援を得にくくなり、社会的に孤立していることが、「産後うつ」の急増につながってしまっているのではないでしょうか?

産後のママに優しい社会を目指し「3・3・産後プロジェクト」始動!

そんな産後ママの現状を知り、家族や企業で何ができるかを考えて、社会全体が産後に優しくなるように…と、「産後3ヵ月まで、ママをしっかりサポート!3・3産後プロジェクト」が立ち上がりました。

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「3・3産後プロジェクト」のキックオフミーティングには、専門職や関係者が多く集まり、産後ママの現状や産後家族のサポートについての話し合いがなされました。そして「赤ちゃんに優しい家族5か条」「赤ちゃんに優しい企業5か条」が決定しました。

「赤ちゃんに優しい家族5か条」

「赤ちゃんに優しい家族5か条」とは、どんなものでしょうか。

1.産後の女性のカラダについて知識を深めます
2.赤ちゃんがいる生活をイメージし、父親の育休取得を含め、産後3カ月のサポート計画を、祖父母を含めた家族で立てます
3.妊娠中に産後ケアや子育て支援情報の収集・見学をし、産後、家族の手では足りない場合は、外部サービスを利用します
4.妊娠中から早起きを心がけ、朝ご飯を家族で食べます
5.妊娠中から夫婦・家族で近所を散歩し、産後1カ月健診でOKがでたら赤ちゃんも一緒に再開します


産後の女性の体はボロボロで、ホルモンバランスも大きく変化します。「妊娠・出産は病気じゃない」とはいうものの、産後は胎盤がはがれた場所からの出血が続いているので、重症患者と同じ状態になっています。

さらには授乳による睡眠不足が続き、悩み・不安・ストレスがたまると、「産後うつ」「産後クライシス」「離婚」「乳幼児虐待」…と、負のサイクルに陥ってしまうことも。まずは「産後の女性の体について、家族みんなに正しく知ってもらう」ことが大切、ということから決定したのが、この5か条です。

「赤ちゃんに優しい企業5か条」

産後ママを守るのは、家族だけではなく会社も!ということで「赤ちゃんに優しい企業5か条」では、産後家族を守るためのこのような5か条が作成されました。

1.産後ママにとって家族のサポートが不足する時期(産後3カ月間)は、 そのパートナーたる父親(社員)の育休・有休(年休)取得を促進します
2.子が最低生後3カ月まで、父親(社員)の定時退社を促進します
3.自社内においてママ、パパネットワーク作りを推進し、とくに妊娠~産後3カ月の社員への、先輩パパママ社員からの声かけを促進します
4.社員に自分のカラダ、現在の妊娠・出産、不妊治療などについて学ぶ機会をつくります
5.産後ケアサービスの助成、孫育て休暇の導入などを検討し、必要があれば実施します


産後は、赤ちゃんとの生活に心細さを感じているママがほとんど。「パパが帰宅するだけでホッとする」という声もよく聞きます。産後に毎日パパが定時退社すれば、赤ちゃんの沐浴も夫婦2人でできるし、ママがホッとする時間も増えます。

私自身、1人目の育児中は夫が帰宅するだけで安心し、涙が出ることもありました。それほど夫を頼りにしていたのに、2人目妊娠中に夫の海外赴任が決まり、やむを得ず夫婦離れ離れでの出産・育児になってしまいました。

いのちの誕生という家族の大切な節目に、夫の仕事が優先されたことで、家族が心穏やかに過ごすことができなかったことが悔やまれます。せめて妊娠中から産後1年の間は、転勤異動辞令を控えるなど、企業側にも配慮がほしいと切に願っています。

産後ママに優しい社会になるように

「赤ちゃんに優しい家族5か条」「赤ちゃんに優しい企業5か条」が、少しずつでも多くの人たちに認識されるようになり、妊娠出産・育児に優しい企業が増えてほしい。そして「赤ちゃんが元気に生まれたらそれで大丈夫」ではなく、心身共にボロボロになっている産後ママをしっかりサポートできる家族・企業・社会になることを願ってやみません。これら5か条が、行政・企業・産後ケア施設・子育て支援団体などと一緒に、多くの人に知られて広がっていきますように。

そのことで、乳幼児の虐待が減り、産後うつに苦しむママが減り、産後クライシスによる離婚が減り、あたたかい家族が増えてほしいと願います。そして、今の子どもたちが大人になった頃には、「そんなことは当たり前」とだれもが認識しているような、あたたかい社会になっていくことを願っています。

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