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公開 2015年09月25日  

運動神経に遺伝は関係なかった!?上手な身のこなしは豊かな外遊び経験の副産物

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今回は子どもの遊びと身体の密接な関わりについてお話していきます。最近では、運動神経は遺伝ではないということがわかってきました。実は外遊びをすることで運動神経は発達するんです。


私は走ることが大好きで、昔から他の人と比べて早く走ることができる方でした。



しかし、ボールやラケットなどの道具を使うスポーツは苦手で、テニスやバスケットボールをやると、ひどく自分が不器用な人間に思えてきます。



中でもバレーボールは大の苦手で、ブロックをしようと手を広げて跳んだ際に、なぜか同時に足まで広がってしまうので、かなり恥ずかしいです(笑)。



学生時代は「もっと運動神経が良く生まれたかったなぁ」と思う一方で、足が速いと目立つことができる運動会などは、大好きでした。

「運動神経」は、遺伝ではないらしい

さて、この「運動神経」という言葉。



今回は「運動神経」という言葉について、一般的にみなさんが抱いているであろう誤解を解くところから始めていきましょう。



「運動神経は遺伝する」というのが多くの人が抱いているイメージだと思います。



私も子どもの頃、両親から運動会のたびに「私たちは足が速くないのに、不思議だねぇ。きっと、ヒロちゃんの足が速いのはおばあちゃんからの遺伝だね。おばあちゃんは(学生の時に)リレーの選手に選ばれてたんだよ」と言われていました。



しかし、近年「運動神経」が遺伝するという事はないということがわかってきました。



骨格や筋肉の質など遺伝による先天的な影響も多少はあるのですが、たくさん遊んで体を動かすことで「脳→脊髄→末梢神経→筋肉→運動」という神経の回路が後天的に発達をしていき運動神経が良くなるのだそうです。



つまり、「運動神経が良い子の親」は外で体を動かすことが好きで、親が子どもと一緒に外で遊んで体を動かしていることが、子どもの運動神経の発達を促進させる。逆に、親が体を動かすことに苦手意識を持っていると、子どももあまり体を動かすことなく育ち、外で体を動かすことが好きな親の子どもに比べて、運動神経が発達しないといえるのではないでしょうか。

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木登りが得意な人は、登る道が見える?

突然ですが、みなさん木登りは得意ですか?



得意と答えた方たちに「木登りのコツは何ですか?」と聞くと、きっと何割かの人はこう返すと思います。「どこに手や足をかけたら良いのか、木が教えてくれるよ」と。



私も木登りは好きで幼少期からよくやっていた遊びなのですが、木登りというのは、体を引き上げるための手足の力が必要なのはもちろんですが、それ以上に手足をどんな順番でどこにかけるかという「道」が見えないとできないものなのです。



この「道」が見えるか否かは重要で、どこに手や足をかけたら良いのかを木から感じ取れる状態になっている人は、木登りをするための身体の運び方=身のこなしができているということです。

2歳半で動物の遊具を飛び越えた長男

第4回のコラムでも書きましたが、私も子育てをして暮らしていた主夫時代の2年間は、家の中ではこじれやすい親子関係をほぐすために、毎日約3時間~4時間は公園を中心に子どもと外で遊んで過ごす生活を続けていました。



主夫生活が丸一年を過ぎようとしていた2013年の3月。当時2歳7ヶ月だった長男は、公園で高さが30~40㎝ほどの動物型遊具の背中に登ってジャンプする遊びが好きでした。



その動物型遊具のウサギの背中に立つ時はいつも、ウサギの真横にジャンプできるよう横向きに立っていたのですが、ある時、ウサギの背中に乗る長男の様子がいつもと違いました。



ウサギの後頭部の方を向いて、ちょっと空を見上げた形になっているウサギの目線と同じ方向に立っていたのです。ウサギの背中から一番高い鼻先までの高低差はおよそ30㎝、これを飛び越えて地面に降り立つとしたらかなりの跳躍が必要です。



「跳ぶ」ことはしょっちゅうやっていた長男ですが、「跳び越える」ことをやっていたのは見た覚えがありません。躊躇してやめるかなと見ていたその瞬間、長男は腕を振り子に踏み切りをつけてジャンプをしました。その跳躍の円形の美しさは、親バカですが思わず見とれるほどでした。



2歳半の子どもにこんな跳躍ができるとは思ってもいなかった私は、ややオーバーに感動しつつも、一方で「身のこなしができる子どもの力」というものを客観的に捉え、こういった理屈ではない身体の運び方の肌感覚を多くの子どもたちに身につけて欲しいなと思いました。

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身のこなしは、年齢ではなく遊び経験の差

私はプレイワーカーとして、遊び場で多くの子どもたちと出会ってきましたが、小学校の高学年でも木登りの身のこなしがぎこちなく、全身を使う遊びが苦手な子や、ボールが投げられない子、カナヅチで釘を打ったり、マッチを擦って火をつけたりという手先の器用さが必要な遊びが苦手な子などをよく見かけます。



身のこなしは経験の差によって生じているため、できる子どもは未就学児であっても上手に遊ぶことができます。



知能を発達させることで進化してきたヒトは、脳を大きく育てる必要がありますが、直立歩行に伴う分娩の負担を避けるためにも子どもを未熟な状態で生みます。そして、育つ過程の中で「遊び」を通して身のこなし、手先の器用さ、知能、コミュニケーション能力、危険回避能力などを発達させて「大人」になっていきます。



旧来の社会の中では、子どもから大人になっていくための心身の発達を遊びの中で獲得できる機会が均等にあったのでしょうが、現代は子どもが社会の中で「子ども」として扱われず、「小さな大人」の様な扱いを強いられる場面も多々あります。



遊びよりも勉強や習い事の方に重きがおかれ、幼少期に純粋に遊びに費やす時間が十分にない子ども時代を過ごしたという話を大学生などから聞くこともあります。知っていることとできること、考えることと感じることは違うということの実感は、やはり遊びなどの実体験から肌で感じることが重要だと思います。

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子どもの頃からすでに要介護予備軍?

また、ここ数年、メディアで取り上げられていることもある「ロコモティブシンドローム(手すりにつかまらないと階段を上れない、足腰が痛いなど、関節や筋肉といった運動器の疾患)」のリスクが子どもにも広がっているという話も今後注視していく必要があると感じています。



驚く方も多いのですが、ロコモティブシンドロームのリスクがあるのは「1週間に7時間以上運動する子ども」「運動時間が1週間に1時間未満の子ども」であることが言われています。



なぜ、たくさん体を動かしている子にもリスクがあるのかというと、スポーツでは関節の動きのバリエーションに偏りがあり、学齢期に特定のスポーツに打ち込み過ぎてしまうと、筋肉や関節のバランスを崩す原因になってしまうことがあるそうです。



ロコモティブシンドロームの予備軍にならないためには、外遊びをたくさんすることがオススメだと言われています。

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「○○のために遊ぶ」のではない

言わずもがなですが、子どもは「よし、運動神経も良くなるし、ロコモティブシンドロームの予防にもなるから外で遊ぼう!」とは思いません。



子ども自身は「楽しい」から外で遊びます。心身の発達はあくまでも結果であって、遊びに重要なのは過程です。あまり肩肘を張らず、子ども自身も、私たち大人も「遊ぶことそのものを楽しむ」ということを忘れず、外遊びの時間を過ごしたいものですね。

次回のコラムでは

次回は「ニコニコ子育ての術!子どもとのやりとりを客観視する!」として、子どもに対してつい感情的に怒ったり、イライラしてあたってしまう時に使える子育てメソッドのお話しをしていく予定です。お楽しみに!

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