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公開 2015年08月28日  

善意の行動が子どもの力を奪う!?「エンパワメント」の視点から考える、子どもの育ちと大人の役割とは

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みなさん、こんにちは。

今回は、私自身のプレイワーカーとしての最大のキーワードでもある「エンパワメント」についてのお話です。子ども自身が持っている力を引き出すためのコツについて、子育て中の親御さんはもちろん、子どもに関わる仕事の方にも必見の内容です。


エンパワメントという考え方をご存知ですか?

私は学生時代に社会福祉を学んでいたのですが、恩師たちが、入学当初から卒業まで一貫して学生である私たちに伝えていたキーワードが「エンパワメント(Empowerment)」という言葉でした。



エンパワメントとは「個人が自分自身の持っている力に気づき、その力で自らの課題を解決していける状態になること」を意味します。一方で、エンパワメントの対義語に「ディスエンパワメント(Disempowerment)」という言葉があり、「力を奪う」という意味を持ちます。



この「力を奪う」ということの例えとして、こんな話を聞いたことがあります。



『高齢者施設で仕事を始めた若者は「お年寄りのために何か自分ができることをやろう!」とはりきっています。食堂でお年寄りの食事を配膳する業務を見つけてがんばるのですが、自分で運べない方に限らず、自身でできる方の分まで上げ膳、据え膳でやってしまいます。



すると、食事の楽しみのために何とかがんばって歩こうという意思を持っていた方は、歩行の機会を奪われてしまい、結果として筋力が落ちて車イスでの生活になってしまったのです。』



この話を聞いて、経験を奪われたことが、力を奪うことにつながるということをはじめて知りました。



私はクライアント(関わる対象)の力を引き出す、エンパワメントの実践をしていけるようになろう!と強く思いました。

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善意の行動が、子どもの力を奪うことに?

この様な場面は高齢者福祉の場に限らず、子どもの遊び場や家庭でも頻繁に起きています。子どもがやる気になっているのに、見守ることができずに口を出したり、先回りして手伝ってしまう。実際に私も公私ともに、子どもの経験を奪ってしまったことが多々あります。



覚束ない手付きでノコギリで竹を切っている小学生の女の子の姿を見て、「手を切りそうだなぁ」と不安な気持ちを押さえられずに不用意に「初めだけ切ってあげるよ」と刃が入るまでをやってあげたことがありました。



竹に切り込みが入った後、再度ノコギリを持った彼女の顔は曇りがちで、私が声をかける前の懸命に竹と向き合っている表情ではなくなってしまっていました。そして、竹を切り落とした後に工作をやめてしまいました。



彼女は自分の力で竹を切り落としたかったのでしょう。そこに突然、自分の気持ちに反して「いらない手助け」が入ってきて困惑したのだと思います。



私は彼女のやってみたい気持ちや竹を一人で切り落とすという経験を奪ってしまったのです。

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「子どもの人生は子どものもの」だということ

私たち大人はこれまでの自身の人生経験から、子どもがやろうとしていることの結果が予測できてしまいます。



経験的にも未熟な子どもがやろうとしている遊びが、もっとスムーズに、失敗せずにできる方法を手出しや口出しをしてでも「教えたくなる」のです。



しかし、子どもにとってはスムーズにできていなくても、失敗しても構わないのです。夢中で遊ぶ中で、知らず知らずによりうまく遊べるようになり、失敗から学び、より良い方法を自らが発見するのが子どもだからです。



木登り、泥団子、鉄棒、虫捕り、ノコギリやナイフでの工作、一輪車、火熾し、川での水切り(水面に向かって石を投げて、石を跳ねさせる遊び)、将棋、高所からのジャンプ、自転車、砂場のトンネルなどなど、どんな遊びであっても、子どもが自らの気づきで上達できたと感じられる瞬間を味わうことができます。



この「遊びの中で感じた達成感」とも呼べる気持ちは、子どもが自身のできること多さや熟度を喜びとして感じエンパワメントされるための大きな要素となります。



また、コミュニケーションについても、自分で解決した経験は重要です。



例えば、友達との言い争いや小競り合いのケンカをうまく解決して仲直りできたことや、知らない子どもを遊びに誘う声かけがうまくいったこと。もっとおもしろい遊び場にするためのアイデアを大人に伝えて実現したことなどがそれに当ります。



遊びもコミュニケーションも大人が良い方法を教えてしまうことは簡単です。しかし、安易なアドバイスはエンパワメントにはつながりません。それどころか、時に大人の善意は子どもの力を奪うことがあるという重大な事実をを知っておかなければなりません。



今、この瞬間。子どもは子ども自身の人生を生きています。



その尊さを大切に、大人は子どもの成長を支えていきたいものです。

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子どもがエンパワメントされるための大人の関わり3つのコツ

しかし、プレイワーカーとして子どもの遊びを支える立場にある私も「教えたい」という衝動はあるものなのです。



そんな大人が子どもと過ごす中で、実践できるエンパワメントのコツについて私と長男のエピソードを交えながら紹介したいと思います。

①「やらせたい」遊び < 子ども自身の「やりたい」遊び

息子とのお砂場遊びでよくあったことなのですが、まず、私が山をつくる。すると彼は山を何か に見立て始めるのです。



時には「お城」、時には「ケーキ」などいくつかのパターンがあったのです が、この見立てに沿って、お城であれば門や階段を作ることに付き合い、ケーキであればトッピングを草花や小石を集めて遊びました。



ある時、私自身が「トンネル」を作りたくなり、トンネル堀りをしていたのですが、彼はトンネルではなく「川」に見立てたために水を流し始めました。



互いの見立てが一致する時もあり、そういった時は相乗効果で楽しく発展する時もあるのですが、この時は私自身、トンネルの両側から手をつなぐ感動を分かち合いたい!という気持ちが強かった結果、長男の気持ちはお砂場遊びから離れてしまい、私自身も上手くいかなかったことでの不完全燃焼の気持ちが残ってしまいました。

②成功するかしないかは重要ではない!「遊ぶこと」そのものが目的

自転車に乗って公園にお出かけする際に長男を自転車のチャイルドシートに乗せていたのですが、ある時からシートベルトを自分でつけるのが楽しくなった長男は、時間がかかるのですが、夢中で取り付けることを遊んでいました。



しかし、やり始めた当初はそのことが遊びだとは気付かずに、さっさと私がつけてあげて、早く公園で遊んであげようと思っていました。その結果、息子は号泣(笑)。



大人にとっては遊びと思えないようなことも、子どもにとっては遊びであり、また、すぐにできるかどうかは重要ではなく、やること自体に意味があると気づかされました。初めて自分でつけられた時のニコッとした顔は、今でも忘れられません。

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③本当に困った時にだけ手を差し伸べる!子どもは自分で解決する力を持っている

1歳半頃まではあまり物に執着がなかった長男は砂場などで道具を取られても、あまり意に介さない感じで別の遊びに移行したりしていました。



しかし、2歳頃から取ったり取られたりのおもちゃの取り合いをするようになりました。



公園で見知った子育て仲間の子どもとの取り合いの場合はなるべく親が介入して取り合いを止めることはせず、大人の都合で「貸してって言いなさい」「貸してあげなさい」の様なやりとりを、子どもに強要はさせませんでした。



もちろん、見守っていると、誰かしらは泣きますし、時には遊びが終わってしまうこともありましたが、そのまま3歳頃になると



「今、使っているから後でね」「これは使ってないからいいよ」



って会話しているんです。すごいですよね。自分の気持ちを大切にしながらも楽しく一緒に遊べるためのコミュニケーションをしている時があるのです。(ケンカも相変わらずしていましが…)



こういったやりとりを見るにつけ、3歳ぐらいの小さな子どもたちでも、子どもは自分たちでうまくやれる力を持っているなぁと改めて感心したものです。

子育てを通じて、親もエンパワメントされている

また、もうひとつの視点として、子どもが遊びを通してエンパワメントされていくことと同じ様に、私たち大人も子育てを通して、エンパワメントされていくことができます。



「自分にもヨソの子を見てあげられることがあるんだ」「外遊びの時間は子どもに怒らずにできるようになったなぁ」「Aくんのお母さんとBちゃんのお母さんが私の紹介で仲良くなって、子どもを見合って育てられる仲

間が増えて楽になってきたなぁ」などなど。



些細なことでも良いので、自分が身につけつつある力を意識してみてください。

次回のコラムでは

次回は「子どもの遊びの意義~身のこなしは遊びが基本~」

として、子ども時代の外遊びが、運動神経や関節の動きなど身のこなしに関わってくると

いうお話しをしていく予定です。お楽しみに!

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