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公開 2015年03月30日  

わが家の末っ子は場面緘黙症~私たち夫婦が気が付かなかった娘の心の葛藤~

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場面緘黙症と診断されたわが家の末っ子お花さん。私たち夫婦が気が付かなかった彼女の心の葛藤を、診断を受けたことで知ることが出来ました。場面緘黙症と診断されるまでのことをここでは書かせてもらっています。


こんにちは。3児の母、北本です。今日はわが家のお姫様、末っ子お花さん(4歳)のお話をさせてください。



実はお花さん、「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」という症状をもっていることが診断されています。緘黙症というものは自閉症よりも歴史があり、アメリカでは発生率1000人中7人の割合という報告があるにも関わらず日本ではまだまだ認知度の低い症状です。

場面緘黙症とは~緘黙ネットより抜粋~

言葉を話したり理解する能力はほぼ正常であるにもかかわらず、幼稚園・保育園や学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない状態を言います。体が思うように動かせない緘動(かんどう)という状態になることもあります。

お花さんが場面緘黙症と診断されたのは今年の4月。保育園で3歳児クラス(年少クラス)に進級してからです。

いま振り返ってみると、赤ちゃんの時からその傾向はあったのですが、今年の進級のタイミングで小児メンタルを受診しました。



今日はお花さんが小さいころから場面緘黙症とわかるまでを少しお話できたらと思います。

糊(のり)が塗られていると思って育てた0歳時期

赤ちゃんの頃のお花さんは「よく泣く子」でした。そして泣き止まない。3人目ともなると、赤ちゃんが泣いていても「少しくらい泣かしておこう」と付きっきりにならずにいることもあるのですが、お花さんの場合は抱っこされるまで諦めずに泣きつづけ、過呼吸を起こすのではないかと心配になるくらいの泣き様でした。新生児にして「頑固で融通の利かない女」という印象です。

でもこれはどんな赤ちゃんでも見られる抱き癖みたいなもので、特に変わった子だと思うこともなく、ただただ抱き癖のついている彼女に手を焼いていました。



そんなお花さんは、生後3か月になる頃にはすでに人見知りが始まっていました。近くに住んでいる身内も、一緒に暮らしているパパでさえも抱っこされたら1分も持たずに大泣きする状態で、自宅の中でも私から離れることはありませんでした。30cmでも離れたら泣きだすので、家事をするのも、トイレに行くのも、お姉ちゃんお兄ちゃんのお世話をするのも、全てお花さんを抱っこしたまましていました。おかげでかなりの力持ちになったかと思います(笑)



ただ、常にしがみつかれていると、母親としては可愛い反面かなりのストレスになってきます。ですから、その頃からこの子は目に見えない「魔法の糊」が体に塗られている子どもなのだと思うようにしました。ママとくっついていたいところに自分でこっそり糊を塗っているのだと。その糊はママとだけくっつくように出来ている魔法の糊なのだと。

要は、「仕方のないこと」だと思うようにしたのです。この抱き癖も人見知りも「どうにかすることが出来る」という希望を持っていてはストレスが溜まっていく一方だと思ったから。

ママが大好きだからママとだけくっつける魔法の糊をこの子が自分で塗っていると考えると、とても可愛く思えてストレスなんてなくなる単純で親ばかな母親だったのです(笑)

あまりにも違う保育園でのお花さん

0歳児クラスから保育園に通うようになりましたが、大好きな先生1人だけになついている状態でした。その先生以外の先生がお部屋に入ってくるだけで泣いていたそうです。「極端な人見知り」と最初はそう思っていました。

ただ1年、2年と保育園に通い慣れていっても一向にお友達と遊ぼうとしません。保育活動にも参加しません。



粘土の時間も、ひとりひとりに与えられた粘土に最初から最後まで手を付けず、みんなが大好きなプールの時間も全く参加しようとしなません。保育園では当たり前のように毎日行われる歌や踊り、体操にも全く参加しませんでした。

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1歳児クラスの時のある日の保育園の制作の時間で、白い画用紙に好きなシールを好きなだけ自由に貼る、というのがありました。周りの子は画用紙いっぱいに好きなだけシールを貼って、お迎えに来たお母さんに「見て!見て!」と得意気に見せています。しかしお花さんは大きな画用紙に1枚だけ小さなシールがペタっと貼ってあるものを、自信なさ気に持ってきました。その作品がお花さんらしくて、きっとこの1枚も先生が貼ったんだろうなぁとすぐ察することが出来て、とても印象に残っています。(実際、先生がシールを持って一緒に貼ったそうです)

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親ばかだから見逃したサイン

私たち夫婦もお姉ちゃんお兄ちゃんも、保育園でそんなに何もやらない末っ子お花さんのことを変わっている子だとは思っていましたが、とにかくその性格を可愛く思っていて、頑固で面白い大した娘が育っていると感じていました。それは今でも変わりませんが、だからこそ他の子と違うということにデメリットを全く感じていなかったのです。

家では保育園と全く違う、元気で明るく、よく話し、良く歌って踊る普通の女の子でしたから、保育園でやらないからといって発達に関して何も問題に感じませんでした。いま振り返ると、どんな部分も「可愛い、可愛い」と言いながら育て、この子自身の本質的な葛藤の部分に目を向けてあげられていなかったのだと思います。

では、なぜ3歳児クラスに進級してから小児メンタルを受診することになったのかというと、それはお花さんが通う保育園が、教育指導がとても優れたしっかりとした保育園だったからです。2歳児クラスまでは、お花さんの性格を慮って挨拶や返事を全くしなくても本人のペースに任せてくれていましたが、3歳児クラスに進級すると少しずつ本人のペースから抜け出し、挨拶に挑戦させたり、返事をするまで待ってもらったりなど集団生活にペースを合わせていきましょうという指導に変わりました。

そうなってくると、ほんの少しの変化ですが、少しずつお花さんが不安定になっていっているように感じました。

「おはようございます」「こんにちは」「ありがとうございます」「よろしくおねがいします」そういう些細な挨拶にすごくプレッシャーを感じていることは、親としてすぐに感じることができました。

発語を「しなければいけない」時の苦しさ

場面緘黙症という症状は、その時々、その場面で発語ができなくなります。

挨拶など形式的な「言わなければいけない時」+「言わなくてはいけない言葉」が決まっているものは、特にお花さんは発語できません。

保育園ではそういった決められた言葉がとてもたくさんありました。

お昼ごはんのあと自分で歯磨きをして、その後に「仕上げしてください」と言って先生に仕上げ磨きをお願いするのですが、ある時その「仕上げしてください」が言えずに、歯ブラシを持ったままずっと立っていたそうです。日々の些細な保育生活の中で子どもから先生に話しかけなくてはいけないシーンはいくらでもありますが、お花さんは3歳児クラスに入ってからずっとそれをプレッシャーに感じながら生活をしていたのです。

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その姿を私が目の当たりにしたのは、ある日のお迎えの時です。

先生に抱っこされて泣いていました。先生に理由を聞いてみると、部屋をふたつに分けてひとつはプラレールで遊ぶ場所にし、もうひとつは机を出して折り紙やお絵かきで遊ぶ場所にしたそうなのですが、お花さんはどちらにも行くことが出来ず、部屋の真ん中で泣いていたそうです。この頃は今から振り返ると一番症状が酷かったのだと思います。体が思うように動かせない緘動(かんどう)という状態になってしまっていました。

更に追い打ちをかけるように、その日も「さようなら」の挨拶が出来ずに、先生に「さようなら」「お花さんさようなら」「さようなら」と何度も「さようなら」を言われて挨拶を促され、その時のお花さんの顔が不安でいっぱいになっていて、私は見ていて何とも言えない悲しい気持ちになりました。

そんなお花さんの顔がひっかかっていたので、次の日、ネットで検索してみました。「家では話す 保育園では話さない」と検索窓に書き込んで。すると出てきたのは初めて聞く「場面緘黙症」というワードばかり。そして「場面緘黙症」という症状がお花さんそのものだということに衝撃を受けました。



今までは、話さないのも保育に参加しないのも、本人の頑固な意思だと感じていたばかりに気が付かなかったのですが、ここに来てやっと、この子は性格ゆえに発語しないのではなくて、話したくても保育園では発語「できない」のではないか?と思うようになったのです。そしてすぐに、場面緘黙症に詳しい都内の小児メンタルを受診しました。



次回は、場面緘黙症と診断されてから、保育園と私たち夫婦の話し合いでどのようにお花さんへの対応を変えていったかなどをお話しできればと思います。

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