バリバリのキャリアウーマンだった私の母。
フルタイムで働きながらの3人の子育てと家事は、戦争のようだったとよく言っています。
そんな母に対し幼い頃の私が抱いていた印象は、いつも怒ったり叱ってばかり……
当時私は、つねに母に気を使っていて、困ったことがあっても相談したり助けを求めることはできませんでした。
経済的に苦労することはなかったし、就職してからは仕事の相談にものってもらいました。
母に感謝することはたくさんあるけれど、私自身は怒ってばかりの母親にはなりたくたい。
娘が産まれたときに、そう思いました。
育児書などを参考に、できるだけ怒らない育児を心がけてきた私。
娘がミスをしたときは「失敗は成功のもと!」と抱きしめ、いたずらをしたときも丁寧に教え諭してきました。
もちろん人間ですから、時には感情的になってしまい自己嫌悪に陥ることもあります。
けれど、いつか娘が悩んだときに助けを求められる母でありたい。
そんな想いから、なるべく穏やかに接してきたつもりでした。
ところが、そんな育児法が間違っていたのかも…と自信を失くす出来事があったのです。
ある日、夕飯の支度をしていると部屋の隅で娘が隠れて何かをしているのに気が付きました。
はじめは本でも読んでいるのかなと思い、「暗いところで読書すると目が悪くなるよー」と注意したところ、「読んでないー」との返答。
しばらくして様子を見に行くと、まだコソコソ何かをいじっていたので、「何してるの?」と声をかけました。
すると娘はビクッと振り返って大泣きしはじめたのです。
手には学校から貸し出されているタブレットPC。
画面を見せまいとギュッと抱え込んでいました。
「ママには見せらない!言えない!言いたくない!ママ怒る!」
これまでにない取り乱しように驚きました。
もしかして、インターネットでよからぬことでもしていたのか。
変な動画でも見ていたのか。
さまざまな不安が頭をよぎります。
しかし、小学1年生の娘にそんなスキルがあるとも思えないし……
「どうしたの?怒らないからママに見せて」
できるだけ穏やかな口調で言い、手を差し伸べました。
しかし
「悪いことしてた!言えない!ママ怒るもん!」
さっさと見せなさい!と手っ取り早く取り上げたい気分でしたが、ここで声を荒げては逆効果と思い、グッとこらえました。
いじめや犯罪に巻き込まれる可能性などITの恐ろしさを説明し、絶対に怒らないからと説得しました。
その間、約30分。
意を決したかのように泣き止み、娘はゆっくりとタブレットを差し出してくれました。
一体なにがあるの?
ドキドキしながら画面をのぞくと、なんとそこには可愛らしいお花やお魚、木の絵が!
絵を保存するために「しぜん」と名付けられたフォルダまで作成されています。
ヒックヒックと声を詰まらせながら
「学校のやつなのに、お絵描き遊びしちゃった。悪いことしちゃった。ごめんなさい、ごめんなさい」
肩の力が抜けた私は思わず涙ぐみ
「別にいいじゃない、それくらい。怒らないよ~」
と、娘を抱きしめました。
インターネットで危険なことをしていたわけではなかった。
と安心したものの、考えてみると怒らない育児を心掛けてきた私が、なぜこんなにも怒ると思われているのか。
些細なことすら打ち明けてもらえないのか。
いっきに母としての自信を失ってしまいました。
「ママ、こんなことで怒らないよ?怒ると思った?」
うなずく娘。
「ママ怖い?」と問いかけると
「いつも優しいけど、急に怒るから怖い」とのこと。
急に怒る……
確かに本来短気な私は、娘に注意をするとき苛立ちを抑え、頑張って優しく教えたり諭したりしています。
けれど、稀ではあるけれど、忙しい時間帯やあまりに娘の反論が続くと
「うん、そうだね。わかるよ。けどね、今日ママ忙しいんだ。うん、そうだね……もう、いい加減にして!!」
と、豹変してしまうことがあるのです。
普段から怖い人が怒るより、普段は穏やかな人が急に怒るほうが怖いかも、と納得。
人間なのだから感情的になることがあっても仕方ない。
とは思いつつ、この関係のままだと娘が本当に困ったときに頼ってもらえないかもしれないと感じました。
危機感をもった私は
「じゃあ、しょっちゅう怒っとこうか?」と提案。
「それはいや」と即答。
考えた末
「怖いママになりそうだったら5秒数えるね。
それでママの怒りが落ち着くかもしれないし、もしそうならなくても少しは心の準備ができるでしょ?」
ということに。
娘も了承しました。
一応、決着はしたけれど、この方法が正しいのか自信はありません。
怒らない育児のせいで、娘は怒られることへの免疫が低くなったのかも?
そもそも、我が子にこんなに気を使う必要があるのか?
ぐるぐると、色んなことを考えてしまうこの頃です。
近頃はよく
「ママは、危険なことや人を傷つけることをしたとき以外は怒らないよ。
でも忙しいときは小さなことで怒っちゃうこともあるけどね。
たとえ、あなたが悪いことをしちゃったとしても大好きっていう気持ちは変わらないからね」
と言って聞かせています。
5秒カウントルールを取り入れたことで、次に何かあったときはきちんと告白してくれるのか。
悩んだときに助けを求めてくれるのか。
この先どうなるかはわからないし、いつまで経っても子育てに自信は持てないだろうけれど、その時々で良いと思った方法でやっていくしかない。
正解がわからないからこそ、悩み、模索しながら娘と向き合っていこうと思っています。