元テレビ局のアナウンサーで、NHKの「すくすく子育て」の司会も務めた天野ひかりさんによる連載です。
今まで5万人以上から相談を受けてきた親子コミュニケーションのプロが、実際によく相談される悩みをどうやったら解決できるか、自己肯定感を育てる会話のコツをお話します。
「ほめるところがない」
「小さい頃はほめられたけど、わがままになった気がしてほめられない」
「ほめないとやらなくなった」
「ほめることとしつけのバランスがわからない」
こんなふうに多くの方が「ほめる」に頭を悩ませています。
まずはこちらのマンガを見てください。
一見、理想的なコミュニケーションに見えるこのマンガ、何がNGなのかわかりますか?
くわしく見てみましょう。
<NG理由1 子どもに無言の圧力をかけている>
2コマ目でお母さんが「何する?」と言いつつも、折り紙を手にして、さりげなく誘導しているのがわかりますか?
このさりげないしぐさで、「自分が折り紙って言ったら、ママは喜ぶはず」と子どもは察しています。
無言の圧力をかけているのと同じですよね。
今回の例は折り紙ですが、一般的には宿題や課題、お手伝いなどに誘導していることが多いと思います。
もちろん、相手の気持ちを「察する力」は大切です。
でもそれよりも大事なのが「自問する力」。
子ども自身が、「自分は何をしたいんだろう?」と考える力です。
自問して出した結果を認めてもらうことで、自己肯定感は育ちます。
<NG理由2 言うとおりに従う子どもをほめる>
2コマ目で、親が「それはいいね」と言っていますね。
ここが要注意ポイントです。このように親の希望どおりに何かをやったとき、「それはいいね」とほめるのは、裏を返すと「そうじゃないのは、よくないね」と同じ意味になります。
「それはいいね(そうじゃないのは、よくないね)」をくりかえすと、子どもは、自分のやりたいことではなく、親にほめられることを優先していきます。
この状態が続くと、子どもは自分が本当にしたい事がわからなくなっていきます。これはとても恐ろしいことです。
<NG理由3 天才だね!とほめる>
「天才!」という言葉を使ってほめることはありませんか?
NGマンガでもお母さんが「天才」と言っています。
じつはこれ、NGなのです。
努力ではなく、能力や結果を決めつけるほめ方をしていると、「ぼくは天才だから頑張らなくてもできるはずだ」と思って努力しなくなったり、「自分は天才だ」と周囲に思わせるために、難易度の高い挑戦を嫌がるようになったり、話を盛って嘘をつくようになってしまうというスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の研究結果もあります。
「じゃあ一体どうやってほめたらいいの?」と途方に暮れるお母さんお父さん、簡単な方法があります。
OKマンガを見てみましょう。
OKマンガのお母さんは、特にほめていませんが、コントロールもしていないのがわかりますか?
鶴(作品)を折らせたいと思っている親にとっては、折り紙をビリビリに破る行為は、部屋も散らかるし、嫌なことなので、やめさせたくなるかもしれません。
でもそれを親がやめさせたりしないことで、子どもは認められる感覚を得ます。
そして一生懸命に工夫をしながら取り組むことで、子どもは達成感を得ているのだと思います。
ほめられなくても、子どもは「自分はすごい」と満足感を味わっているのです。
つまり、子どもがしていることを認めることが、自己肯定感を育てるのです。
親にできることは、ほめてやらせることではありません。
子どもがしたいことを邪魔せずに、認める言葉をかけること。
邪魔をしないといっても、(好きにさせてあげよう)と黙認するのではなく、「指で破ってるんだね」「思ったとおりに破るのは難しいんだね」とその工夫を認める言葉をかけたいものです。
子ども自身がしたいこと、好きなこと、挑戦したいこと、やり遂げたこと、うまくいかずに悔しい思いをしたことなどを体験することが大切です。
その積み重ねで、子どもは、自分の考えを育み、自信を持って行動できる子に育っていきます。
■今日のコミュポイント■
「ほめない、叱らない、認める子育てをしよう」
(マンガ:とげとげ。)
■プロフィール■
天野ひかり http://amanohikari.com
上智大卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして 講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げた「NPO法人親子コミュニケーションラボ」代表理事、一般社団 法人グローバルキッズアカデミー主席研究員(https://www.gkids.co.jp/)。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)や『賢い子を育てる 夫婦の会話』(あさ出版)などがある。