元テレビ局のアナウンサーで、NHKの「すくすく子育て」の司会も務めた天野ひかりさんによる連載です。
今まで5万人以上から相談を受けてきた親子コミュニケーションのプロが、実際によく相談される悩みをどうやったら解決できるか、自己肯定感を育てる会話のコツをお話します。
「子どもが歯磨きを嫌がります。どうしたらいいですか」
このご相談、お母さんお父さんからとっても多いです。
他のことなら本人がやる気になるまで待つこともできますが、虫歯は待ってくれません。
早く何とかしたいですよね。
「虫歯は親の責任」なんて言葉をきくと、よりプレッシャーを感じます。
でも同じきょうだいでも、虫歯になりやすい子とそうでない子がいます。
ですから気負いすぎず、肩の力を抜きましょう。
幼いころ、あんなに必死で押さえつけて歯磨きさせたのに、大きくなったら一切歯磨きをしなくなり、虫歯になってしまった……という話も聞きます。
子どもの歯磨き。どうするのがベストなのか?
まずはNGマンガを見てみましょう。
イヤイヤする歯磨きタイム、親も子もちょっとつらいですね。
じつは、口に歯ブラシ(異物)を入れられて嫌がることは、ごく当たり前のこと。
命を守るために大切な反応なのです。
赤ちゃんならなおのこと。
まずは、歯が生える前からお母さんお父さんの清潔な指をお口にそっと入れて、愛情表現することから始めてみてください。
「お母さんお父さんになら、お口を開けても大丈夫なんだ」という安心感を作りましょう。
もう、そんな時期は過ぎてしまった……という方も、今からでも大丈夫。笑顔で、安心して歯磨きしたくなるようにお手本を見せてあげてください。
OKマンガを見てみましょう。
子どもは、お母さんお父さんがやっていることを真似するのが大好き。
まずは、OKマンガのように毎日楽しそうにお手本を見せましょう。
案外これを忘れている親が多いのです。
1回ではやらないかもしれませんが、毎日、気持ちよさそうに歯磨きする姿を見せることは大切です。
そして、本人がやりたくなったら、最初から完璧を目指さず、子どもができる範囲で磨きましょう。
自分で歯磨きした場合も、下手でもいい加減にみえても、ダメ出しややり直しをさせず、子どものやり方を見守ります。
まずは「やる気にさせる」ことが大切です。
そのあと、成果を可視化します。
虫歯菌は見えないので、子どもになかなか伝わらず、やる気に繋げにくいもの。
そこでお水が濁ることを見ると(そのほとんどは歯磨き粉であっても)、「こんなにやっつけた!」とやる気になります。
「このまま口の中にいたら、虫歯になってたよ。よかったね」と言葉を添えましょうね。
子どもの歯磨きで、親がすべきことって、なんでしょう?
押さえつけて歯磨きをさせることではなく、健康な歯の素晴らしさを子どもに実感させることだと思いませんか?
そうすれば、子どもは自分から口を開けて歯磨きをして欲しいと言い出します。
そして、自分から歯磨きをする子に育つでしょう。
親が子どもに正しく歯磨きをしてあげられると、子どもはうっとりして磨いて欲しがるようになります。
気持ちよいのでしょうね。
そもそも、親の歯磨きの仕方が間違っているから、歯磨きが痛くて、怖くて、子どもは嫌がっている可能性があります。
正しい歯磨きの仕方をご紹介しましょう。
歯磨きスタイルとしてよく見られる膝の上に顔を乗せる形は、親の顔が逆さまになります。
これは子どもは怖く感じます。
とくに小さいうちは正面のほうが安心します。
親が笑顔で口を開けて、お子さんが真似できるといいですね。
歯磨きさせようとして、親が鬼の形相になっていることがあります。
子どもにとっては、「嫌いな歯磨き+怖い顔」の組み合わせで、二重に怖いと感じるかもしれません。
気をつけましょう。
子どもの歯茎はとてもやわらかくて敏感です。
これは乳歯や永久歯が生えやすくなっているから。
大人でも唇の裏を硬い歯ブラシでゴシゴシされたら、痛くて、悲鳴をあげて逃げますよね?
そんな状況だと想像しましょう。
歯茎を歯ブラシで触らないように、歯だけを優しく、「の」の字を描くように、くるくる細かく磨いてください。
シュッシュッと磨くのは、歯茎を触ってしまって痛いのでNG。
歯茎を丈夫にするための大人のブラッシング方法と、永久歯が生えそろうまでの子どもの歯の磨き方は全く異なることを理解しましょう。
歯茎を触らず、歯だけをギリギリのところまで磨くのがベストです。
今日も、明日、明後日もずっと同じ順番で歯を磨いてあげましょう。
たとえば、下の右の奥歯から、移動しながら左の奥歯を順番に磨き、次に上の歯の右の奥歯から、左の奥歯へ……というように。
子どもも、毎回同じルートを予想できると、終わりまで待てるようになります。
5つのステップいかがでしたか?
こんなふうに磨くと、子どもは気持ちよくて、うっとりとした表情を浮かべます。
食べ物のカスが取れて、口の中が清潔になって気持ちいいですし、お母さんお父さんがやさしく手を添えて、顔を見合ってくれるなんて、最高に幸せな時間になるはず。
ぜひ正しい歯磨きをやってみてください。
最後にお伝えしたいのは、日常生活の中で、歯磨きのメリットを感じられるようにお話しすることです。
無理やり歯磨きさせて恐怖心をあおるのではなく、歯を健康に保つといいことがあることを伝えられるといいですね。
たとえば、美味しくご飯が食べられること。
楽しくおしゃべりや歌うことができることなど。
ちなみに幼いころの私は、お姫さまの映画を見た後、母に「王子様にキスされた時、虫歯はないほうがいいよね」と言われました。
そして次の日から歯磨きを欠かさなくなりました(笑)
お子様の性格に合わせて、歯磨きのモチベーションをあげられる言葉を工夫できるといいですね。
■今日のコミュポイント■
「歯磨きさせることより、歯磨きしたくなるように工夫しよう!」
(マンガ:とげとげ。)
■プロフィール■
天野ひかり http://amanohikari.com
上智大卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして 講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げた「NPO法人親子コミュニケーションラボ」代表理事、一般社団 法人グローバルキッズアカデミー主席研究員(https://www.gkids.co.jp/)。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)や『賢い子を育てる 夫婦の会話』(あさ出版)などがある。