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「おかあさん、しんじゃうの?」幼い心に刺さった不安のトゲと、母の嘘

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答えに戸惑う質問、ナンバー1かもしれない。

「おかあさんも、しぬ?」


もうすぐ21時になろうとしている寝かしつけタイム。


5歳になった息子の質問に、私が困った顔で「うん、いつかね」と答えると、やはり彼は布団の上でおいおいと声をあげて泣いた。

先程まで読んでいた本の中で、最後に主人公が死んでしまい、息子はハッとした顔をして「おかあさんも、しぬ?」と聞いてきたのである。

突っ伏して泣く息子の背中を、訳も分からず「にーに、だいじょうぶよ。妹ちゃんがいるからね」と撫でる娘。

その娘の頭を私は撫でながら、覆ることのない自分の答えの正しさに、「もっと上手な伝え方があっただろうか」と胸を痛めていた。

この年頃の子どもにとって「母親の存在」とは「すべて」に等しい。

それを失うことなんて、この世の終わりに匹敵するといっても過言ではないのだ。


ふと、自分が小さい頃、母の死を意識した日のことを思い出した。

うちの母は私が発したこの手の質問に、なんと答えたんだっけ。

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母の◯◯に絶望したあの日…


私が小学校2年生の時。

年季の入った社宅に住んでいたころだ。

母が朝いそいそと支度をし、告げる。

「お母さん、今日人間ドックに行くから。たぶん夕方までかかっちゃうから鍵渡すね。自分で開けて家に入っててね」


人間ドック……人間と犬を想像して頭上に「?」を浮かべる私の気持ちを察して、母は説明してくれた。

「病院で体に悪いところがないか調べて来るの。犬じゃないよ~」とケラケラ笑い、いつも通りに行ってらっしゃい、と学校へ送り出してくれた。


人間ドック。

お母さんは病気なのだろうか。

どこか痛いところでもあるのだろうか。

いつもの通学路なのに、その日はなんだか違う景色にさえ見えたのを憶えている。

お母さんがもし病気になって入院したら、どうしよう。

お父さんは毎日仕事で帰ってくるのが遅いから、おばあちゃんの家で暮らすのかな。

そんなことを考えていると、学校に着く頃には私の心に大きな不安が渦巻き、「お母さんが人間ドックに行く」が「お母さんが病気で、もうすぐ死んじゃうかもしれない」に変わっていた。

そうなると授業なんてもう聞いている場合ではないのであった。

「お母さんが死んじゃうかもしれない」がひたすら頭の中で反芻され、途方に暮れた。

給食を食べながらついに涙が溢れ、誰もいないトイレの個室でひっそりと泣いた。


下校時刻。

深く肩を落としながら家路をたどり、母の待っていない家へ帰る。

コンクリート造りの暗い社宅の階段を上り、冷たい鍵穴に普段使うことのない鍵を差し込み、重い玄関ドアを開けた。


「あ、おかえり〜!」

そこにはいつも通りの母がいて、私は心底驚いた。

「お母さん!なんでいるの?」

予定より早く終わったの、と話す母があまりにもいつも通りの母であったので、私は心のダムが決壊して、今度は、母に抱き付いておいおいと泣いた。

お母さんが病気で死んじゃうと思った、と言うと、母は笑って言った。


「お母さんはね、死なない!」


そう、母は「死なない」と、“嘘“を言ったのだ。

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それぞれのタイミング


自分自身も親になった今、思うのだが、当時の母は「死なない」ではなくて「この子を置いて“死ねない“」と思ったのではないだろうか。

「人間ドックに行く」という大人からしてみれば単なる健診イベントであった一方、我が子は「お母さんが死んじゃうかも」と一日中考えていたのである。

そんな幼い我が子に「おかあさんもいつか死ぬよ」と説明するのは酷だと考えたのだろう。


きのう、きょう、あした。

その3つくらいで構成されてしまう、ラフな時間軸で生きている子どもに「いつか」はちっとも救いの言葉にはならない。

実際にあの日の私は、その日の母の“嘘“に120%救われ、いつもの温かい毛布に包まれて眠りについた。

だからこそ思うことがある。

5歳には5歳の、10歳には10歳の、この子にはこの子の、あの子にはあの子の。

それぞれにとって適切な「おかあさんもいつかは死ぬ」を伝えるタイミング、スタイルがあって然るべきなのではないか、と。


真実がいつも正解とは限らない。

「死なないよ!」

時には、目の前の幼い我が子の不安を一気に取っ払うことを優先したって良い。

命の尊さを伝えるやり方も、時間も、この先まだいくらでもあるのだから。

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獅子えもん

3歳差兄妹を育てる30代主婦。
転勤族の家に生まれ、転勤族の夫と結婚し、現在の住まいは人生17軒目。
趣味:LEGO。我が子の頭の匂いを嗅ぐこと。...

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