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公開 2021年10月05日  

心が折れそうなとき、私を助けてくれた“手作りのお守り”

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吹奏楽に明け暮れた高校生活。友人からもらった手作りのお守りは今も私の宝物です。『心に残った贈り物』をテーマに開催された、<Conobie×ネスレ日本 投稿コンテスト>。入選、まつげさんの作品です。


大学の卒業が近いからか、最近よく高校生の頃のことを思い出す。

高校生の時私は吹奏楽部に所属していて、パートリーダーを務めていた。

同じパートの同級生は私を含めて3人で、先輩と後輩を合わせると8人になる。

決して多くはない人数だが、人付き合いがあまり得意ではない私にとっては練習をまとめるのも苦労した。

おまけに私たちは先輩と比べてはもちろんだが、後輩にも技術面で劣っていて、それもあって夏のコンクール前の時期は練習をする教室に足を運ぶのも憂鬱だった。

先輩や後輩がこちらを向いて話しているだけで、何か悪口を言われているのではないかと思ってしまう毎日。

もはや一種のノイローゼのようで、トイレに行くふりをして教室を飛び出すこともあった。

そんな中で私の救いだったのは同じパートの同級生であるKだった。

Kは楽観的な性格で、何かにつけて落ち込む私を支えてくれた。

彼女も彼女なりの悩みを抱えていただろうに……と今の私なら考えることができるが、当時の私にはそんな余裕もなく、ただ彼女と話をすることがストレスを発散する方法だった。


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そして夏休みに入り、いよいよコンクールに向けて合宿が始まった。

普段の演奏会前ならきっと楽しいはずなのに、コンクールとなると部員全員の目の色が変わり、全体的にピリピリとした雰囲気になる。

合宿中は朝から夜まで合奏やパート練習が続く。

そしてその時がやってきた。

私にとって高校3年間で一番トラウマになった出来事である。

トレーナーが部屋にやってきて、パート練習を指揮するのだ。

つまり具体的に何をするのかというと、曲を区切って吹き、その箇所ごとで本番で吹く人を決めていくのだ。

1人ずつ演奏していき、上手い人が3、4人選ばれる。そういった選定作業が為される。

結局、私の譜面にはたくさん大きなバツ印をつけることになった。

コンクールで演奏するためにずっと練習していたのに……。

他のみんなの譜面はきれいなままなのに……。

私の譜面だけが、まるで不良品のよう……。

悲しみの渦が押し寄せて止まらない。


ああ、もう、だめだ。


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私の中でずっとギリギリで耐えていた糸がプッツリと切れてしまった。

涙のダムが決壊していく。

こんな泣き顔なんて誰にも見られたくない。

私は疲れたふりをしてタオルをもってトイレに逃げた。

外で楽し気な声が聞こえてくるのも辛かった。

不意にトイレのドアがノックされた。

「大丈夫?そろそろご飯の時間だからみんなには先に行っててもらうね。」

Kの声だった。

彼女には私が泣いているということも、みんなに早く出ていってほしいと思っていることもバレていた。

みんなが外に出ていく声が遠ざかっていった頃、Kがまたノックをして「みんな行ったよ。ご飯食べに行こう。」と言った。

私がおずおずと出ると、Kは私の方をみて、何も言わずただ優しく微笑んでいた。

私は胸にたまった悲しく、悔しい想いをすべて打ち明けた。

今までは他人に嫉妬していると思われたくなかったから言えなかったことが、堰を切ったように口からポロポロと溢れていった。

Kは黙って話を聞いて、それから「もう少しの辛抱だから。コンクールまで一緒に頑張ろう。」と言ってくれた。


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コンクール前日、部全体で毎年恒例になっている神社参りをした。

私の中の堅いしこりはまだあるけれど、以前に比べて軽いものに変化していた。

帰る直前、「あの、これ。」Kがパート全員に何かを差し出した。

黄色いフェルトで作られたお守りだ。

表面には赤で「必勝」の文字と、裏面にはみんなのイニシャルが刺繍されていた。

私はとても嬉しかった。

覚えていてくれたのだ。去年私が他のパートの人がお守りを持っているのを見て、いいなとつぶやいていたのを。

1年前の、しかも独り言のように言った言葉を。

コンクール当日、私はお守りをポケットに入れて本番に臨んだ。

お守りは私の支えとして役割を果たしてくれた。

そしてコンクールの結果は想像以上のものだった。

私とKは抱き合って喜びをかみしめた。

それまでの傷を撫で合うように。

あれから何年も経ったけど、Kにもらったお守りは、今も大事に机の引き出しの中にしまってある。

本番が始まる前も結果発表の時もずっと握っていたからしわしわになったけど、これからも私の大切な大切な宝物だ。


(ライター:まつげ)


『まごころが見つかる雑貨店』ネスレアミューズで連載中!

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本作は、2021年6月~7月に開催いたしました「Conobie×ネスレ日本 投稿コンテスト」にて、入選作品に選出されました!

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