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公開 2020年09月29日  

【医師監修】便秘になりやすい出産前後。腸内環境を整えて快“腸”に!

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出産前後のママの多くが抱える悩みの「便秘」。実は便秘で悩むママの多くは、腸内環境が乱れがちになっていることをご存じでしょうか。今回は腸内環境を整えるために大切なプロバイオティクスやプレバイオティクス、日常生活のポイントについて紹介します。
<監修:ポートサイド女性総合クリニック 清水なほみ医師>


目次 出産前後のママを悩ます“便秘”
便秘は痔の原因になる
理想的な便とは
理想的な腸内環境とは
腸内環境を整える方法
その他、腸内環境を改善する方法
腸内環境をよくして便を整えましょう

出産前後のママを悩ます“便秘”

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便秘は、出産前後のママの身体で抱えやすいマイナートラブルの一つです。

これまで便秘とは無縁だった方も妊娠出産を経験し、初めて便秘に悩まされる方もいるのではないでしょうか。

特に出産前後のママの身体はホルモンの変化やライフスタイルの変化、ストレスなどに影響を受けやすく、便秘になりやすいといわれています。

「今は便が出ないから仕方ない」「忙しいから後でトイレにいこう」などと便秘を放っておくと、腹痛やお腹がはるなど身体に負担がかかり、痔や食欲不振など身体への不調を起こしかねません。


出産前後は便秘になりやすい傾向


便秘に悩んでいる出産前後のママは全体でどのくらいいるのでしょうか。

実際に出産前後のママを対象にマイナートラブルの実態について調査した研究があります。

この研究によると、出産前では約半数のママが便秘を経験し、出産後では4人中3人のママが便秘を経験したといったデータが報告されており、産前産後のママの身体は便秘になりやすい傾向にあるといったことがわかりました(※)。

では、どうして産前産後のママ達は便秘になりやすいのでしょうか。

※中村 他: 高知大学看護学会誌, 12(1): 3, 2018.
※岡山 他: 高知大学看護学会誌, 12(1): 39, 2018.


妊娠中の便秘の主な原因


妊娠中の便秘の原因の一つはプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌増加です。

プロゲステロンは妊娠中の産前ママにとって、お腹の中で赤ちゃんを育てるためには必須なホルモンです。

一方で、プロゲステロンは腸のぜんどう運動(腸の動き)を弱める働きがあります。

腸の蠕動運動が弱まると、腸内にたまった便が運ばれにくくなるため便秘になりやすくなるといわれています。

特に妊娠中は胎盤からプロゲステロンが分泌されるため、妊娠していない時よりも便秘になりやすい傾向にあります。

また、妊娠後期ではお腹の赤ちゃんの成長に伴い子宮が大きくなるため胃や腸が圧迫されて腸の動きが鈍りやすくなることや、ストレスにより交感神経が活性化し、腸のぜんどう運動が抑制されるなどの影響も便秘につながる原因であると考えられています。


産後の便秘の主な原因


産後のママが便秘になる原因として、赤ちゃんの育児で時間をとられ便意を我慢するなど生活リズムが乱れることがあげられます。

このように便意を我慢し続けると便意を催す神経の感度が鈍り習慣的な便秘につながりやすくなると考えられています。

また、分娩時に会陰切開した場合、縫合部の傷が心配で十分にいきむことができず、便秘になるケースもみられます。

母乳育児をしているママの場合、母乳は血液から作られているため授乳するたびに身体の水分は失われやすくなります。

そのため授乳中のママは水分摂取を意識的におこなわないと便が硬くなりやすく便秘の原因になることがあります。

また、硬くなった便は肛門に負担がかかり痔になりやすくなるために注意が必要です。


便秘は痔の原因になる

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便秘の時に無理に排便しようといきんだり、硬くなった便が肛門を通過する際に肛門を傷つけたりすることで、肛門には非常に負担がかかっています。

それが痔の主な原因のひとつと言われています(※)。

※日本大腸肛門病学会, 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版(改訂第2版), p.8, 2020年

※稲次:日本大腸肛門病会誌, 58: 825, 2005.


いぼ痔


いぼ痔は、便秘による過度ないきみや、排便時の圧力などにより肛門付近の血流が滞ることで起こる「腫れ」のことで、通称いぼ痔(または痔核)と呼ばれます。

いぼ痔は肛門の歯状線(しじょうせん=肛門と直腸の境目のこと)の内側にできる“内痔核”と外側にできる“外痔核”とに区別されます。

内痔核は、出産前後のママに起こりやすいといわれており、過度ないきみや長時間同じ姿勢をとり続けることで起こりやすくなります。

痛みはほぼなく、出血や肛門付近からいぼ痔が脱出したときに気が付くケースが多いようです。

悪化すると、痛みを伴い、脱出したいぼ痔が自然に戻らず指で押さえないと元に戻らなくなることがあります。

一方、外痔核は、内痔核に比べて出血は少ないものの、知覚神経が近くにあるため排便時に痛みを伴います。

いぼ痔は、通常は日常の生活習慣を見直すことで治るケースもありますが、場合によってはお薬を使用することがあります。

妊娠中の場合は、お薬が赤ちゃんに影響しないかどうか使用を考える前に主治医とよく相談してください。


切れ痔


切れ痔は、肛門の出口周辺の皮膚が切れた状態で裂肛(れっこう)とも呼ばれます。

原因は硬い便の排便や、下痢便の勢いにより肛門の出口付近が切れる、直腸肛門部の血流の循環が滞ることなどがあげられます。

症状は、知覚神経が通っているため強い痛みを伴い、出血はありますが量は多くないことが特徴です。

そのため一度切れ痔になると排便を我慢しがちになり、さらに便秘になり悪化するなど、悪循環を繰り返しやすく注意が必要です。

切れ痔は特に女性に多いといわれています。

産前のつわりや妊娠後期の子宮増大で胃が圧迫されて食事量が減ることにより便のかさが増えず、直腸が刺激されにくくなるため便がでにくくなります。

長い間、便が直腸に留まりつづけると、水分が身体に吸収されてしまい、便が硬くなるため切れ痔になりやすいです。


理想的な便とは

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便はただ無理やり出せばいいということではありません。

肛門に負担をかけないためには、適度にやわらかい便に整えてから出すことが大切です。


理想的な便の硬さとは?


理想的な便の硬さを目指す指標に、便の硬さを視覚化した「ブリストル便形状スケール」というものがあります。

これは便の硬さを1から7までの7段階にわけたもので、「1」が石のようにコロコロした硬い便。

数字が大きくなるにつれて軟らかくなるように段階分けされています。

このうち「3」から「5」までが正常な便にあたります。

なかでも特に理想的な硬さといわれる便は「4」で、なめらかなソーセージ状やへびのようにとぐろをまいた状態です(※)。

排便をする際に自分の便がどのような硬さなのか、この排便スケールを目安にして健康的な便を目指してみましょう。


※ 三枝, 大腸肛門誌, 29: 183, 1976
※ 味村他: 日本大腸肛門病会誌, 72: 583, 2019
※ Lewis, SJ. et al.: Scandinavian Jorunal of Gastroenterology, 32(9): 920, 1997



理想的な腸内環境とは


肛門に負担をかけずに便を出すためには、腸内環境をよくすることが大事といわれています。

人の腸内には、善玉菌や悪玉菌、日和見菌など多様な菌が存在します。

健康的な腸内では、善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)が悪玉菌の定着、増殖を抑え、悪玉菌の作り出す有害物質を体外に排出するのを助けますが、何らかの原因で、腸内の悪玉菌が多くなると、便秘や下痢を引き起こすことがあります。

つまり、悪玉菌よりも善玉菌が多くいる環境を保つことが、肛門に負担のかからない、よい便を作り出すことにつながるのです。


腸内環境を整える方法


善玉菌の多い環境をつくるためには、プロバイオティクスやプレバイオティクスなどが有効です。

プロバイオティクスは、身体に有用な善玉菌そのものを増やし、プレバイオティクスは、善玉菌のエサとなり、その増殖を助ける働きがあります。

この2つを組み合わせると、より腸内環境を整える効果があるとして注目されています。


プロバイオティクスとは

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プロバイオティクス(probiotics)とは、「腸内環境のバランスを改善することによって人に有益な作用を与える生きた微生物」のことです。

現在、明らかになっているプロバイオティクスの有益な作用とは、便秘および下痢症の改善作用、腸内環境を整える整腸作用、乳児に対する食物アレルギー症状の軽減作用などがあります。

その他にもインフルエンザなどの感染症予防作用、花粉症軽減作用などの研究報告があげられており、プロバイオティクスは腸内環境の改善だけではなく今後の健康維持につながるとして大きく期待されています。

代表的なプロバイオティクスとして“乳酸菌”や“ビフィズス菌”がありますが、乳酸菌ならどれでもよいわけではなく、ある一定の条件(安全性に優れている、生きたまま腸に到達できる、消化管で増殖でき人体に有益な効果が発揮する等)を満たす菌株に限り、プロバイオティクスとよぶことができます。

プロバイオティクスを含む食品はヨーグルトや乳製品などさまざまありますが、摂取する際は有効性、安全性を国が個別に審査して認可されたトクホ(特定保健用食品の表示)のついた食品を目安に選ぶといいでしょう。


プレバイオティクスとは


一方で、プレバイオティクスは「大腸に共生する有益な菌を増殖させ、人の健康を増進する難消化性食品」のことを言い、オリゴ糖や食物繊維の一部があげられます。

プロバイオティクスは「生きた善玉菌」のことを指しますが、プレバイオティクスは「善玉菌のエサ」となり善玉菌そのものの増殖を促す働きをします。

プレバイオティクスの効果は乳酸菌、ビフィズス菌増殖促進作用のほかに、腸内環境を整える作用、排便量の増加、胆汁酸の吸着効果などの人の健康維持にはかかせない効果も。

このプレバイオティクスとプロバイオティクスを同時に摂取することは「シンバイオティクス」と呼ばれ、腸内環境を整える効果がより一層得られるとして注目されています。

また、シンバイオティクスは腸内環境を整え便通をよくするだけではなく、ストレスや食欲不振などの体調改善、免疫力の向上、アレルギー抑制作用など人の健康維持の一助になるのではないかと大きく期待されています。

腸内環境を整えるために、プロバイオティクスとプレバイオティクスを同時に摂れるように意識して食品を選んでみましょう。


その他、腸内環境を改善する方法


腸内環境を整えるためには、プロバイオティクス、プレバイオティクスを含む食品を摂取するだけではなく、適度な運動や身体のストレスケアも大切なポイントです。

産前のママはお腹が重くて動きづらくなる、産後のママの場合は赤ちゃんのお世話に追われるなどして、身体を動かす時間が十分にありません。

その結果、腹筋力が衰え大腸の運動機能が低下し、便が腸内に留まりやすくなります。

適度な運動は、全身の血の巡りを促す上に腸の動きをよくします。腸の動きがよくなると排便が促進され便秘が改善し、腸内環境が整いやすくなります。

また、腸の動きをコントロールする自律神経は、ストレスによりバランスが乱れやすくなります。

自律神経のバランスが乱れると、腸のぜんどう運動は弱まり、排便しづらくなるため便秘につながりやすくなります。

そのためストレスケアをおこなうことは自律神経のバランスが整うと同時に腸内環境が整いやすくなり便秘が改善すると考えられています。


運動習慣を身に付ける

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まずは自宅でもできるヨガやストレッチ、軽い筋トレなど身体に無理のない範囲で少しずつ生活に取り入れてみましょう。

気持ちをリラックスしたウォーキングや腹式呼吸をしながら身体を軽く動かすだけでも体内の血液循環が改善し、腸の運動が活性化し、便秘が改善しやすくなります。

妊娠中のママはお腹に負担のかからないマタニティヨガなどを取り入れてもいいかもしれません(運動制限を受けている妊娠中のママは、無理をしないで主治医とよく相談してください)。


ストレスケアをおこなう


慢性的なストレスは腸内環境が悪化する原因になるため、なるべく取り除くよう意識してみましょう。

腸は副交感神経を活性化させることで排便効果が促されるため、なるべく気持ちをリラックスさせる時間を作ることが大切です。

心地よい音楽を聴いたり、好きなアロマの香りをかいでみたり…時間が取れない方は朝起きたときに外の空気をゆっくり吸うだけでもいい気分転換になるかもしれません。

赤ちゃんの面倒をみてくれる人が近くにいる時は、少しの間お願いして一人になる時間を作ってみてもいいでしょう。


腸内環境をよくして便を整えましょう

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便秘は産前産後のママがかかえやすいマイナートラブルですが、腸内環境が整うと自然と排便もスムーズになり、便秘が解消されやすくなります。

たかが便秘と思い放っておかず、まずはやプロバイオティクス、プレバイオティクスを含む食品の摂取を心がけ、適度な運動習慣、ストレスケアなど生活リズムの改善をおこなってみましょう。

また、十分な水分摂取や、朝食をしっかり摂る、排便習慣を身に付けることも意識してみましょう。

腸内環境をよくすることは、便秘の改善だけではなく免疫力の向上やママ自身の精神面の安定などにもつながりやすくなります。

便秘で悩んでいる方は一度ご自身の腸内環境を整えることを意識してみてはいかがでしょうか。

腸内環境を整え、素敵でハッピーなママライフを送りましょう。




【監修】清水 なほみ先生

2001年広島大学医学部医学科卒業。中国がんセンター産婦人科・ウィミンズウェルネス銀座クリニック・虎の門病院産婦人科を経て、2010年9月「ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~」を開業。日本産科婦人科学会専門医/日本不妊カウンセリング学会認定カウンセラー
日本産婦人科学会・日本性感染症学会・日本思春期学会・日本不妊カウンセリング学会所属。

ポートサイド女性総合クリニック http://www.vivalita.com/

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