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公開 2020年04月10日  

「はじめての育児は、本当にお金がなかった」小日向さん・竹下さんから子育て世代へのエール

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70歳の夕子と65歳の朝一が協力して初めての妊娠出産と子育てに挑む作品『セブンティウィザン』(※続編『セブンティドリームス』をコノビーにて大人気連載中)。驚きの設定ながら、悩みながらも育児の喜びを味わう夫婦の姿が共感を呼んでいます。ドラマ主演のお2人に、ドラマで伝えたい想い、ご自身の子育てそしてコノビー読者へのメッセージなど、お話をお伺いしました。


雪が解けるように無くなった年齢への意識

――本作のドラマ化にあたり、出演オファーを聞いた時のご感想は?

竹下景子さん(以下: 竹下):こひさん(小日向さんの愛称)、ご存じでしたか?タイム涼介さんの『セブンティウィザン』。

小日向文世さん(以下:小日向):いやぁ、実は知らなかったんですよ。

竹下:私も最初、知らなくて。でも、行きつけの美容室のお兄さんが、大人気の漫画ですよって教えてくれたんです。実は、ほのぼのとした漫画の世界感に捉われてしまうのが心配で原作は敢えて読んでいないんです。台本をみて自分のイメージで役を作っていこうと思いました。

70歳の妊婦という設定については、これはとんでもない設定だなというのが第一印象です。笑

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小日向:僕は、原作を読んでみて70歳で子どもを初めて授かり産むということ以外は、すべてがリアルだなと感じたかな。

朝一は、いわゆるエリートでもなくて、パっとしないサラリーマン。でもちゃんと定年まで勤めて延長雇用までやって。65歳で退職したその日に子どもができたって言われて、そこから生活が一変するんです。

でも、妊娠して子どもが生まれてからの日々は、すべてがリアル。僕も子育てしてきた経験から、すごく分かることばかりだったかな。

ただね、70歳と65歳の間に子どもができるっていうリアリティがね、唯一気になりました。そこが視聴者に素敵に思えてくれるといいんだけどな。

竹下:男性目線だと、そこは大事ですよね。

小日向:お前いい年して頑張ってるな、っていうね。そこ、どんな風に見られるのかな?と。実写でやるわけだからリアリティを持たせなきゃいけないわけで。 全部が絵空事のような芝居にはしたくはないから。

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竹下:そこをどうやって乗り越えていくかは、ドラマを見てのお楽しみですね。笑

私は今66歳なので、70歳は経験していない未知の年齢。本当に70歳の年金生活で、これから余生をどう過ごそうかという人であったならば、神様は赤ちゃんを授けてくれなかったのではないかな?と思ったんです。
どこか若々しさがある夫婦だからこそ、赤ちゃんができたのかな、と。そこの所は、きちんと演じないといけないなと思いましたね。

――実際、演じてみてのご感想はいかがですか?

竹下:台本も演出も、すごく丁寧で。現場で演じていくうちに自然に年齢のことを忘れ、当たり前のどこにでもいるだろう夫婦になれました。
私にとっては、70歳という設定は何かこう雪が解けるように無くなっていきました。


ドラマの中で「なんで産むのか分からない」という意見も出てきます。いわゆる世間の常識や一般的な意見として、そう思うのは当然だと思う自分もいました。
一方で、役と向き合ううちに、ずっと欲しくて奇跡のように授かった命は、何が何でも大事に育んでいこうと、ミッションのような気持ちも生まれましたね。

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難しかったのは70歳と65歳の夫婦に子どもができるリアル

――ドラマの見どころや思い入れのあるシーンはありますか?

竹下:いっぱいありすぎて選べないかな。笑

小日向:僕が一番難しかったのは、70歳で子どもを産んだときの夕子の疲労感に対する朝一の思いやりをリアルに演じるにはどうしたらいいんだろう?って所かな。
子育てで夕子は疲れていくんですよね。入院までしちゃって。
その時の朝一のこれから先の不安や夕子に対しての想いもファンタジーじゃなくてリアルじゃないと説得力がないと思うし。

子どもが生まれる前の検診で、お医者さんの質問に対しての答え方が非常にむずかしかったなぁと。実は、「最後いつセックスしたのか?」なんて聞かれるんですよ。もう、僕びっくりしちゃって。

竹下:そこまで露骨に聞かれると、困っちゃいますよね。笑

小日向:台本に書いてあるから、セリフを口にはできるのだけど、どこで朝一は動揺するんだろう?と、想像するのが難しかったかな。
若い時に、うちの妻と結婚して子どもができたのとはやはり状況がちがいますからね。
きっと、この年で子どもができたらそうなるんだろうな?と一生懸命想像して、とにかく説得力を持たせたいと思いましたね。

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役を通してよみがえる、自身の妊娠・育児体験

――作中で子どもが産まれてからは、逆に演じやすかったですか?

小日向:そうですね。子どもが産まれたら超リアルなんですよ。

竹下:大変なことも含めて、そこに子どもがいますからね。

小日向:夜泣きで寝られないとか自分が育児をしていた時と同じような体験だったし。うまく行かなくて日に日にいらだっていく夕子の感じもすごくわかるので、そこはもう全然大変じゃなかった。笑
むしろ子どもが生まれる前の2人の関係。そこが難しかったかな。

竹下:そうですよね。初めて子どもを持つという事は、たとえ20歳のお母さんであっても、70歳のお母さんであっても、子どもと向き合う経験がない夫婦という点は変わらない。生命の危険ということからいっても100%保証はない。それも同じ。だから、演じていく間に歳を忘れましたね。
相手の子役は赤ちゃんや幼児だったりするわけで、撮影中に病気や怪我がないように気遣う所も含めて、その子を守りたいというか。

私自身の出産時もそうだったんですけど、お腹に赤ちゃんを宿した時から母性が始まって、極端なこと言えばもう動物、メスの感覚。もう本能のまま。

妊娠中は、お腹の子がどんどん大きくなっていくのが不思議で、自分の体ってこんな風に変わっていくのねとか。わきの辺りに小さな点ができて、先生に「これなんですか?」って聞いたら、副乳ですよっていわれて。私、本当にメスになっちゃったのねってびっくりしたり。

だから、メスの本能で生きていくわけで、たとえ70歳で妊娠しても、この命は私のものとして運命を受け入れる感覚は分かるんです。もう迷いは何にもないだろうなと。

小日向:そこが男性と女性のちがいですよね。男性は産まれたら先行きどうする?って考えちゃう。それが社会の中の一員として、いつもあるわけですよね。

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役と同じく子煩悩。でももっとお金がなかった

――お2人の育児観についてはどうですか?
江月夫妻は高齢ですが、育児観はすごく現代的。男だから女だからに縛られず、朝一も積極的に育児に参加していますよね。

竹下:こひさん、子育ては積極的にされていましたか?

小日向:ぼくは、最初の子が41歳の時にできたんです。劇団が解散する直前で。
解散してからは仕事がなくて暇なものだから、ずうっと子育て。子どもと一緒にいられましたね。

竹下:じゃあ、朝-さんと近い感じ?

小日向:近いっていうか朝一さんより、お金がなかったですよね。笑

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小日向:当時、マンションの二階に住んでいて、そこで子どもの肌着を干すでしょ。で、部屋の向かいにガラス張りの喫茶店があったんです。その喫茶店から僕、よく見られていたの。

ある時、いつものように昼間に洗濯ものを干していたら、向こうの喫茶店からガラス越しに挨拶されて。
その翌日からね、ベランダでしゃがみながら手を伸ばして洗濯ものを干すことにしました。

見られるのが恥ずかしくってね。でも、それくらい昼間っから家にいるわけ。
あの2階に住んでる親父はずっと洗濯もの干して一体何してるんだ?って当時は思われていたんじゃないかな。

それくらい仕事がなかったから、時間だけはあったんです。
だから子ども達をずっと見ていられましたね。

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竹下:ちょっと稀有なお父さんよね。朝-もこひさんみたいに、時間をちゃんと作ってくれて。ママパパ教室にも苦労しながらいったりしてね。

小日向:そうそう。そう言えば、ドラマの家は2人暮らしにしては、広くて立派でしたよね。

竹下:とても素敵なおうちで。バードウォッチングのお写真が飾られていて、それが育っていく娘の写真にどんどん変わっていくんです。
2人だけで今まで暮らしてきたんだなって想像させる素敵なお住まい。でも、子どもが生まれ、おうちも子どものものでいっぱいになるんです。育児グッズやおもちゃも30年前とは全然ちがって。私が育児をしていた頃から30年でこんなに変わるんだって、びっくりしましたね。

トンネルはいつか必ず抜けるものだから

――例えば、昔の育児と今の育児、ちがうのはどういった点でしょう?

竹下:子どもが遊ぶおもちゃの中に、英語の単語が出てくるものがあったり、お母さんが見る雑誌も沢山の種類があったりしますよね。私が出産する時には、そんなにはなかったんです。

だから、今、情報が沢山あって、それを参考にする方がいて、それはそれでいいんだけど。
きちんと別の下支えをするような生活がないと、情報に振り回されることになって、若いお母さんたちは可哀そうかなって。夕子さん自身も育児ノイローゼになる所があるんですけど、いい所、悪い所、両方ですよね。今の情報化社会はね。

今、子育て中のお母さんたちは、きっと大変で。
私も女優の仕事をしていたし、子育て中は大変っていう思いが強かったんです。


スタジオで「大丈夫よ。トンネルはいつか必ず抜けるものだから」と言われた一言に支えられて。「じゃぁ私、大丈夫なのかな…」って、乗り越えたことを思い出しました。

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――お子さんが、お幾つくらいの時ですか?

竹下:下の子が産まれて、まだ1歳未満の時です。
私と夫だけでは子育てはできませんでしたし、もちろん人も頼みましたけど、それでもそんな風に思うんですからね。

お1人で育てていて、パートナーが忙しかったりすると、ママは大変ですよね。過ぎてしまうと「あぁ、子育てもう終わっちゃった…」っていう風に私は思って。だからこそ、楽しんでほしいなって。大変な時間も含めて楽しんでほしいなって思います。

小日向:僕の仕事が、回り始めて忙しくなった時に、妻は1人で子育てしなきゃならなくて、めちゃくちゃ大変だったと思う。
うちの場合、随分ママ友に救われていたみたい。公園デビューもしましたよ。僕も一緒に行っていましたけど。朝からママたちがいっぱい集まっていましたよね。

竹下:やはり身近な所で、子どもの健康の事や色んな情報が実際に聞けるっていうのはいいですよね。追いつめられなくてね。
うちは夫が48歳の時に初めて子どもができて、高齢出産だったので、お互いの親は頼れなかったんです。
だから、子どもが少し大きくなってからは、親戚のうちに預けたり、近所のおばあちゃまみたいな方が面倒を見てくださったり。そういう環境にあったのは恵まれていたなと思います。


――最後に、現代の子育て真っ最中のママやパパにメッセージをいただけますか?

竹下:子育ての期間って、過ぎてしまうと本当にあっという間です。一緒にいる時間を、とにかく楽しく過ごしてほしい。
そのためには色んな工夫も必要になってくるでしょうけど、パパにも無理のない程度にぜひ育児に参加してもらい家族で楽しい時間を作ってほしいです。

小日向:赤ちゃんの時間をもう一度お願いします!となっても、もう2度と戻ってこない。
ぼくが小さい頃、自分のことを「ふんこちゃん」と言っていたらしいんだけど、親父が「あの時のふんこちゃんは、もういないんだよね…」と、よく言っていたのを思い出します。
うちの息子たちを見ても、あの時のあの子はもういないんだなぁと。特に1歳から3歳くらいまでは、めちゃくちゃやっぱりかわいいんだよね。本当に貴重な時間。
だからね、眠くて疲れて…、本当に大変だと思うんだけどね。その時間を余さず味わってほしいなって、心から思っています。

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プレミアムドラマ『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』

【放送】
BSプレミアム・BS4K同時放送 毎週日曜よる10時より放送中(全8回予定)

小日向文世さん プロフィール
1954年生まれ。北海道出身。1977年にオンシアター自由劇場に入団し、役者デビュー。1996年解散後はTVドラマや映画などでも活動の場を広げる。2001年ドラマ「HERO」で注目され、2008年連続ドラマ「あしたの、喜多善男」で初主役。2011年舞台「国民の映画」では第19回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。2012年の映画「アウトレイジビヨンド」では、第86回キネマ旬報ベスト・テン『助演男優賞』を受賞。家族は妻と息子2人。息子達へのハグを欠かさない家族想いとして知られる。

竹下景子さん プロフィール
1953年生まれ。愛知県出身。NHK『中学生群像』出演を経て1973年NHK銀河テレビ小説『波の塔』で本格デビュー。映画『男はつらいよ』のマドンナ役を3度務め『学校』では第17回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。テレビ・映画・舞台への出演の他、国連WFP協会親善大使など幅広く活動。家族は夫の写真家、関口 照生さんと息子2人。

※ この記事は2024年04月20日に再公開された記事です。

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