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公開 2020年01月19日  

モノで息子を釣るパパ。買わなかった日、息子から笑顔で言われた一言<第三回投稿コンテスト NO.57>

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息子が喜ぶなら、と高いおもちゃでも買い与えていたという、パパイヤさん。だけど、何も買わず遊んだ日に、息子から言われた一言に衝撃を受け…。パパから届いたエモエピソードです。



親を困らせ、親に泣かれ、親に叱られた俺が「親」になった。散々「親不孝者」と言われたこの俺が。

まもなく息子が生まれるという時、俺は不安でいっぱいになった。

俺、何するの?

父親って何ができるの?

おむつ替え?

ミルクをあげるとか?

え?それだけ?

そんなことを考えていた時「家事メン」が増えているというニュースを見た。

これからは男も家事をする時代。

よし、とりあえず家事だ。

家事親父だ!俺はそう意気込んだ。


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しかし息子が生まれてから3年。

ワケあって、現状ゴミ出ししかさせてもらえない。

なぜかって?

俺が手を出せば「味が濃い」「シンクが汚い」「洗濯物の干し方が雑」と妻が怒るのだ。

家事親父となっても妻を炎上させるばかり。

カレー作りに2時間かかり、最後は鍋を焦がす始末。

買い物だってキャベツとレタスを間違えたり、チラシにはない高い方のタマゴを買うこともしょっちゅう。

そんな俺にこの春、妻からついに戦力外通告。

「もう何もしないで!」



こうして就任したゴミ担当。

出勤前、妻がかけよってきて「はい、あなた」とひと言。

弁当かと思えばゴミ袋!

カレンダーの赤丸は、俺の誕生日じゃなくて燃えるゴミ。

俺ってゴミ以下?

なんならせめて資源ゴミにしてくれ。

ある時息子に聞いてみた。

「パパとママ、どっちが好き?」

「ママ!!」

さすがに悔しかった俺。でも何回聞いたって答えは同じ。

たまらず息子の前で妻をディスってみた。



「なあ、本当はママって鬼なんだぞ」

そこまでして好感度を上げたい俺に息子は言い放つ。

「パパ、わるぐちはダメ」

うわぁー。俺、最低の親父じゃん。

完全にママの勝ち。悔しいのやら切ないのやら。

だけど考えてみれば当然じゃないか。

俺が息子と関われるのは土日だけ。

これで妻に勝とうなんて、もう9回裏から逆転をねらうようなもの。

いくら頑張ったって無理だよなあ。

でもなあ。

しゃくだよな。

俺だって息子に好かれたい。


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こうして一発形勢逆転をねらうべく、俺はポイント稼ぎに出る。

その週末、俺はここぞとばかりに息子と近所のショッピングモールに行った。

手始めに300円のガチャガチャで遊び、その次は屋上のミニ遊園地へ。

散々乗り物に乗ったあと、おかし売場を物色。

「買って買って〜」

視線の先にはキャラメル。

もちろんダメとは言わなかった。



だって100円だぜ?

ケチケチするなって。

最後は「鬼門」のおもちゃ売場へ。

昔はよく駄々をこねて、ラジコンをねだったものだ。

あの時うちの親父は本当に俺を置いて帰った。

あとでお袋が血相を変えて探しに来たのは今も忘れない。

怖かったな、親父。

そんなことを懐かしんでいると息子が「パパ」とかけよってきた。

手には戦隊物の変身セット。

何やら暗闇で光り、カードを本体にセットすると豪快な音を発するという。

しかし値札を見れば7,200円。

ゼロの数、多くない?

イイネをつける前にかなり「いい値」である。



「ほしいの?」

(コクンと頷く)

「買ってあげようか」

(超笑顔)

結局、誕生日でもクリスマスでもないのに買ってしまった。

本当にダメな親である。

だけど会計時ふと妻の顔がよぎった。

絶対怒られるよな。

だってこの前もガムを一枚あげただけで「なんですぐあげるの!しつけがなってない」って言ってたもんな。


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「ちゃんと躾をして!」

「はい。します」

毎回こうやって場を収めるものの、これじゃ「しつけスルスル詐欺」だよな。

ああまた怒られる。

帰宅後、案の定怒られた。

キャラメルや変身セットを見るなり「あまーい!」と一喝された。

こうして翌週から財布を持つことも車を使うことも禁止に。

「はい!これで遊びにいってきて」

持たされたのはおやつと水筒。

これでどこに遊びにいけるというのだ。

でも仕方ない。

とりあえず息子と家を出た。

歩けど歩けど公園もない。

家ならオモチャもあるし、ゆっくりできる。

帰ろうかなあ。

うーん、だけど家には妻がいるしなあ。

また怒られそうだし。

すすむ。

とまる。

もどる。

身体も心もそんな感じだった。

そんな俺をよそに息子はおやつが食べたいと言い出した。

コンビニのベンチで佇むと「見て見て〜」と息子。

なんとチップスターを2枚口に挟んでアヒルのマネ。



「お、おお」

俺は苦笑い。

だって今朝妻に「食べもので遊ぶな」って言われたばっかりなのに。

子どもって懲りないなあ。

だが横断歩道で、俺はまたしても奇怪な行動を目にすることになる。

信号は青。

右、左、右でさあ渡ろうという時だった。息子は橋でも渡るかのように慎重に白線だけを歩き出した。

「ほら!早く歩かなきゃ」

「ダメ!落ちたらワニが来る!」

え?ワニ?

俺は一瞬目が点になった。

だけどここは車の通過点。

モタモタしている場合じゃない。


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「いいから、渡るぞ」

しかし手を引いた途端、息子は「ヤダヤダ」と寝転んだ。

これにはさすがに参った。

一度決めたらテコでも動かない。

信号はいよいよ点滅し始めた。

結局、クラクションを鳴らすドライバーと、手を引く俺がワンチームになって、息子の引き上げにトライ。

無事、事なきを得たのであるが、いやはや魔の3歳児。

先が思いやられるばかりである。



そのあとも息子のあとを追うこと3時間。

足は棒、頭はボーッの帰り道。

目的もなく、目標もなく、ひたすら息子を追った。

ゴールもなく、コースもなく、ただただ小さな背中を追いかけた。

そんな自分をふり返って思った。

俺、何もしてない。

くたくたになった身体を湯が包み、ヘトヘトになった心をビールが癒やした。

その晩、布団に入ると息子はこう言った。

「パパとあそんでたのしかった〜」


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その瞬間、俺は身体に電流が走るほどの喜びを感じた。

俺、今日、何もしてないぜ。

俺、今日、何も買ってないぜ。

でも子どもってこんなに喜んでくれるんだな。

ああ、そうか。

親って何かしなくても、ただそこにいて、それだけでいいってこともあるんだな。

息子の笑顔にそう教えられた。


(ライター:パパイヤ)


※ この記事は2024年03月22日に再公開された記事です。

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