ある朝、妻のうめき声で目が覚めた。
「苦しいよーーー!!」と妻は廊下でのたうちまわっていて、私はがばっと布団から飛び起き、妻に駆け寄る。
ものすごい吐き気と腹痛で起き上がれないほどの苦しみぶりの妻。
心配で動揺を隠せず、あたふたする私。
私「救急車呼びましょうか…?」
妻「うーーー痛いよぉーーー」
私「救急車、呼ぶよ?呼ぶよ?」
妻「痛いーーーーー!!」
動揺しすぎて、何も判断できない私。
(今思えば、苦しんでいる病人が冷静な判断などできないのだから、さっさと呼べばよかったと反省…)
いつもの平穏な朝とは打って変わって、不安と共に迎えたこの日の朝なのだが、一日が終わる頃には私は、娘のある一言で忘れられない感動を覚えることになる。
私史上忘れられない最大の子育てエモストーリー。
119番に電話し、数分後には救急隊が到着。
一斉に救急隊の方が家の中に駆け込む。
「大丈夫ですかー!大丈夫ですかー!」
救急隊の呼びかけに、うめく妻。
私は救急搬送に向けて荷物の準備をバタバタ。
妻が心配で、娘に構っていられる余裕もなく…私は救急車内に入って荷物を渡して、搬送先の病院の情報を伺った。
本来ならば付き添って乗っていくべきところだったが、娘を保育園へ預けなければならないため、追って病院に向かう旨を伝えて車を降りた。
間もなく出発した救急車が見えなくなるまで見送り、妻の無事を祈りながらも、少しずつ平静を取り戻す私。
「はっ!しまった!娘を寝室に放置したままだったー!!」と今度は娘のもとへと急ぐ。
いつもなら、朝はパパの抱っこでリビングに行くとそこにはごはんが出来上がっていて朝食タイム…のはずが、いつもとは違う様子。
遠くで聞こえるサイレン、家に数名いる見知らぬ人たち、そして苦しんでいるママ、動揺するパパ。
ママが搬送されてお家には誰もいなくなって大泣きしているよなーと心配で戻ると、指しゃぶりしながらお布団にくるまり、大人しく待っていた娘!
パパよりも毅然と待っているその様子を見て私は私が恥ずかしくなると同時に、娘の成長をとても嬉しく感じていました。
そして、そのとき娘が発した以下の一言が今でも忘れられません。
「パパ!ママ、頑張ったね~!!」
私はむしろ大泣きしているだろう、怖がっているだろう、お腹もすいているだろうと思っていたのに、まさかまさかの開口一番が「ママ、頑張ったね~!!」。
驚きを感じずにはいられませんでした。
そして冷静になればなるほどその言葉にとても感動の気持ちが湧き上がってきたのです。
今までは私たち親が娘を心配する立場だったけれど、今回初めて娘がママを心配する姿を見ることができました。
ただ大人しく泣かずに待っていてくれただけでなく、心の中では、「ママ、頑張ってー」と応援していたのかと思うとなんだかほっこりしました。
このピンチを乗り越え、「ママ頑張ったよね」という気持ちを共感できたことで、お互いが家族というチームの一員なのだと実感しました。
その後すぐに支度をし、娘を保育園へ送り届けて病院へ直行しました。
診察の結果は食中毒でした。
本人曰く、昨日一人で食べた鶏皮ポン酢に十分に火が通ってなかったようです。
点滴を打ってもらい、だいぶ回復していた妻の様子を見てようやく一安心しました。
病院のベッドで休息中、娘の一言の話をすると、そのギャップのある大人な発言に妻は大爆笑。
ひとしきりその話で盛り上がり、「なんか元気出てきたわー!!」と妻もいつもの調子を取り戻したようでした。
娘の成長が嬉しかったのと、頑張った自分を褒めてくれたことが嬉しかったのだと思います。
妻は幸いにもそこまで重症ではなかったため、その日のうちに退院し家に帰ることができました。
壮絶でしたが、とてもエモい一日でした。
(ライター:直行 )