目の前に、色とりどりの葉っぱが広がっていた。
美しく儚い、12月の紅葉。
…いまから30分ほど前。
今日は、3歳息子の年内保育園最終日。
いったん自宅に戻って保育園から持ち帰ってきた荷物を家に置いたら、今週頭に手に入れたばかりの押し手つき自転車に息子を乗せていつもの公園へ行き、いつものスーパーで買い出しをして、また家に帰ろう。
そう考えていた。
寒空の下ふたりで急いで帰宅し、暗くならないうちにともう一度外出するべく準備をしていると、息子が一言。
「ぼくについてきて」3歳の息子がわたしに見せたかった景色<第三回投稿コンテスト NO.51>
18,319 Viewいつものように息子を連れて公園に行こうとしていたまりさん。すると息子から「おかあしゃんに見せたいものがある」と言われ…。
どこにあるの?と訊くと、私の聞いたことのない公園の名前が返ってきた。
「おかあさんは知らない公園だけど大丈夫?」
コクリと頷く息子。
自転車で私の前を走りながら、道を教えてくれる。
ついこのあいだまでは、保育園で新しい公園に行ったと息子が話してはいても、息子自身で場所をうまく伝えられないので、
その新しい公園にもう一度行くには、保育園の先生に公園の場所を聞き、私が先頭に立って公園探しをしていた。
けれど私は方向音痴なので、聞いた公園の場所が結局どこかわからなくなり、もちろん息子に訊いてもうまくは案内できないので、
ふたりで道がわからなくなって、目的とは違う公園で遊んで、見つからなかったねぇと一緒に笑いながら暗くなった家路を急いだり、していた。
それなのに今日は、息子が先頭に立ち、私が行ったことのない公園までの道案内をしてくれている…!
なんだか嬉しいような、信じられないような気持ちで、自転車に乗った息子の、すっかり赤ちゃんではなくなったしっかりとしたかたちの後頭部を見つめながら歩いていると、息子が「ここだよ!」という。
顔をあげると、息子がさっき口に出していたのと全く同じ公園の名前が書かれた看板が、目に飛び込んできた。
得意げに進む息子の後ろについて公園の門をくぐる。
…目の前に、色とりどりの葉っぱが広がっていた。
美しく儚い、12月の紅葉。
…そう、私は、息子が私に見せたいという一心で案内し連れてきてくれた公園で、息子と一緒に紅葉を見上げていたのだ。
こんなにも綺麗な紅葉は、みたことがなかった。
こんなにも紅葉に心を動かされたことはなかった。
しばらく2人で、他愛のない会話をしながら、美しく色づいた公園を散歩した。
息子は3歳。
もしかしたら大きくなるころにはもう、今日のことは覚えていないかもしれない。
でもおかあさん覚えてるよ、あなたのぶんも、きっとずっと覚えてる。
絶対に忘れないよ。
…自分で道案内を成し遂げ嬉しそうに私を振り返った息子の笑顔の眩しさと、この瞬間にしか見られない紅葉の美しさが、
まるで一粒の宝石のように、儚く美しい唯一無二の輝きを放ちながら、私のこの胸の奥に、ぽとりと落ちていった。
いつまでも強く輝き続けるから、絶対に見失わない光。
来年も、再来年も、…あなたがいつか、つないだ私の手を離してひとりで走り出すその日までは、まだまだずっと一緒に、紅葉を見ようね。
(ライター:まりさん)
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