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公開 2020年01月06日  

失敗したキャラ弁を完食してきた息子。その理由が愛おしくて切ない<第三回投稿コンテスト NO.34>

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食の細い息子さんのためにキャラ弁に初挑戦したアハハさん。だけどそれはとてもじゃないけど、うまくできたとはいえないもので…。そんなお弁当でも完食してきてくれた息子さんに、胸が熱くなったというエモエピソードです。



食の細すぎる息子。

人生山あり谷ありといいますが、私の育児は山あり谷あり谷底ありである。

毎日息子の食べ残しのヤマに、失意のどん底。

会社の理念によくある「ムリ・ムラ・ムダを無くそう」という、いわゆる「3M」(スリーエム)。

これは息子にも当てはまる。

食事にムラがあり、ムリに食べさせたってムダになるばかり。


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「はい、あーん」

なんて優しく言ったってダメ。

やっと口が開いたと思えば大あくび。

時計はすでに午後8時を回る。

風呂も、歯磨きも、トイレもまだ。

焦りを隠せず「よく噛んで」と言いながら私は目の前の味噌汁を流し込む。

ついでに息子の食べ残しも頬張る。

そんな様子に「ママ、大きくなってね」と息子。

おいおい、お〜い!



息子を生んで早三年。

産後ダイエットは息子の残り物を食べることで見事に停滞。

筋トレ。ランニング。家事育児。

身を粉にして励んだって、ママの身は粉にはならず餅になる。

だけどそれ以上に心配なのは息子の食の細さ。

がんばったって結果にコミットしないのはダイエットも育児もそうだ。

今日だってせっかく作った炒飯を半分も食べない。

「なんで残すの?」

「だってきのうも食べたから」

言い訳だけは一人前。

それでも入園前に何とかしなきゃと焦る私。しかし状況は一向に変わらず入園を迎えた。


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入園と同時に始まった弁当作り。

身体も重いが、気も重い。

何てったって私は「超」がつくほどの不器用だ。

卵ですらうまく割れないし、焼けない。

卵焼きはだいたい失敗し、炒り卵になる。

弁当に卵の殻を見つけた夫は「もうケッコー」と苦笑い。

そんな夫の弁当は大抵息子の残り物。

申し訳ないが卵や海苔の切れ端ばかりだった。



入園してまもなく担任の先生から電話が来た。用件はお弁当のことだった。

「こちらも声はかけているんですけど食が進まないみたいで」

「はあ」

「おとなりの子のおべんとうが気になってたりして」

「へぇー」

「それちょうだいってとっちゃったり」

「ひぃっ」

「まあ、私の方で仲裁に入ったんですけど」

「ほお」

相づちだけでハ行が揃いそうだった。

息子の知られざる行動。

食べないのはわかるが、友達のをとるなんて。



「キャラ弁当がうらやましかったみたいで」

キャラ弁当!?うちの子が!?

寝耳に水どころか寝耳に熱湯でもかけられたような衝撃だった。

しかし息子に聞けば「キャラ弁がよかった」と涙ながらに言う。

そうか。

そうなのか。

もうやるしかない。


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翌朝早めに起きて調理開始。

息子のリクエストは「すみっこぐらしのペンギン」だ。

しかし開始10分でペンギンを緑にする材料がないことに気づく。

緑っぽいふりかけもない。

困ったな。

この時間ではどの店も開いていない。

そこで思い付いたのが、青汁の粉末。

ほんの少しなら匂いや味もしないだろう。

そんな気持ちでおにぎりにふりかけた。



はじめてのキャラ弁作りは思っていたよりも難航。

海苔を目、口、眉にカットするだけでも時間がかかり、気づけばあっという間に1時間が経過。

何とか隙間を枝豆でうめて、これで完成。

しかし夫は弁当を見るなりひと言。

「ん?カラス?」

いいえ。ペンギンですから!

全くデリカシーのカケラもない。



しかし家族のために働く夫にキャラ弁当の破片ばかり詰める私の方がデリカシーがないだろう。

そんな自分を棚に上げ、結局「嫌なら食べなくたっていい」と言い放つ。

全然可愛くないな、あたし。

まあ、それはともかく。

その日息子は「ぜんぶたべたー!」と言って帰ってきた。

なんてったってはじめての完食。

私も嬉しくて天にも昇るような気持ちになった。

手間暇かけてよかった。

ああ救われた。

そんな思いに浸った時だった。

息子の水筒を手にした瞬間、私は思わず固まってしまった。

いつもならほとんど飲まずに持って帰ってくる水筒。

その日はなぜかスッカラカン。

「どうしたの?」と聞けば「全部飲んだ」と言う。

しかしなぜ?いつもは半分だって飲まないのに。



何があったんだろう。

私の関心は完全に空っぽの弁当箱より、空っぽの水筒に向けられた。

だけど息子はそれ以上のことは何も語らない。

その真相はまたも先生からの電話で明らかになる。

なんと息子はおにぎりを水筒の水で流し込んでいた。

「おにぎりがクサイって言ってたんですけど。ごはんを食べないと絵本に食べられちゃうって泣いてました」

途端に私は言葉を失った。

息子は言わなかったのだ。

おにぎりが美味しくなかったということを。

そして息子は信じていたのだ。

私の何気ない一言を。



実は2日前にペンギンたちが絵本に吸い込まれるという映画を見た。

息子はペンギンの大ファンで、私もそれをいいことに「ご飯を食べないと絵本に食べられちゃうよ」と発破をかけていた。

ああ、私のせいだ。

ぜんぶ私のせいだ。

それでも食べてくれたんだ。

そう思うと嬉しくもあり、切なくもあり、息子がものすごく愛おしくなった。

うまく作れなくてごめん。

ムリに食べさせてごめん。

でもありがとう。

何度も謝り、何度も感謝した。


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子育てはなんだかキャラ弁みたいだ。

親は良かれと思ってあの手この手を尽くす。

言葉を替え、表情を替え、手を替え品を替え。

甘い言葉をかけたり、時に苦い思いをさせたり。

だけどそこに正解はない。

だからこそ悩むし、親として自信をなくすことだってある。

だけど一つだけ揺るがない事実がある。

それはどんなに手を焼いても、どれだけ苦労しても、やっぱり私は「息子」という存在が好きで、「成長」というごちそうはもっと好きなんだってこと。

「空っぽ事件」は私に息子への愛と、子育ての魅力を再確認させてくれた。

あれから半年。

まもなく息子は何を入れても完食するようになった。

もう無理してキャラ弁当を作らなくてもいいのかと思うと、ペンギンおにぎりのあの青臭さすら懐かしい。


(ライター:アハハ)


※ この記事は2024年04月12日に再公開された記事です。

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