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まだ2歳。「死」の説明をためらったけど…娘の優しい眼が語っていた<第三回投稿コンテスト NO.18>

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姉妹を子育て中のさざなみさんが、第2子出産のために里帰りした時のこと…。当時2歳だった上の子と、ご実家で暮らしていた猫のお話だそうです。


こんにちは、3歳と1歳のくせ毛姉妹を育児中のさざなみと申します。

これは、長女が二歳三カ月の頃……次女の里帰り出産のために実家に戻った2018年夏の話です。


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実家に到着したのは、夏を目前にした蒸し暑い季節でした。

来たる新生活。

パワーを持て余した二歳児と、やがて生まれ来るその妹を迎える準備で、さぞ賑やかになるだろう、と想像していました。

予想に反し、出迎えた母はどこか痛みをこらえるような笑顔でした。

「いらっしゃい、よく来たね」

その夏、私の実家は何かを憚るように静まり返っていました。

一家のアイドル、十六年の長い月日を一緒に暮らしてきた猫のルナが、緩やかに生を閉じようとしていたのです。


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「もうずっと何も食べんのよ」

食欲を失くした猫のために、母はあらゆる種類のキャットフードを買い込んでいました。

ずらりと並んだきらびやかなパッケージに見向きもせず、ルナは骨の浮いた身体で窓辺に横たわっていました。

「お医者さん連れて行っても、もう何もしてやれんって」

老衰だからね、もう諦めた、という母の顔は言葉に反して乱れていました。

見守りたいという気持ちと見ていられないという気持ちが戦っているのが分かりました。

ルナは顔に触れるレースのカーテンも感じられないようでした。

窓越しに迫る夕暮れの気配にも気づかないで、眼を閉じてじっとしていました。


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「違うけど……」と否定しながらも、私自身、ルナに触れられませんでした。

やせ細った猫が、自分の知っている頃の姿と全く変わってしまったようで、現実を受け止められなかったのです。

猫の世話は全て母が担当していました。

「水のむかい?」

日に何度も、猫の口元に水を運ぶ母。

指伝いに降りかける滴に、わずかにひげをうごかすルナ。

母は買い物もわずかな距離の外出も控え、ずっとルナに付き添っていました。

「どうしてねこちゃん触っちゃだめなの?」

何度もルナに近づくところを止められて、娘は納得がいかない様子でした。

私は言葉を濁しました。

二歳の子に対し、死にゆく猫の状態についてどう説明すればよいか分からなかったからです。

それが穏やかに訪れるものであっても、死という概念を受け止められる年齢ではないと考えたのです。

私たちが到着して数日後の夕方、ルナは亡くなりました。

どれが最後の呼吸だったのかも分からないくらい、静かな最期でした。

同じ部屋でお昼寝していた娘をそのままに、家族で交代に庭に出て穴を掘りました。

土を運び、綺麗な花を買ってきて供養の準備をしました。

部屋に戻った私はぎょっとしました。


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昼寝から目覚めた娘が、猫を撫でていたのです。

それも、とびきり優しく。


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まだ小さいから説明しても分からない、と諦めていた私。

だけど、娘は反応のない猫の身体を、大人に止められるまでずっと撫でていました。

穏やかな顔で、慈しむように、優しく優しく撫でていました。

彼女の眼には、老衰で痩せこけた猫ではなく、在りし日のいたずら猫が映っていたように思われます。

そこには死に対する恐れも忌避もなく、猫への愛情だけがありました。

子どもにはまだ分からない、と大人が判断して遮断している物事は多くあります。

この世に溢れる数多くの悲しみから、可能な限り遠ざけて守ってやりたいと考えるのです。

しかし、あのときばかりは、二歳の娘が大人の私に身近な『死』との向き合い方を教えてくれました。


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今思えば、あの夏の私はずっと、実家に立ち込める死の気配を穢れのように感じていたのです。

妊娠後期、守るべき命を宿していた母としての本能的な反応だったのでしょう。

埋める直前になってようやく、私は娘のしたようにルナの身体に触れてありがとうと伝えることができました。

ルナと過ごした楽しかった日々を思い返すことができました。

そして今、あのときそうできて良かった、と心の底から思っています。


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娘には、ルナのお墓を教えました。

そこに花を飾ること、通るたびに挨拶することを教えました。

ルナがそこにいなくても、家族はいつでもルナの思い出を語り合うことができることを教えました。

娘は姉になり、三歳になりました。

おしゃべりも達者で、話していると、もう大人たちと同じ次元でルナが死んだことを理解しているように感じます。

いつか娘が充分に成長したら、大人たちをぎょっとさせたあのとき――死んだ猫を真剣に撫でていたあのときのことを聞いてみたいと思っています。



(ライター:さざなみ)



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