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赤ちゃんと一緒でも、頭の中では遠くまで行ける。作家としての仕事と子育て

赤ちゃんと一緒でも、頭の中では遠くまで行ける。作家としての仕事と子育てのタイトル画像

2人目のお子さんが生まれたばかりの作家、山崎ナオコーラさん。出産・子育てをきっかけに、作家としてのスタンスにも変化があったようです。インタビュー後編では、お仕事のことについても聞いてみました。

何事にも没入しないから切り替えも早い

―― 子育て中のお仕事はどうされていますか?

上の子が幼稚園に行って、下の子が寝ている間はエッセイを書いたり、ゲラをチェックしたりしています。寝返りをうつ前の頃って一番よく寝るので、この時期が一番仕事がはかどりますね。

1人目のときもそうでしたが、大きくなるにつれて起きている時間が短くなるので、だんだん大変になっていきますよね。


―― 泣いたり呼ばれたりして、集中力が削がれたりしませんか?

私はもともと何事にも没入しないタイプなので大丈夫です。夢中になり過ぎるのがあまり好きじゃないんです。余談ですが、恋愛でも我を忘れて夜中に会いに行ったりするのは嫌で……常に自分は自分でいたいタイプですね。

本を読むときもジェットコースターのように没入させられるものよりも、いつでも好きなときに閉じられるような本が好きで。自分が書くときも、そんな本を書きたいと思っています。


―― 作家の方って読者を「没入させたい」のかと思っていました!

読者を夢中にさせられる本も素晴らしいですし、いろんなタイプの本があっていいのかなと思っています。

私は本を書いているとき、降ってくるとか憑依するようなことも全然なくて、考えに考えて書くのが好きなんです。だから途中で子どもに呼ばれても、すぐペンを置くことができます。


―― 執筆の時間はどう捻出されているのでしょうか?

正直、執筆にあてられる時間は減っていますね。

でも子どもと接している間も、頭の中ではいろいろと考えることができます。作家という仕事なので、考え事をすればちょっとは仕事を進められるんです(笑)。文字を書いていることだけが仕事じゃない、と思うようにしています。

頭の中は絶対に自分だけのもの

―― 確かに、机に向かうだけが仕事ではないですよね。

毎日家事や育児に追われていると、自分の成長が止まっているように感じることがあります。夫は外で働いて、いろいろな人と接して、社会のしがらみのなかで成長できていてズルいなぁと思ってしまう。

でも考えてみれば、頭の中は絶対に自分のものですよね。子どもと遊ぶときも、家事をしているときも私は私。

子どものために時間を使ってあげているということではないと思うんです。

子どもと接しているなかでも深い考え事はできるし、子どもの意外な発言でハッと気づくこともある。子育て中でも自分は成長できているんだと感じることが今は多いです。

専業主婦の方だって、育児や家事という仕事をするなかで新たな発見や気づきがあって、絶対に成長していますよね。

それらの仕事を時間やお金に換算しようとすると「こんなにやったのに」という気持ちになってしまいますが、成長に価値を感じるようにすると、イライラ感は薄まるような気がします。

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―― そんな風に考えられるようになったきっかけはありましたか?

きっかけとは言えないかもしれませんが、金子光晴という私の一番好きな詩人のエッセイのなかに、「僕には、どうしても、芸術家のしごとが、制作のあいだのよろこびだけで元がとれているものとしか考えられない。作品と金銭のかかわりあいは、どうしても、おはずかしいものを、金に換えているとして考えられない」という一文があります。

つまり芸術家の仕事は、仕事しているときの喜びで元を取るものであり、その後に得るかもしれない評価やお金で元を取ろうとしてはいけないのだと。

「これだな」と思いました。私も文章を書いているときの楽しさだけで元を取らなければいけない。評価やお金は期待しないほうがいいと思いました。


―― それは子育てでも同じですね。

そうなんです。子どもが恩返ししてくれたり、立派になったり、親に何か返してくれるから子育てしているわけではない。この瞬間が楽しいから子どもを慈しんで、子育てをしているというのが一番大事なんだと思います。

OLは無理だけど小説家ならなれると言われて

―― 山崎さんが本に携わる仕事をしようと思ったきっかっけは?

子どもの頃から漠然と考えていました。幼稚園の頃は絵本をつくる人になりたかったんです。
中3のときに進路希望の紙に、第一希望にOL、第二希望に小説家と書きました。

当時は、小説家は無理かもしれないけど、OLにはなれるんじゃないかと思ってたんですが、担任の先生に「山崎にOLは無理だろう。小説家のほうがまだなれそうなんじゃないか?」と言われて。「そうなんだ?」と思って。

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それからずっと小説家になりたいと思っていました。


―― そこから少しずつ書き始めたのでしょうか?

私の世代は、高校生でデビューした作家がいなくて、すぐに書こうとは思いつかなかったんです。

大学の卒業論文を書いたときに、初めて50枚という量の文章を書いて、「新人文学賞の規定の100枚はこの2倍書けばいいんだ」と自信が湧いてきたんです。

12月に卒論の執筆を終えてから3月末の文学賞の締め切りまでに100枚を書き上げたのが、初めての作品です。それは2次選考止まりでしたが、自分が考えたタイトルやペンネームが活字になって掲載されたのがうれしくて。

タイトルと名前だけでこんなにうれしいなら、小説が活字になったらどんなにうれしいんだろうとモチベーションが上がりました。そこから2作目、3作目を書いて、3作目で受賞してデビューすることになりました。


―― しばらくは会社員をしながら二足のわらじで小説を書いていたとか。

編集者にも「会社はすぐに辞めないでください」と言われていたんです。賞を取るとすぐ辞めちゃう人がいるけど、全員が小説で食べられるわけではないからと。そこから1〜2年は会社に勤めながら、文章を書いていました。

でも新聞の連載エッセイの仕事がいただけて、そのギャランティが月16万5000円。当時の月給が17万円だったので、「これならいけるな」と。30歳までに何かを成し遂げないといけないという焦りもあって会社を辞め、筆業に専念することになりました。


―― 人間観察の場として会社員の経験も役に立ちそうですよね。

そうなんです。完全にフリーになると好きな人としか付き合わなくなるので……特に共通点のない人たちと島みたいに机を寄せて仕事をしていた環境は、今思うと貴重だったなと惜しむ気持ちもあります。

赤ちゃんと一緒でも、頭の中では遠くまで行ける。作家としての仕事と子育ての画像3


今は作家仲間との交流を楽しんでいます。意外かもしれませんが作家同士はライバル関係ではなく、とても仲が良いんです。交友関係の広い作家が、他のいろんな作家を連れてきてくれたりして、輪も広がっています。

作家という職業が孤独で、出会いを求めている人が多いということもあるかもしれないですね。

周りが大きな世界に行くなら、私は小さな世界に行く

―― 作家さんの横のつながりが深いことは意外です。

昔は鉢合わせると殴り合いをしていた……という話も聞きますが、私たちは全然そんな雰囲気ではないです。性別関係なくよく集まりますし、作品を褒め合うことはあっても、酷評することはありません。競争が嫌いな世代でもありますし。

今は文学シーンがそんなに盛り上がっている訳ではないので、小さいパイを奪い合うより、一緒に文学を盛り上げようという気持ちが強いような気がします。


―― 作家仲間の存在が刺激になることも?

実は同世代の仲のいい作家たちが、私の育児中にどんどん良い仕事をして、英語も話せるようになっていたり、世界を飛び回ったりして、大きな世界に行ってしまったように感じていたんです。

それに対して自分は子どももまだ小さいし、車の免許もなくて、小さな世界にはまり込んでいるような気持ちになっていました。

そこで思ったのが、みんなが外の大きな世界に向かうなら、私はあえて逆方向の小さな世界に向かおうということ。閉じこもり、小さな世界へ進むことで新たな境地を切り開いていけるんじゃないかと。それが今のテーマになりました。

その意味では、仲間たちの存在が刺激になりましたね。

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―― 人間の内面は宇宙よりも大きいと言われますよね。

そうですよね。赤ちゃんがいると出かけられないことが多いですが、友人のSNSなどを見ると世界中を飛び回ったり、有名人に会ったりしていて、うらやましく感じてしまうこともあります。

でも私は私のできるやり方で世界を切り開けばいい。赤ちゃんと一緒でも、頭の中では遠くまで行ける。そこから作品を生み出したいと思うようになりました。

海外に飛び出す作家がいれば、家にこもる作家もいる。その多様性も大事なのかなと思っています。

モヤモヤを抱えながらキラキラした世界を生きる

―― 書きたいテーマはどうやって見つけるんですか?

普段の生活のなかで興味があることや疑問に思っていること、悩んでいることなどから芽が伸びるようにして決まっていくことが多いですね。

自分なりの衝動もあるし、生きづらさやモヤモヤした気持ちが澱のように溜まって、吐き出したくなる。それがテーマになることもあります。


―― ネガティブな気持ちから生まれることも多いんですね。

私は基本的に社会はよいものだと思っていて、世界もキラキラして見えるタイプなんですが、だからと言ってそれが書く原動力になるわけではありません。

これまで性をライフテーマとして、「男性だからこう、女性だからこう」と押し付けられることへの違和感を作品にしてきました。モヤモヤを抱えながらキラキラした世界を生きるというところから、作品が生まれてきたのかもしれませんね。


―― 今後取り組みたいテーマはありますか?

まだ固まってはいませんが、社会派作家を目指していることもあり、「お金」の話について書いてみたいなと思っています。

私には大きな経済の話は分かりませんが、「250円と500円のコーヒーのどちらを選ぶか」といった、小さな経済の世界を書いてみたいですね。

お金って結局、コミュニケーションだと思うんです。遠くの人とやり取りしたり、人とつながるために使っていると思うと、言語とも似ていて面白いなって。


―― 「お金」というテーマ、面白そうですね!

私、お金の話が好きで(笑)。入金や貯金額をアプリでチェックしたりするのも好きなんですよね。

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夫との関係性でも、お金がものを言ってるなぁと思うことも多くて。「夫より稼いでいる」とエッセイに書くと、「そんなことを書いたらいけない」「旦那さんがかわいそう」という意見を読者の方からいただくこともあります。

夫自身、たくさん稼ぐことを目指していないし、全然気にしていないので、別にいいんじゃないかと思うんですが……お金を題材にするのは難しいですね。

仕事をしていても「これを書いたらいくらお金が入る」とか、つい考えてしまう。でも金子光晴の言葉を思い出して、「いやいや、仕事はそういう気持ちですべきじゃない」とすぐ打ち消すのですが。

そのせめぎ合いもまた人間臭くて、面白いところだなと思うんです。難しいテーマだからこそ余計に書きたくなりますね。きっとやり甲斐のある仕事になるだろうなと思っています。


プロフィール
山崎ナオコーラ

1978年生まれ。福岡県北九州市出身。國學院大学文学部日本文学科卒業。2004年『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞してデビュー。著書に、小説『ニキの屈辱』『美しい距離』(島清恋愛文学賞受賞)、エッセイ『母ではなくて、親になる』『かわいい夫』『ブスの自信の持ち方』などがある。
「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい。」「フェミニンな男性を肯定したい」という目標を掲げている。

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この記事を書いた人
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Conobieスペシャルインタビュー

コノビー世代が気になるあの人に、子育てや日々の思いなどをインタビューするスペシャル企画です。...

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