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公開 2019年08月28日  

お昼ご飯を作るだけで、場が荒れたワケとは。子ども達の行動が予測不可能すぎた。

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お昼ごはんをこしらえるだけでこうだもの。
とりあえず、ゆで卵の茹で時間には気を付けて、とだけ。


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その日はなんだかとても疲れていて、お昼ごはんの支度が、うんと遅くなってしまった。

子どもたちもお腹を空かせているし、もたもたしている場合ではないのだけど、疲れているときって、頭もなんだかうまく働かない。

頭がぼうっとして、献立がなかなか決まらないのだ。

頭の中は、クモの巣がかかったようにぼんやりとしていて、身体も鉛のように重たくて、野菜室を開けても、チルド室を開けても、なにをつくればいいのか、思いつかなかった。

とりあえず、なにかタンパク質があれば、と思い、たまごのパックを取り出した。

すると、まずは末っ子、「ちょんちょんぱん、やる!!!」

来るよね。来る。卵が割りたいお年頃、2歳。

なんなのこの通過儀礼。

「いっこちょーだい」

左手をほっぺたに添えて、右手を差し出す。

え……なに……そのかわいいポーズ。

これを見て渡さないとかある?ないよね(即答)。

押し問答したって、結局、悶着しているうちに卵が割れるか、話がこじれて修復不可能なタイムロスが生まれるかだもの、そしてこんなにかわいいんだもの。

私としては、卵を持たせる一択になる。

卵がうまく割れる確率、だいたい55%くらいか。

うまくいくほうに期待を全寄せして、いざ、ちょんちょんぱん。


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「ちょーんちょーん、ちょーんちょーん…」

卵はあっけなく、フローリングと末っ子の足に流れ落ちた。

末っ子をお風呂で軽く清めて、タオルで拭いて、床の掃除をして、昼食づくりを再開する。

生き残った卵を、なんだかすっかり血迷って、8個も鍋に入れて、ゆで卵をつくることにした。

普段なら、茹で時間がもどかしいから、絶対にゆで卵なんてつくらないのだけど、なにを思ったのか、その日は茹でることしか考えられなかったのだ。

疲れているとき、そういうことってあるよね。

あるって言って。


そういえばついさっき、お昼の料理番組で、芋餅をつくっていたぞ、と思い出した。

「じゃが芋をすり下ろして、焼けばいいのです。とても簡単。」

そう、テレビの中の女性が言っていた。

ならば便乗しよう。

私もそれをつくる。

よし、そうめんにゆで卵ときゅうりを乗せて、あとは芋餅でフィニッシュだ。

そう思うと、がぜんやる気が出た。

芋を擦るのだ。

じゃが芋を剥いて、いざ擦り始めると、今度は長男がやってきた。



「それやりたーい!!」

お、おう。そうなるよね。

じゃあ、やってみようか……うん。

さすがそこは5歳。まあまあ、上手。

そうそう、その調子、とお任せしていたら、また現れる末っ子。

「末っ子ちゃんもやるー」

うん。もう、ほとんど自然の摂理だから、抗う気もないよ。

長男と末っ子に、それぞれおろし器を持たせて、上手上手とおだてて褒めて、お昼ごはんが遠すぎて、目がかすみそうになっていたら、末っ子がボウルをひっくり返した。

どろどろの芋が、末っ子の足に流れ落ちる。

隣にいた長男も飛び火を受けて、芋を浴びてしまった。

速やかにもう一度お風呂に運ばれる末っ子。そして長男。

2人そろうと水遊びになるのはもはや必然だから、もうそのまま、お風呂場にいたらいいんじゃないかな、というわけで楽しそうな声をバックミュージックにして、その隙にお昼ごはん支度のピッチを上げる。

その前に、床をもう一度お掃除。

いったい1日に何回、床を拭くのか。



ゆで卵の粗熱が取れた頃を見計らって、長女に「卵の皮を剥いてほしいの」と、お願いした。

「わーい!卵の殻剥くの大好き!」

よかったよかった。

もう7歳だしね、うんとお姉さんだしね、ありがたくお任せしてしまおう、とキッチンに向きなおったら、背後から長女が悲鳴をあげた。

振り返るとそこには、顔面に卵を浴びている長女。

私の理解の範疇は、スプーン1杯くらいしかないのかもしれない。

つまり理解ができなかった。

「卵を割ったら、ぶちゅって出たの」

ああ、つまり茹で時間を見誤ったのね、慣れないことはしちゃだめだな、とうなだれて、長女にシャワーを浴びておいで、と提案した。

入れ違いで、長男と末っ子がお風呂場から帰ってきた。

「ゆで卵の皮!!!むきたい!!」

元気だネ!長男!!

でも、こればっかりは、自然の摂理とか、呑気なことを言ってる場合ではない。

これ以上の湯浴びコースは避けたいんだもの。

この卵は今、とても危険だから、爆発するからおよしなさいね、と一生懸命説得をして、どうにかお引き取り頂く。

どう剥いても、もろもろの白身が崩れるし、黄身に関してはどろんどろんだしで、散々手こずって、可食部はうんと少なくなった。

8個もあったはずの卵は、寄せ集めても、信じられないくらいに少量だった。

それでもどうにか、そうめんの上にそれを乗せて、焼きあがった芋餅を添えて、お昼ごはんにした。

子どもたちが、ようやく食事にありついたのは、もう14時を迎えようとしているところだった。



ひと安心して、トイレに立ったついでに、そうだ、お風呂場の窓を開けておこう、と主婦らしく閃いて、一歩浴室に足を踏み入れたら、違和感がすごい。

シトラスの香りが、異常に充満していた。

そこは、世にも恐ろしい、床一面がトリートメントにまみれた世界だった。

白い床に白いトリートメントが、コーティングされていた。

いったんドアを閉めて、心を鎮める。

これは誇張でもなんでもなくて、私、35歳にして、産まれて初めて、膝から崩れ落ちる、という経験をした。

お風呂場の出口に置いてある、珪藻土のマットにゴツンと両ひざをぶつけて、今世紀最大のため息が出た。


さっきまでシャワーを浴びていた長女に訊ねると、「うん、床がぬるぬるした」とのことだった。

長男と末っ子に、「あれだけトリートメントで遊んじゃダメって言ったでしょ」と、よその人が聞いたら、なんのこっちゃなセリフを半べそで、3回ぐらい言って、あとはただ、黙々とお風呂場を掃除した。

床もお風呂もとびきり綺麗になったし、レパートリーにあたらしく芋餅が増えたし、子どもたちは大喜びで食べてくれたし、よかったことだけを超、超、至近距離でフォーカスしたから、最高にいい日だった。よ。


※ この記事は2024年03月19日に再公開された記事です。

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