私の両親は、私が10歳の時に離婚しました。
原因は父にあり、母は私と妹を連れて家を出ました。
私が結婚してからは、母は私たち家族と同居し、パートと孫の世話で充実した日々を送っているかのように見えました。
それまで元気に働いていた母が、体調不良を訴えるように。
すぐに大学病院で検査を受けることになったのです。
「癌かもしれない…」
実は、ひそかにそう思っていました。
あんなに元気だったのに、なにかに体を奪われたようにどんどん痩せていく母。
そして、そんな予感は的中してしまったのです。
余命2ヶ月…。
2ヶ月しかないのなら、手術も成す術もないのなら、母を絶望させたくない。
そう思い、本人に告知することを拒否したのです。
そして帰宅後、母の様子を心配していた人たちに連絡をしました。
それからというもの、父は毎日のように母の病室に来ました。
口下手な父は、天気の話と母の具合をひとつ、ふたつ聞くだけでした。
ときどきくだらない談笑をしては、その場を和ませて、そしてまた自分の家庭に帰っていったのです。
余命宣告の2ヶ月を待たず、母は入院から1ヶ月半後に亡くなりました。
家族と兄弟、そして父に見守られながら息を引きとりました。
夫婦ってなんだろう…。
このテーマに触れたとき、61歳で生涯を閉じた母の最期と、小さくなった父の背中を思い出しました。
いつか聞いた言葉ですが、「夫婦なんて死ぬまでわかり合えないものよ」という言い回しがあります。
夫婦なんて思い通りになりはしないし、愛とか恋とかよりも「暮らし」になってくる。
赤の他人と、何年も何十年もかけて夫婦になっていく。
私の両親のように、離婚して何十年もかけてようやくたどり着くものは、絆なのか、情なのかすら、私にはまだわかりません。
ただ…
母の最期の時の両親を見て思うのは、過去なんてもうどうでもよくて、
「一度は愛した人」という事実だけは決してなかったことにできないんだという、
後悔や懺悔をみっともなく晒しあえる関係が、カタチはどうあれ「夫婦」なんだと思うのです。
私の父と母は、世界一の夫婦だと思っています。