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結婚式にふさわしい花束って、どんなもの?/ 娘のトースト 6話

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中村さんからカミングアウトを受け、結婚式の装花を頼まれた庸子。中村さん、パートナーの田端さんと一緒に、店内で花を選ぶことになった。庸子はそこで、ある質問を投げかける。

定休日の店内。私と中村さん、それからパートナーの田端さんで、結婚式の打ち合わせをする。

会場を飾る花に、お互いの胸を飾るブートニア、それから花束を2つ。

受け取った会場の写真を手に、必要な花を確認していく。

「派手じゃなくて、落ち着いた感じにしたいです」

そう言って田端さんが笑う。その人なつこそうな笑顔につられ、私も自然と笑顔になる。

「じゃあ、グリーンを多めに入れて、あとは白かなあ。アクセントに青や水色を入れてもいいかもしれない。」

バックヤードの棚から追加のカタログや雑誌を持ち出してから、お茶を淹れはじめると中村さんが何かを差し出した。コージーコーナーの紙袋だった。

結婚式にふさわしい花束って、どんなもの?/ 娘のトースト 6話の画像1

「庸子さん、これ。さっき渡しそびれちゃって。つまらないものですが」

「全然つまらなくない、ない! ありがとうございます!」

受け取った袋を開ける。

「あ、それは、ぜひ唯ちゃんに」

中村さんが箱の隅を指差して言う。唯の大好きなチョコマドレーヌもおさえてくれるなんて、さすが中村さん。

私は「そうさせてもらう。ありがとう」とお礼を言った。

「唯ちゃんは、どうですか? 元気ですか?」

「うん。ここ最近、ずっと、ご機嫌よ」

「そうですか」

そう、唯はあれ以来、ずっと機嫌がいい。中間テストの結果も意外と悪くなかったし、部活もますますはりきっている。

たぶん、ありさちゃんとの関係もうまくいってるんだろう。ただの想像だけれど。

結婚式にふさわしい花束って、どんなもの?/ 娘のトースト 6話の画像2

「はあ、いろいろあって、すごいですねえ」

雑誌をパラパラめくり、田端さんは驚いたようにため息をついた。たしかに、結婚情報誌の情報量とぶ厚さは並じゃない。

「実際のお花を見てもらった方が早いかな」

私は店の中を歩き回り、ショーケースやバケツの中から、ひょいひょいといくつかの花をつまみ取る。

「たとえば、こんな感じとか。ブートニア」

まとめた花を自分の胸元にかざしてみせると、「あ、いいですねー」と田端さんが笑い、中村さんは感心したように何度もうなずいた。

「束ねるリボンの色でもイメージ変わったりしますよ」と言って花を戻し、私はガサゴソとコージーコーナーの箱をあさる。

「いただいてもいい?」と尋ねると、2人は「どうぞどうぞ」と声を合わせて答えた。

渡す相手のこと


「あと、花束だけど、これは、それぞれブーケみたいに持つの?」

フィナンシェの袋を開けながら尋ねると、中村さんが「いえ、それはお互いの親に渡そうと思ってます」と答えた。

「感謝の花束?」

「ええ、そうです」

やっぱり、ご両親も出席するんだな。無言でうなずき、フィナンシェを一口かじる。

私もいつか、唯から花束を受け取ったりするんだろうか。その時、唯の隣に立つのは、いったいどんな人だろう。

「僕は赤いバラの花束にしようかと思ってるんですけど」

マドレーヌを手に、田端さんが言う。

「大丈夫ですけど…、お母さんに渡すには、結構、情熱的ですね」

私が目を見開くと、「いや、母親がすごいバラ好きで。やっぱり一番喜んでもらえるのがいいかなと思って」と田端さんは照れたように笑った。

「そうか、親の好きな花か…」

中村さんが困ったようにつぶやくと、「知らない?」と田端さんが問いかけた。中村さんは、さらに眉間のしわを深くして首をひねってる。

そんな2人の様子を見ながら、私はエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、花の種類を書き込む。田端さん、親、赤バラ、と。

それから、フィナンシェの最後の一口をゆっくり飲み込み、大きく深呼吸をして口を開いた。

「あの」

結婚式にふさわしい花束って、どんなもの?/ 娘のトースト 6話の画像3

思ってたより大きな声が出て、2人が同時に視線をあげて私を見た。こんな立ち入ったことを聞くのは失礼かもしれない。だけど、どうしても聞いてみたかった。

「ご両親に、お互いのことを伝えた時って、どんな反応でした?」

顔を見合わせる2人に頭を下げ、「ごめんなさい。でも、親として、気になってしまって…」と言うと、中村さんは穏やかに首を横に振り「大丈夫ですよ」と答えた。

「親の反応は、それぞれですね。うちは、比較的衝突はなかったですが、田端の方は結構大変だったし」

「な」と顔を向ける中村さんに、田端さんは「うん」とうなずいた。

「うちの場合は、大学生の頃に親から聞かれたんです。薄々あやしいと思ってたんでしょうね。ずっと彼女もできないし、もしかしてって感じで。それで正直に打ち明けたら、めちゃくちゃ否定されたんです。『そんな風に育てた覚えはない!』って言って。で、こっちも聞かれたから答えたのにって、大ゲンカですよ。数年は、ほとんど実家にも帰らなかったですね」

「そうなんですね…」

「でも、今にしてみれば親の気持ちもわかります。当時は許せなかったですけどね。それでもだんだん時間をかけて話ができるようになって、今は、理解してくれています。それで、歳をとったからなのか、今度は『ずっと息子の結婚式に出るのが夢だった』とか言い出して」

まったく勝手ですよねー、と言って田端さんは笑った。「でも、それがきっかけでこうして式を挙げることになったし、なんだかんだ言って感謝してるのかな。勝手なのは、お互いさまですしね」

いつか、唯もこんな風に私のことを語ってくれる日が来るのかな。そんなことを考えたら、鼻の奥がツンとしてきた。

「楽しみですね、結婚式」

そう言ったら、本格的に鼻水が出そうになって、あわてて鼻をすすり、今度は中村さんに話を向ける。

「中村さんのご両親は、最初から理解があったんだ。それも素敵。すごいなあ」

しみじみとつぶやくと、中村さんは答える。

「どうなんでしょうね。きっと、言わないけど、親の方はいろいろと思うこともあったと思うんですけど。もともと干渉してくることの少ない人たちで。パートナーのことに関わらず、なにか反対されたことってほとんどないんです。改めて考えると、ありがたいなあと思いますね。子どもの頃は、それを物足りなく感じたこともあったんですけど」

言葉を切り、「僕も勝手ですね」と中村さんは笑う。

私は、ゆっくりと首を横に振る。

「それにしても、なんの花にしたらいいのかな…」中村さんが、ぐるりと店内を見渡しながらつぶやいた。

「親の好きな花なんて、さっぱりわからない」

「田端さんと同じバラにします?」

「うーん、そういう感じでもないような」

中村さんは、真剣な顔をして花をひとつ一つ眺めている。

結婚式にふさわしい花束って、どんなもの?/ 娘のトースト 6話の画像4

「好きな花じゃなくて、相手のイメージに合わせたお花でもいいかも」

アドバイスのつもりで私が言うと、「あ、それなら」と、すぐに中村さんはカウンターのすぐそばに置かれた花束に視線をやった。

「こんな雰囲気がピッタリだなと思ったんです」

それは、昨日の休日、唯がつくった花束だった。

「それ、唯がつくったんです」

私が言うと、中村さんは「唯ちゃんが…」とつぶやき、一人で深くうなずいた。

そして、水色と白のその花束を指差し、

「僕の分の花束、唯ちゃんにお願いできませんか?これと同じものを」

と言った。


次回、「庸子は中村さんからのお願いを、唯にうまく伝えられるのか!?」

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この記事を書いた人
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狩野ワカ

ライター/エッセイスト。自由奔放な2歳の娘と娘溺愛の夫との3人暮らし。フリーペーパーやWebにて、取材記事・エッセイを中心に執筆しています。...

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