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公開 2018年09月07日  

思春期の娘との悩みを、静かに打ち明けた/ 娘のトースト 5話(2ページ目)

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中学校の中間テスト前。娘の唯が、小学校からの友達のありさちゃんとキスをしているところを目撃してしまった庸子は、気が動転してしまう。その時たまたま居合わせた会計士の中村さんと一緒に入った喫茶店で、庸子はこれまでのことをゆっくり話し始めた。


グラタンの焼き加減

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実際、中村さんのカミングアウトに、私はそれほど衝撃を受けなかった。いや、まあ、すごく驚きはしたけれど、それはわずかな間しか続かなかった。

最初の驚きがしずまって、それから私が感じたのは「よかったなあ」という気持ちだった。仕事相手でもあり友人でもある中村さんに、大切な人がいてよかった。

それから、常連の山口さんの「会計士さんと再婚なんていいんじゃない?」なんていう言葉を真に受けて、その気になったりしなくて本当によかった、とも少し思った。

できあがったホワイトソースに海老やマカロニを混ぜ、それをグラタン皿に盛ってチーズをのせる。

そろそろ、唯が帰ってくる。「友達の家で勉強してた。もうすぐ帰るね」と、さっきラインがあった。

オーブンからグラタンの焼く匂いが漂いはじめた頃、唯が帰ってきた。「ただいま」とリビングに入るなり、「いいにおーい」と鼻をクンクンとさせる。

「おかえり」と私が言う後ろで、オーブンが焼き上がりを知らせる。

「もうできるから、手洗ってきて」

ミトンをはめた手でグラタンを取り出すと、「あ」と声が出た。焦げてる。

やっぱりどこか上の空だったのか、焼き時間を間違ってしまったのかもしれない。

「あーあ」

セーラー服のリボンをほどきながら近づいて来た唯が、私の手元をのぞき込む。

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トーストにハマって以来、唯はすっかり焼き加減にうるさくなった。

きっと、この焦げたグラタンにもあれこれ言うにちがいない。そう思って身構えていると、唯は私の肩をポンと叩いた。

「まあ、そういうこともあるよね」

今までとちがう大人ぶった口調と表情でそう言うと、唯は「手洗ってくるー」と洗面所へと消えていった。

ご機嫌だなあ。

その理由を知ってる私は、ふう、と一人ため息をつく。

とりあえず、普通に「おかえり」は言えた。思ったより平気な顔で話もできた。

焦げたグラタンをテーブルへと運びながら、私は「少しずつ少しずつ」とつぶやいた。

次回、「結婚式の打ち合わせに、中村さんとそのパートナーが登場。そこで庸子が感じたこととは…」

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※ この記事は2024年04月07日に再公開された記事です。

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