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公開 2018年09月14日  

子どもが生まれて、“おにぎり”が特別なものに変わった。

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おーなり由子さん著作『こどもスケッチ』(白泉社)より、子育てエッセイを3回にわたりお届けします。(編集:コノビー編集部 三輪ひかり)



おーなり由子さんのイラストエッセイ『こどもスケッチ』(白泉社)より、ママやパパがひとときほっと笑顔になれるようなお話を、3回にわたりご紹介。

第2弾は、こどもが生まれると変化のある食事風景を優しくきりとった「おにぎりな日々」というお話です。


おにぎりな日々


あつあつのごはんを、
ぎゅっ、ぎゅっ、ころん――。

子どもが生まれてから、しょっちゅう
おにぎりをにぎるようになった。

もともと、おにぎりが大好きだったけれど――
今や、わたしにとって、おにぎりは特別な食べ物。

はじまりは、おっぱいの頃。
あっという間におなかがすく自分用だった。
なんというか、お乳の原料。

片手でさっと食べられるのが便利で、
雑穀入りや五目ごはんを炊いて、
一日分をころころにぎった。

おなかがすいたら、いつでもパクリ。

あーおにぎりって、
なんて素晴らしい食べ物だろう、と思った。

離乳食が終わって、
ごはんが食べられるようになったら、
さっそく子どもにもにぎった。

初めての子ども用は、
口に入れやすいように細長おにぎり。

指先でちょんちょん、ぎゅっ。
ごまをふったらできあがり。

ちいさい手が、ふわっとごはんを持って
「だいたい口はこのへん――」
という感じで、そっと口の穴に押し込む一瞬、
その指が愛らしくて、見とれた。

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子どもが食べるのなんて、
ほんのちょこっとだったけど、
作ったものを食べてくれるのって、
ほんとうにうれしい。

エサをはこぶ親ツバメのような気分。

あの幸福は、大昔から
人間の遺伝子のどこかにもある気がして。

そうして、子どもが歩くようになったら、
ますます、おにぎりの日々になった。

まだまだ「ちっちゃ!」と、笑ってしまうような
ミニおにぎりだったけど、作っておけば、
突然の「おなかすいたー」の時、
おやつのかわりになるし、
なんといっても、出かけたくなったら、
さっとカバンにつめて持って行ける! 

わたしはせっせとにぎった。

思えばあの頃は、家よりも、
外にいる時間の方が長かった気がする。

歩きはじめは、ちょっと目を離したスキに、
机の角で頭を打ったり、手をはさんだり。
家の中は危険だらけ。

ふたりだけの時は自分の目しかないなんて、
大変なことだなあ、と思った。

核家族の子育てって、みんなもう無理なことを
だましだましやってるだけなんだ。

ちっとも知らなかった――と、途方に暮れた。

でも、途方に暮れていてもしょうがないので、
晴れた日は外に出かけるようになった。
そう、おにぎり持って。

遊びに夢中でお昼に帰れなくても、
おにぎりがあれば大丈夫。
公園でもどこでも、気楽なところへ――。
毎日がピクニック。

いつのまにかおにぎりは、
わたしの「おまもり」みたいになっていた。

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広々とした、やわらかい草や土のあるところに、
ちっちゃい子を放つと、家の中よりしっくり。

親ものびのびとする。

子どもらは、小犬みたいに走りまわって、
うっかり転んでも、あーんと泣いた声が、
ひかる青空に、すいこまれていく――。

ある日、お母さん友だちと待ち合わせて、
朝から公園に行った。

芝生に子どもを放って、
おひるごはんのおにぎりをほおばっている時、
友だちが言った。

「わたし、今までの人生で、
これほどおにぎりをにぎってる時は、ないかも――」

思わず「そうそう! わたしも!」と
身を乗り出し、しみじみと言ったその言葉に、
すごく幸せな気持ちになった。

「家の中は、めちゃくちゃだけどねえ」
ふたりで笑った。

あーんと泣いていたお口が、
おにぎりをもぐもぐ食べて、
鼻水と涙のついた顔で
「もういっこ」と、手をさし出す。

あー、この手と一緒に、
おにぎりも大きくなったなあ、
なんて思ったりして。

これからもまだまだ、おにぎり、ころん。

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※ この記事は2024年04月15日に再公開された記事です。

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