おーなり由子さんのイラストエッセイ『こどもスケッチ』(白泉社)より、ママやパパがひとときほっと笑顔になれるようなお話を、3回にわたりご紹介。
第1弾は、がらくたまみれの毎日に光を当ててくれる「おもちゃ箱ぐらし」のエピソードです。
息子が教えてくれたのは、ガラクタだって宝物になる世界。
13,529 Viewおーなり由子さん著作『こどもスケッチ』(白泉社)より、子育てエッセイを3回にわたりお届けします。(編集:コノビー編集部 三輪ひかり)
おもちゃ箱ぐらし
おもちゃ箱の中で暮らしている。
どんなふうかというと――
息子が鍋をたたいて
遊んでいるしゃもじを
「かしてね」と、もらってから、
ごはんをよそう。
玄関に落ちている茶漉しをひろって、
紅茶をいれる。
トイレに入ると、
ボールが転がっている。
新しいシーツをかけるたび、
ふわりともぐりこんでくる子と、
しばらく遊んでから、
ふとんを敷く――などなど。
生活がみーんな遊びになるもんだから、
楽しいと大変が、
ごちゃまぜのカオス。
特にうちでは、2、3歳の頃、
散歩のたびに、
息子がいろんなものをひろうのに
はまってしまい、
家の中のカオスが加速した。
「――いいもの、あった!」
思えば、
はじめて息子が道端に落ちていた
大きな釘をひろった時、
わたしがうっかり
「かっこいいねえ」と、
言ってしまったのが
きっかけだったかもしれない。
以来、散歩に行くたび、
ひろったものはぜんぶ大切そうに
ポケットに押し込まれ、
目をきらきらさせて、
またひろっては、
「もってかえる!」――となった。
石ころや木の実なら、
かわいらしくていいのだけれど、
大事なそれは――
ひからびたミミズ、
大きなセメントの破片や、
砂まみれのビービーだん。
踏まれたポケットティッシュ、
長すぎる棒(!)などなど。
「置いていこうよ」と
言いたくなるものもいっぱい。
散歩中、「あった!」を
連発しては、ひろう。
持てなくなったら、
わたしに渡す。
そうして毎日のように、
つぎつぎと家の中に
がらくたが運び込まれてくる。
気がつくと、洗面所には、
さびた釘とへしゃげたビンのフタ。
台所には、
土まみれのタイルの破片、
玄関に人生ゲームの人形、
グルグルのコイル――
中には、よくこんなものが落ちていたなあ、
と感心するものもあるけれど、
たいていはゴミそのもの。
これが大人で美術家なら、
作品になるだろうか。
それにしても、
とっても大事そうだから捨てづらく、
迷っているうちに
家のあちこちにゴミのオブジェが
きりなく置かれていく。
どうしていいものやら悩ましい。
だけど、ある日の散歩のあとのこと。
息子が昼寝している間に
玄関を片付けていたら、
さっき道でひろった
絵のちぎれたシールが置いてあった。
何かのアニメの顔が
びりびりと破れて、半分しかない。
ひろい物の中でも、
トップクラスの意味のなさ。
「これもう、顔ちゃうやん」
と、ひとりでつっこんで、
ふわーっとした気持ちで見つめていた時、
急に、わたしの目が息子の目になった。
そして――あっ、と思った。
その一瞬――
わたしにも子ども界から
シールが見えたのだ。
すごい!
息子は、本気の本気で、
これが宝物なんだ。
ひかって見えてるんだ。
だって、これが宝物なら、
この世界は宝物だらけではないか――。
なんだか、知らない世界に
一瞬で連れていかれたような、
不思議な気持ち。
くやしいけど、
わたしには破れたシールは
ひかって見えない。
同じ場所に生きているのになあ。
ちょっと切なくなったあと、
急にうらやましいような気持ちになった。
がらくたたちがひかって見えた。
がらくたも、ごみも、
ちいさい子の手のひらの上で、
だいじな宝物に変わる。
大切にひろいあげると、
どんなものもひかりはじめる。
わたしは、
おもしろいような気持ちになって、
びりびりのシールを、
そっとかざってみた。
「ふーん」と、
しみじみ眺めてみたりして。
ふりかえると、散歩に疲れて、
ふとんでぐっすり眠る息子。
よく見ると、
背中がもこもことふくらんでいる。
なんだろう?と、さわったら、
どんぐりが、ころん。
裾から転がり出た。
背中に手をつっこむと、
また、ころん、ころん。
いくつも出てきて、
ふとんの上はどんぐりだらけになった。
そういえば公園で、
「もってかえる!」と言って、
なぜか首からどんぐりを
セーターに詰め込んでいたっけ。
(裾にたまってたのが、
寝返りしてる間に背中に回ったらしい。)
よくこんなどんぐりだらけの服で
眠れるなあ。
少し笑って、
散らかったどんぐりのふとんで、
わたしもあおむけに寝転がる。
大人になって、
どんぐりのふとんで、
ねむる日がくるなんてさ。
ちいさい手をさわると――
ひかる気持ちが、
砂金のように降ってくる昼さがり。
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