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公開 2018年05月04日  

素直に仲良くなれない。そんな気持ちもわかるんだけど。 / 24話 sideキリコ(2ページ目)

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奏太が新しい環境に慣れるため、奏太を連れ満の実家で過ごすことになったキリコ。じいじの家で楽しく過ごす奏太だが、プレには行きたくない!と言う。そして近くの公園で出会った男の子、圭吾ともなかなかうまく行かず…。


翌日もなんだかんだ言いつつ、公園に行きたいという奏太と向かうと、圭吾親子の姿はなかった。

奏太は明らかにきょろきょろして何かを探して…ますよね?


キリコ 「どうしたの?」

奏太  「…どうもしない」

キリコ 「ふーん。ねぇ、奏ちゃん」

奏太  「なあに? ママ」

キリコ 「今日さ、桜葉幼稚園の園庭開放の日なんだ。あー、だからさ、幼稚園で遊べる日なの。パパが言ってた滑り台で遊べるんだよ」

奏太  「…」

キリコ 「行ってみる? 圭吾くんは桜庭に行ってるのかもよ? 奏太も行ってみ…」

奏太  「いかない」


…即答かよ。

ぐいぐい来られたのがそんなにイヤだったのかなー…。

背丈も同じくらいで、月齢とかも近そうな男の子だから仲よく遊べるといいなぁ、と思うけど…。

それにあの滑り台、奏太は好きだと思うんだけどなぁ。

行っちゃえば楽しめると思うんだけどなぁ。

子どもたちが園庭で楽しく遊んでるところを見たら、遊びたくなるかな?

せっかく義実家で連泊してるんだから、やれることはやってみよう。


キリコ 「ねぇ、奏ちゃん。今日は冒険しない?」

奏太  「ぼうけん?」

キリコ 「そう。行ったことない道を通ってみるの」

奏太  「なんで?」

キリコ 「なんでって…。だってさ、何かお店があるかもしれないよ? お菓子屋さんとかおもちゃ屋さんとか。探しに行ってみようよ」

奏太  「うーん、いいよ!」


補助輪をガラガラと鳴らしながら奏太と私は幼稚園の方向へと進んだ。

少しずつ子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきて、奏太はそこが何か気が付き自転車を漕ぐのを止めてしまう。


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奏太  「やっぱりこっちに行かない」

キリコ 「大丈夫。中には行かないから。通るだけだよ」

奏太  「やだ」

キリコ 「中には行かないんだからいいでしょ? ほら」


通るだけだもん、いいじゃない。

私も見たいんだよね、どんなママがいるのか。

この間のプレはまったく余裕なかったから…。


奏太  「マーマ。マーマ! 待って!」


後ろでわーわー言っている奏太に何度か振り替えつつも足を止めない私に慌てたのか、奏太は再び自転車をこぎ始めた。

園庭の見えるところまで行き、中を覗くとやっぱり圭吾親子の姿があった。


キリコ 「ほら、やっぱり圭吾くんいるよ」

奏太  「え? どこ?」

キリコ 「あそこ。滑り台の階段のところ」


奏太に分かるように指をさすと、それに気づいたのか圭吾ママが私たちを見て、笑顔で頭を下げる。

…ママグループが何個かできてるけど、圭吾ママは一人でいるなぁ。

なんでだろ?

圭吾も一人で遊んでいる。

不思議に思いながら圭吾ママに頭を下げていると、私たちを見つけた先生が走り寄ってきた。


先生 「奏ちゃん、また来てくれたの? 遊ぼう」


先生に誘われてしまった奏太が慌てて自転車をこぎだしてしまう。


キリコ「あ、奏太!」

先生 「奏ちゃん、待って待って!」


ダッシュで奏太を捕まえた私の元に、先生がやってきて、「回数券」と書かれた手作りの紙を差し出してきた。


先生 「土曜日、第二小学校でバザーがあるんです。そこで使える券です。プレに来てる子に渡していて。前回お休みだったから」

キリコ「ありがとうございます!」

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――そして土曜日。夫が岐阜に来る前に私と奏太はバザーに行ってみることにした。

グラウンドにもいろいろと、子ども模擬店が出ている。

ここは夫が卒業した小学校。

もしあの白い家を買ったら奏太も通うかもしれない小学校なんだよなぁ。


奏太  「ねぇママ! これやりたい!」


中古のおもちゃがもらえるクジコーナーがあって、そこに山手線の模型があった。

あれはNゲージだろうか。

そういうことに詳しくなってしまった自分が笑える。


キリコ 「じゃあ、先生にもらった券でやろうか」

圭吾  「あ! そーたくんだ!」


聞き覚えのある声がして振り返ると、そこには圭吾親子が立っていた。


奏太  「あっちいって!」

キリコ 「こらっ!」


実は昨日も奏太と圭吾は公園でもめたのよね。

木の枝を取り合って…。枝なんてほかにもあるのに…。意味わからん…。


圭吾  「あ! ぼく、あの剣ほしい、ママ!」

圭吾ママ「じゃあ圭吾もやろっか」

圭吾  「うん!」

奏太  「…でんしゃの方がかっこいいし」

圭吾ママ「奏太くんは、あの電車がほしいの?」

奏太  「…」

キリコ 「あ、そうみたいです」

圭吾ママ「当たるといいね」


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何も答えない奏太を見ていると、圭吾が私の脇腹を小さな指でつつく。


圭吾  「ぼくはね、あの剣がいい。シャッキーン! ってやるんだよ」

キリコ 「そっか。かっこいいね」

奏太  「ママ! ぼくが先にやるの。はやくして」


何をそんなに張り合ってるんだか…。

考えてみると、奏太がこうやってムキになるの珍しいな。

いつもは無言か、やっと仲良くなったら少しずつ遊びだすか、なんだけど。


圭吾  「ぼくもやりたい!」

奏太  「あっちにいって!」

圭吾ママ「奏太くん、先にどうぞ」

キリコ 「すみません…」


手作りの箱の中に手を入れ、奏太が一枚の紙を取り出す。

紙には「8」と書かれ、「8」のシールが貼られたおもちゃを役員のお母さんが差し出してくれた…。

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奏太  「あ…」


まさかの圭吾がほしがっている剣じゃないの。


キリコ 「奏ちゃん、圭吾くんにあげたら?」

奏太  「…いやだ!」

圭吾  「………」

圭吾ママ「ほらまだシャボン玉とか、ボールとかあるし、くじやってみよう?」

圭吾  「…うん」


あぁ、もう…。圭吾、しょんぼりしてるから。

剣をあげたらいいのに。

どうしてできないかな。

モヤモヤしているうちに圭吾がクジを引き、そしてまさかのまさか。

奏太がほしがっている山手線の模型が当たってしまった。

わー、こんなことってあるのね。

これは神様のいたずらなのかもしれない――。

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▶︎▶︎ 次回、25話は、5/8(火)20時公開予定!

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連載「家族の選択」 #24
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