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公開 2018年03月20日  

妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満(2ページ目)

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地元の友人でラッパーのタカヒロからの紹介で、転職エージェントK.Dこと土井から届いた名古屋のフォトスタジオの求人に心揺れる満。ワクワクする仕事内容だけど、転職するとなると今住んでいる川口から引っ越しをすることになる。給料も下がる。夢を叶えるために東京に出てきたのに。
迷いながらも満は、転職エージェント土井に連絡をとることに――。





――そして土曜日。その日も冬晴れで冒険に出るには最高の天気だった。

新幹線に乗ることが楽しみで仕方ない奏太は朝6時に起きてしまい、「もういこう!」「はやくいこう!」と言って聞かず、8時半前には家を出た。

3時間半後。西岐阜駅に着くと、母ちゃんの運転する軽自動車が待っていた。


真由美 「奏ちゃん、よく来たね」

奏太  「おばあちゃん、まってたの?」

真由美 「そうだよー。奏ちゃん、新幹線に乗って来たの?」

奏太  「うん!」


奏太と後部座席に乗り込み、軽自動車がゆっくり出発する。


奏太  「うんとねー、おうちから川口駅までバスに乗ったの。それでねー、けいに乗ってー」

   「京浜東北線ね」

奏太  「東京駅に行ってー、のぞみに乗ったの」

真由美 「すごいねー、なんでも覚えてるんだね。お兄ちゃんになったねー」

   「基本移動はだっこだけどね。ぜんぜん歩かないんだもん」

奏太  「だってぼくー、まだ3歳だから」

真由美 「あははっ。そうだよね」


興奮してろくに朝ごはんを食べていなかった奏太が「おなかすいた。らーめんたべたい」と言い出し、俺たちは実家に行く前に直接「おぼろさん」に向かった。

相変わらずなぜか繁盛していて、ちょうど空いた座敷席に座った。


ツヨシ 「はい、いらっしゃい」

奏太  「じいじは?」

ツヨシ 「じいじは引退。今日はラーメンを食べに行ったよ」

   「…ほんっと好きだね」

ツヨシ 「親父は研究熱心なの。新規にオープンしたラーメン店は行かずにいられないの。奏ちゃん、何にする?」

奏太  「おにくらーめん!」

ツヨシ 「はいよ、チャーシュー麺ね」

奏太  「ちがう、おにくらーめんって言ってるでしょ」

ツヨシ 「はいよ、お肉ラーメン、お肉てんこモリモリで!」

奏太  「ふふふ。もりもりでー!」


その後、「こうえんにいきたい」と言う奏太を連れて、近所の公園に向かうと、地元の不動産王・江原が末の娘と砂場で団子を作っていた。

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江原  「あれぇ!? なにしてんの!」

   「そっちこそ、仕事は? 不動産屋が土曜日に遊んでていいんですか」

江原  「いやさー、週末に遊ぶのも大事。だってうち、週末しかがっつり子どもたちと遊べないんだもん。月に1回は嫁と交代で休みにしてんの」

   「そうなんだ。上の子たちは?」

江原  「グランドの方にいるよ」


江原が指さす方に男の子が2人が見えた。

江原のうちは確か、9歳、5歳、3歳だったかな。末っ子は奏太と同級生で、保育園に通ってたはず。

いつものえびす顔で江原が奏太に声を掛ける。


江原  「この子ね、咲奈っていうの。さなちゃん。奏太くん、よろしくね」

咲奈  「よろしくね」

奏太  「………」


奏太は困った様子で俺の後ろに隠れてしまう。


   「奏太、よろしく、でしょ?」

奏太  「………」

   「ごめんね、さなちゃん。奏太はちょっと人見知り、場所見知りがあるんだ。慣れれば元気いっぱいくんなんだけどね…」

江原  「みっつーと同じじゃん」

   「否定…できないね」

江原  「ははっ!」


奏太と咲奈が別々とはいえ、砂場で遊び始めたから、俺と江原は子どもたちを見つつ、砂場のふちに座って話し始めた。


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江原  「あれからどうなったの? 転職と家購入は?」

   「どうにもなってないよ。ただ今日は夜にタカヒロと転職エージェントの土井って人に会うけどね」

江原  「えー、なにそれ。俺も呼んでよ~」

   「絶対やだ。来ないで。まとまる話もまとまらなくなるから」

江原  「ひで~。でも、いろいろ決めるなら早い方が良いよ。転職先は誰か先に決まっちゃうかもだし~、家も売れちゃうかもだし~、幼稚園の募集定員が埋まっちゃうかもだし~」

   「うーん」

江原  「うちはね、桜葉幼稚園に願書だすよ」

   「そうなんだ? 保育園に行ってるんだよね?」

江原  「うん、今はね。ほら、桜葉って延長あるからさ、そっちに移ろうと思って。次男も行ってるし、長男も行ってたし、いろんな体験とかさせてくれる幼稚園ってわかってるからさ。それにほら、やっぱり行事とかの関係で、兄弟ばらばらだと大変なのよ」

   「あー、なるほどね。幼稚園、変わった? 中とか」

江原  「うん、まあね。さすがに俺たちが行ってた頃のまんまじゃないよ。綺麗になったよ。今はすごい人気があってさ。プレに行ってないと入れないらしい」

   「へー…そうなんだ」

江原  「でも安心して」

   「なに?」

江原  「奏太くんはプレに行ってなくても入れるから」


にやりと笑う江原を見る。こういう笑顔をこれまで何度見てきただろうか。

江原は子どもの頃から優柔不断な俺の背中をぐいぐい押しまくってきた。


押されたせいで大人に怒られたこともあるし、押してもらってよかったと思える思い出もある。

今回はどちらに転ぶだろうか――。

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▶︎▶︎ 次回、13話は、3/23(金)20時公開予定!

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※ この記事は2024年04月12日に再公開された記事です。

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