――そして土曜日。その日も冬晴れで冒険に出るには最高の天気だった。
新幹線に乗ることが楽しみで仕方ない奏太は朝6時に起きてしまい、「もういこう!」「はやくいこう!」と言って聞かず、8時半前には家を出た。
3時間半後。西岐阜駅に着くと、母ちゃんの運転する軽自動車が待っていた。
真由美 「奏ちゃん、よく来たね」
奏太 「おばあちゃん、まってたの?」
真由美 「そうだよー。奏ちゃん、新幹線に乗って来たの?」
奏太 「うん!」
奏太と後部座席に乗り込み、軽自動車がゆっくり出発する。
奏太 「うんとねー、おうちから川口駅までバスに乗ったの。それでねー、けいに乗ってー」
満 「京浜東北線ね」
奏太 「東京駅に行ってー、のぞみに乗ったの」
真由美 「すごいねー、なんでも覚えてるんだね。お兄ちゃんになったねー」
満 「基本移動はだっこだけどね。ぜんぜん歩かないんだもん」
奏太 「だってぼくー、まだ3歳だから」
真由美 「あははっ。そうだよね」
興奮してろくに朝ごはんを食べていなかった奏太が「おなかすいた。らーめんたべたい」と言い出し、俺たちは実家に行く前に直接「おぼろさん」に向かった。
相変わらずなぜか繁盛していて、ちょうど空いた座敷席に座った。
ツヨシ 「はい、いらっしゃい」
奏太 「じいじは?」
ツヨシ 「じいじは引退。今日はラーメンを食べに行ったよ」
満 「…ほんっと好きだね」
ツヨシ 「親父は研究熱心なの。新規にオープンしたラーメン店は行かずにいられないの。奏ちゃん、何にする?」
奏太 「おにくらーめん!」
ツヨシ 「はいよ、チャーシュー麺ね」
奏太 「ちがう、おにくらーめんって言ってるでしょ」
ツヨシ 「はいよ、お肉ラーメン、お肉てんこモリモリで!」
奏太 「ふふふ。もりもりでー!」
その後、「こうえんにいきたい」と言う奏太を連れて、近所の公園に向かうと、地元の不動産王・江原が末の娘と砂場で団子を作っていた。
公開 2018年03月20日
妻が応援してくれた。それがなにより心強い。 / 12話 side満(2ページ目)
19,109 View地元の友人でラッパーのタカヒロからの紹介で、転職エージェントK.Dこと土井から届いた名古屋のフォトスタジオの求人に心揺れる満。ワクワクする仕事内容だけど、転職するとなると今住んでいる川口から引っ越しをすることになる。給料も下がる。夢を叶えるために東京に出てきたのに。
迷いながらも満は、転職エージェント土井に連絡をとることに――。
※ この記事は2024年04月12日に再公開された記事です。
連載「家族の選択」
#12
さいとう美如
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