ケンゾーの言葉にふっと息を吐く。

(ケンゾーくんは俺の10個も下だもんな。俺も26歳の頃はそんなもんだった。その軽さが眩しくもあるけどね)

   「……そんな簡単じゃないよ。転職も結婚も。理想と違っちゃう場合のが多いしね。それでも続けていく、っていう自信持てないなら、やめた方がいいよ、結婚」

ケンゾーは顎に手を当て、頭を傾げる。

ケンゾー「そういうもんなんすかねえ。夫婦って、両親のイメージしかないからなあ。ほんと、喧嘩したところ、見たことないんですよ」

俺は完食を諦め、箸を置く。

   「ケンゾーくん。もめない夫婦なんていないよ。子供に見せないだけ。君のご両親がうまくいっていたのならなおさら、二人はいつも色んなことを話し合ってたと思う。沢山話して、時にはぶつかって。それが夫婦だよ。赤の他人同士が一緒になるのは、そんなに簡単なことじゃない」

ケンゾー「そういうもんなのかな…」

腑に落ちない様子のケンゾーを見て、俺はふっとため息を吐くように笑ってしまう。

(また偉そうなこと言っちゃったな、俺。自分のことは棚に上げまくりだ)

ケンゾー「なんですか?」

   「…いや、偉そうなこと言ってるけど、うちもちゃんと話せてるのかなって。相手と向き合わないとね」

ケンゾー「そうなんですか? 仲良さそうに見えるけどな、満さん家族」

   「他人には見せないもんでしょ、そういうの。あとさ、俺、転職は絶対しないよ」

ケンゾー「どうしてですか」

   「それはさ…」

俺はケンゾーに、家族に対する想いを話した。

昨夜は早智ちゃんに育児の愚痴を話した。

でも肝心の相手にちゃんと話せていない。

口げんかにならずに話すにはどうしたらいいんだろう。


◆◆◆


定食屋を出てケンゾーと別れたあと、午後も俺は仕事を黙々とこなした。

(久々の出社で早めに帰るのは心苦しいけど、どうにか定時で会社を出ることができそうだな)

と、思っていたのに――。

15時にそれは起こった。事務所の電話が鳴り、掛けてきたのはケンゾーだった。