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公開 2017年06月23日  

母になっても「自分の人生」をあきらめなくていいと思う。

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産後、吉岡さんが「母」になって感じた危機感とは?


子どもが生まれて「ママ」と呼ばれることが増えた。

夫婦の話題も、友人との話題も、子どものことばかり。

いつの間にか自分のことは後回しになっていた。

「母」となった女性が産後に迎える変化について、産前・産後に特化したヘルスケアプログラムで「産後ケア教室」を展開する、NPO法人マドレボニータ代表の吉岡マコさんにお聞きします。

「産後は世界と隔絶されたようだった」と語る吉岡さんが、ご自身の産後に感じた危機感とは?

これから40年の人生を考えるようになった


―まず、吉岡さんご自身の産後のお話から伺いたいと思います。
 お子さんは何歳になられたのでしょう。


今19歳で、来年、成人式です。

子どもの巣立ちも近いし、私もこれから40年の人生を考えて新しいことを始めようと思って、最近、ダンボールコンポストと農業の勉強を始めました。

本当にプライベートの活動なのでfacebookなどでも話題にしていないから私の身近な人でもまだ知らない人も多いと思うんですけど。

―19歳!もう大学生なんですね。農業は実際に何か育てたりしているんですか?


自転車で15分くらいのところに畑を借りたんです。

―よかったら畑でお話を聞かせていただいても…よいでしょうか?


えっ。いいですけど、今から行きます?(笑)



―という訳で、吉岡さんの畑にやってきました。

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―今は何を育てていらっしゃるんですか?


まだ3畝の小さなスペースを借りたばかりで、土作り、畝立てから始まって、ナス、トマト、ピーマン、キュウリなどの夏野菜を始めとして13種類くらい。

畑のアドバイザーさんが来る日に、手取り足取り教えてもらいながら、週に2~3回畑に通ってお世話をしています。

このね、畝と畝の間の通路がまだガタガタでうまく平らにならないんですよ。

初心者丸出しです(笑)。

産後、「母に」なって感じた危機感

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―楽しそうですね(笑)
 お子さんが生まれた19年前、吉岡さんはどんな産後を過ごされたんでしょう。


妊娠中は、やっぱり妊娠と出産自体が興味の対象だったんです。

でも、それが終わってからは、やっぱり育児がめちゃくちゃ大変だなという感じでした。

そんな中で、自分というものはどうなってしまうんだろうという危機感はとても感じていましたね。

産後の身体もすごくしんどくて。

―危機感ですか。


「私の人生」は、もう来世かもしれないと出産した25歳の時に本当に思いました。

なんだろうな、本当に社会に居場所がないというか、世界と隔絶されたように感じて。

―その「世界と隔絶された感じ」というのをもう少し聞かせてください。


いわゆる「ママト―ク」って、あるじゃないですか。

―えぇっと、赤ちゃんの月齢を聞いて、赤ちゃんの性別を確認して。


そうそう。

夜は寝てます?どんなもの食べさせてますか?というような。

―よくありますね。


そう。私はあれが苦手だったんです。

そういうママトークしかできない集まりに行くと、みんな同じような格好をしていて、赤ちゃんの話をして、その人の顔が見えない会話が続いて。

それが「つまんない!」って感じてました。

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―なるほど…。


同じ雑誌を読んで、同じ子ども番組を見て、歌のお兄さんの話をして…。

私はそういうことに全然興味がもてなくて。

当時、海外ドラマの「ロスト」が流行っていたのですが、その界隈では「ロスト」を見ている人はいなかった。

こんな音楽が好き、この映画が面白かったという話もできる子持ちの大人の友達がほしいと思っていました。

―たしかに趣味の話ってしないかもしれません。


実際なかなか時間がとれないというのはあるんですけどね。

私も、産後数年は全然映画も観られなくて、当時の「映画館に行きたい」っていう欲求は今でもすごく覚えてます。

映画館って暗闇の中でスクリーンをずっと観て、その世界にどっぷり浸かれる時間だからもっと行けばよかったって今は思うんですけど、当時はそのエネルギーがなかったんだと思います。

母になって「できない」と思ってしまうこと

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―子どもが生まれると映画館ってすごくハードル高く感じます。


そうですね。

でも、子どもが小学生ぐらいになったら、やっと映画館に行けるようになって。

最近は年間60回ぐらい劇場に足を運んで映画を観ています。

―60回ですか…!



私、映画の話を教室でもするんです。

それで生徒さんから映画の話や本の話、子どもに関係のない話を赤ちゃんの集まる教室でできるのが衝撃的だったって言われたことがあって。

私の話を聞いて、お母さんになっても映画を観てもいいんだ、タランティーノとかジャームッシュの映画とか観ていいんだ!って気付かされたという人もいました。

―いわゆるママトークをしてるとそういう話って出てこない気がします。


そうですね、敢えて趣味のことは話さない。

でも、趣味の話をすることで、映画に行ってもいいんだって思えて、パートナーに子どもを預けて、レイトショーを観に行ってみて、すごくリフレッシュできたりするかもしれない。

―母になったからできないって、思い込んでしまいがちかもしれません。

私は、出産が早かったり、ひとり親になったり、普通じゃないコースだったので。

それもあってか、周りにもいわゆる普通のコースじゃない人がいっぱいいました。

ヒッピ―みたいな友達や、ひとり親の友達もいて。

そういう子達は、みんな自分の人生を諦めてないって当時の私には見えたんです。

自由で、面白そうで、自分の人生をちゃんと生きていた。

私には、そういう風に選択肢を広げてくれる人がいました。

例えば、私が学生のとき、友達の子どもを朝まで預かって保育園に連れて行き、その間にその友達は自分のしたいことをするということもしたことがあって。

そういう経験は大きかったです。

―そういう人たちに吉岡さん自身の行動や思考が影響を受けた。


そうかもしれないですね。

自分で思いつきもしないような行動を他の人がしていると、そうか私もそうやってやればやれないこともないなって思えるようになる。

そういう風に、行動パターンがちょっと変わるということはありますね。

「母親」という役割を生きる女性たち

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産後ってついつい「母親」という役割を生きがちなんです。

だから、マドレボニータの産後ケア教室でいつも話すのは「母という役割を生きるんじゃなくて、自分の人生を生きる」ということです。

でも、最初はみんなピンとこないみたいな顔をするんですよ。

「私、ママになりたかったし」って。

―わかる気がします。


もちろん母になりたいという欲求は自然なものです。

ただ「母」が自分のアイデンティティの全てを占めなくてもいいと思うんです。

―どうして、「母という役割」を生きてしまうんでしょう。


目の前に赤ちゃんがいて、放っておいたらその子は生きられないという状況では「赤ちゃんの面倒をみるという役割」を果たさざるを得ないですから。

そういう生活が24時間ずっと続いたら、「自分とは何か」と考える暇もないですし、誰からも「お母さん」と呼ばれるような生活の中で、「私はママです、お母さんです」という風になるのは、当然の反応なのかなと思います。

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でも「母」はあくまでも属性です。

だから、教室は「母になった自分を再構築していく場です」と伝えています。

自分がどういう人間なのかということを考え、語ることで、母という属性が増えた自分の新しいアイデンティティをつくっていく。

改めて、「あなたは誰ですか?」「あなたはどんな人ですか?」って問われて、ハッとする。

生徒さんから「教室で問われなかったら、一生考えることもなかったかもしれない」と言われます。

―自分はどんな人かって、パッとは答えられない気がします。

たとえ問われて最初はポカンとなったとしても、人は問われたら考えるんです。

実際に4回の教室の中で、みんな自分の言葉で自分のことを語るようになっていくんですよ。

その姿をみていると「みんな自分の人生を生きているな」って思います。

「自分の人生」を生きることを、もっと頑張っていい

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エクササイズを通して体が回復していくことで「自分はどんな人か」を考える余裕が自分の中に生まれる人は、絶対にいると思うんです。

自分の身体性を取り戻していないと、いわゆる自分らしさみたいなものはあっという間に失われてしまうし、自分らしさを取り戻そうというエネルギ―も湧いてこないですから。

だから、精神論ではなく、産後に有酸素運動をして体を元気にするということにはすごくこだわっています。

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以前、教室でこれから会計士試験を受けますというまだ産後5か月くらいの生徒さんがいたんです。

そういう話をすると「育児が大変な時期だし、今じゃなくてもいいんじゃない」って言われたりすることが多いと思うんですよ。

でも、そんなこと言ってたらどんどん年はとっていくわけでしょ。

だから、教室では「わー!頑張って!」ってみんなで応援しました!

彼女も、すごい無茶なことをしているわけじゃないんです。

スケジュールをよく考えて、赤ちゃんとの時間を最優先にしつつ、赤ちゃんを一時保育に預けられる短い時間に、集中して勉強した。

パートナーからの協力も得て、二人で頑張る喜びも感じた。

その後、本当に試験に合格して、会計士になられました。

―すごい。


教室の4週目、最後の回では、「5年後の私」というテーマで話をする時間があります。

その時に、こんな努力をしてこんなことを成し遂げたいと自分の話をしてくれる人も多くて。

そこはやっぱり、全力で応援したくなります。

―自分の言葉を取り戻したからこそ、語れるテーマですね。

そうなんです。

ここは勘違いしないで欲しいのですが、自分ひとりで頑張るのではなく、やりたいことがあるからこそ、パートナーの協力を得たり、人の力を借りて感謝することを学べる時でもあるんです。

子育てをしながら働くのはラクなことではないですし、例えば職場復帰や再就職をすることも「頑張ろうっ!」と前向きに選択をしていると思うんです。

でも一般的には、まだ頑張らなくていいんじゃない?と言われてしまう。

だから、私たちは「いやいや、頑張って!応援してる!」って言います。

―頑張りたいと思った人は、頑張っていい。

そう。

母になっても「自分の人生」を生きることは、もっともっと頑張っていいと思います。

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吉岡マコ

NPO 法人マドレボニータ代表理事/産後セルフケアインストラクター
1996 年東京大学文学部卒業後、同大学院で運動生理学を学ぶ。
1998 年自らの出産を機に、産前・産後に特化したヘルスケアプログラム「産後ケア教室」を開発。
2008 年NPO 法人マドレボニータを設立。
指導者の養成・認定制度を整備し、16都道県60カ所に教室を展開。
全国に現場をもつNPOとして『産後白書』の出版など調査・研究にも尽力。





(取材・文:コノビー編集部 橋本さやか / 写真:中野亜沙美)

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