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未婚女子に、ちゃんと結婚と育児のリアルを伝えてあげたい私。/連続小説 第9話

未婚女子に、ちゃんと結婚と育児のリアルを伝えてあげたい私。/連続小説 第9話のタイトル画像

風呂場で足を滑らせてしまい、骨折で入院する羽目になったキリコ。夫の会社の後輩であるケンゾーは、彼女の早智にその事を話していた。早速お見舞いにやってきた早智は神妙な面持ちで、キリコにある事を告げた。

ふっ、と目を覚ますと見慣れない天井で、入院したことを思い出した。

四人部屋の狭い個人スペースだけど、幸い窓際だったから、カーテンから漏れる日の光が心地いい。
(今日はすごく良い天気になりそう)

昨夜は腰の痛みと、奏太の心配でなかなか寝付けずにいたけど、処方された痛み止めの薬をベテラン看護師さんに飲ませてもらい、ぐっすりと眠れた。

いつもは夫、奏太、私で川の字で寝ていて、夜中に何度か奏太に蹴られたり、夫のいびきにイラついたり、奏太に布団を掛けたり…と起きてしまう。

なので朝まで一度も起きずに眠ったのは、久々だった気がする。

同室の患者さんも起き、病棟内から声が聞こえてくる。

私は手元に置いてあったテレビのリモコンを取り、スイッチを入れた。

未婚女子に、ちゃんと結婚と育児のリアルを伝えてあげたい私。/連続小説 第9話の画像1

いつもの情報番組が流れ、ちょうどスイーツ占いになった。
(昨日は牛乳プリンを食べ損ねてえらいことになったから、今日は何が何でも食べてやる…)

テレビ 「三月生まれのアナタは…『マドレーヌ』を食べるべし! 小さいお口でまったり食べれば、不安がいつの間にか消えちゃうモコモコ!」

CGで出来た謎のもこもこした白い生き物がそう告げる。

なぜこんな嘘くさい占いを信じているのか…。

自分でも不思議だけど、自分で色々決めることに疲れると、占いでもなんでもいいから頼りたいのかもしれない。

いつもなら朝の家事にバタバタで、「早く朝ごはん食べなさい!」とか、「おかあさんといっしょはニュースが終わってから!」とか、奏太を怒鳴りまくりながら、この占いを見てる時間だ。

奏太は私が居なくて大丈夫だろうか。不安に思っていると…。

テレビがまさかの展開を迎えた。

テレビ 「それではいくモコよ! あなたにとっての神スイーツは…!?」

キリコ 「…え? なに」

テレビ 「じゃーん! ミニストップの瀬戸内レモンマドレーヌ! これで最強モコだよ」

(…ラッキースイーツって、何でもいいんじゃなかったの!?)

いつも奏太に「ニュース見ないよ。つまんないよ」と愚図られ、ラッキースイーツを確認するとEテレに変えていたため知らなかった衝撃事実。
(ラッキースイーツに具体的商品名があったとは…)

愕然としているとテレビ台の上のスマホが鳴り、どうにか手を伸ばし取ると、早智からメッセが来ている。

未婚女子に、ちゃんと結婚と育児のリアルを伝えてあげたい私。/連続小説 第9話の画像2

メッセ 「ケンちゃんから、キリコさんが入院したと聞きました。すぐにお見舞いに行くのは、キリコさんの体がお辛いのでご迷惑かと思いましたが、圧迫骨折は基本、寝ていることが治療だとWikipedhiaで見ましたので、お話し相手にはなれるのではと思っています。それで、お見舞いに行っていい日時と、なにか必要なものがあればお聞かせくださればと思います」

キリコ 「お見舞いにいきまーす、だけでいいのにねぇ。まあ、なんかかわいいけど。…あ! お願いしちゃおう」

早智の回りくどいメッセに思わず笑いながら、「ありがとう。いつでもどうぞ。ミニストップの瀬戸内レモンマドレーヌが食べたいです」と返信した。

――10時半ごろになり、早智がお見舞いにやってきた。今日はまるで初夏のような天気で27度にまで上がると天気予報でやっていたけど…。

(ケンゾー君以外に会う時はなんでもいいのよね、この子は)

早智はボサボサの髪を洒落っ気ゼロの黒ゴムで束ね、胸に「PEACE」とプリントされたくたくたのTシャツに、「なぜその色」と問いたい感じのダサいブルーのジーパン姿だった。

その極端さに可笑しくなりつつも、私は早智の持ってきた花束の香りに癒される。早智は花屋「Blooming」で長年、働いている。

キリコ 「いい香り」

未婚女子に、ちゃんと結婚と育児のリアルを伝えてあげたい私。/連続小説 第9話の画像3

早智  「急な入院でストレスを感じていると思ったので、癒し効果がある香りの花だけを花束にしてきました」

キリコ 「今日、花屋さんお休みなんだ?」

早智  「はい。私は毎週水曜日が休みなんですが、先週の水曜日、パートの中野さんが急なお休みになり、代わりに出勤したので、それで今日休みになりました。急なお休みはとても困るのですが、子どもがインフルエンザでは何も言えません。というか、この時期にインフル? と疑問に思ったのですが、いるみたいですね、まだ」

キリコ 「あー、友達の子も四月に入ってからなったよ、インフル」

早智  「そうですか。あ、無かったらと思って花瓶を持参しました。良かったら使ってください」

キリコ 「ありがとう」

早智  「あと、これマドレーヌです」

キリコ 「きゃー! ありがとう!」

(神スイーツ! これで今日は絶対安泰!)

早智からマドレーヌを受け取りテンション爆上げしていると、早智がそんな私をじーっと見る。

早智  「………」

キリコ 「…こ、これ食べたかったんだー」

早智  「…そうですか」

 (…?)

早智は真っ白な花瓶に花束を飾ると、改まったように椅子に座り、私を見る。

キリコ 「…え、なに、怖い顔して」

早智  「見てください」

この記事を書いた人
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さいとう美如

フリーライター。映像作家の岩井俊二に師事し、2005年にラジオドラマで脚本家デビュー。映画『虹の女神』、恋愛スマホゲーム『花婿ロワイヤル』、そのほか小説、漫画原...

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